反意
「とにかくだ。俺は騎士の誇りに誓ってテレーズを信用することに決めたぞ」
「いいのですか?」
「ああ! たとえ君に処刑されても最後まで信じるからな! これは絶対の信頼だ!」
ゲオルグは胸をドンと叩いて見せると、テレーズは笑った。
「フフ……ありがとう。私もゲオルグを信用します。いえ、させてください」
テレーズは心からの笑顔を見せた。涙の消えた、曇りのない笑顔である。それはゲオルグにとって何よりの信頼の証だった。
「よし、もっと紅茶を飲もう!」
「ええ……そうですね……」
和やかな雰囲気の中で他愛もない話を続けていると、時間はあっという間に過ぎ去っていった。月が輝き始め、城内を照らし始める。
ゲオルグは何杯目かもわからなくなった紅茶を飲み干すと、椅子から立ち上がった。
「おっと、暗くなってしまったな。俺はそろそろ戻るぞ」
「もう、行ってしまうのですか?」
名残惜しそうに下から見つめるテレーズ。ゲオルグは腰を伸ばして背伸びをした。
「ソフィーティアのところに行かないといけない。夜間警護だな」
「そう、ですか……」
「紅茶、美味しかったぞ! また飲みに来る」
扉に向かって一歩踏み出したところで、テレーズが手を握った。
「あの……今日だけ私の夜間警護してもらえないでしょうか?」
「そう言われても困る――うっ!?」
振り返ると、テレーズは今にも溢れ出しそうな程、涙を目に溜めていた。
ゲオルグは頭が真っ白になりかけたが、ソフィーティアの怒った顔が頭に浮かぶ。すぐに冷静さを取り戻した。
「テレーズ、そんな目で俺を見ないでくれ。心配したソフィーティアが俺を待っているんだ……わかってくれるな?」
テレーズは首を横に振る。片手で器用にテーブルの上のロウソクへ明かりを灯した。
ゲオルグは握られた手を可能な限り優しく握り返して離すと、扉に向きを直す。
しかし、足は踏み出せなかった。
「……テ、テレーズ」
テレーズが両手をゲオルグの背中に添え、そっと寄り添ったからである。
ゲオルグは動きを止めた。しかし振り返りはしない。
やがてテレーズの手が伸ばされ、ゲオルグを後ろから抱き締めた。
「お願いです……今日だけでも。あの白いバラは本当に嬉しかったのです」
「じ、実はだな、あのバラはあそこに廃棄していたんだ。すまない……だから……」
「そんな事実、もはや些細な事です……」
「いや、今のは結構衝撃的な事実だと思うんだが……」
どうにも動けないでいると、前方の扉の向こうから足音が聞こえて来た。静かな通路内に反響するその軽い足音は、今まで何度も聴いてきた音だった。ゲオルグにとって、耳慣れているといっても過言ではない。間違いなくソフィーティアの足音である。




