真意と涙
テレーズは視線をカップに落としたまま話す。
「ぎ、逆です! 白いバラを植えてくれた事にお礼を言いたくて呼んだのですが……私の怒りっぽい性格のせいで誤解を生んでしまったようですね……」
「な、なぁんだ! そうだっのか! 俺はてっきり処罰でもされるのかと思っていたんだ」
安堵のため息をつくゲオルグに対し、テレーズは肩をすくめた。
「怖がらせて……すみません……」
「あっ、いや、いい。もういいんだ。謝らないでくれ」
小さい声でテレーズが続ける。
「私、臆病なのです。本当は城内の人々とも仲良くしたいのですが、つい……あなたと初めて会った時も、実は怖くてどうしようもなくて……それで……私は……」
「わ、わかった。もう十分わかった。だからもうこの話は止めよう、うん」
段々と沈み込んで小声になっていくテレーズの様子から、ゲオルグは敏感にテレーズの心境を察知した。しかし彼女の肩は小刻みに震え始める。
「……私はあなたに処刑という恐ろしい宣言をしたのです……混乱に陥っている東ベルンの人間だというだけで怖くて、自分の都合で、なんてひどいことを……」
一瞬だった。しかしテレーズの赤い瞳が潤んでいるのをゲオルグは見逃さなかった。全身から冷や汗が噴き出る。
「お、俺は敵国の城主だから処刑しても間違いではなかったぞ! あ、いや、えっと、処刑は本気で嫌だが、とにかく間違いではないと思う! だから、気にするな!」
「本当にすみませんでした……うう……ひっく……」
ついにぽろぽろと大粒の涙を流し始めたテレーズに、ゲオルグの頭は真っ白になった。
「ああっ!? テ、テレーズ! テレーーーーズっ! それ以上は何も言うな! ほ、ほら、涙を拭け! ええと……この柔らかそうな布で!」
ゲオルグは、自分の首に掛かったままだったナプキンを外して手渡す。
「うう……ぐすっ……ありがとうゲオルグ……」
「誤解してすまなかった。君は相当に悩んでいたんだな」
テレーズは涙を拭いてやや落ち着きを取り戻したが、顔はうつむいたままだった。
「いえ、私が悪いのです。城の者達からも怖がられていますから……」
「やめるんだテレーズ、自分を責めるな。俺まで辛くなってくるから泣かないでくれ」
「そうですか……わかりました」
言葉では了解したが、テレーズは泣くのをとめることはできなかった。
ゲオルグは必死に話題の変更するきっかけを探す。
「そ、そうだ、紅茶をいただこうかな!」
バラの花びらが浮いた紅茶をすする。完全に冷え切っていたが、ゲオルグは精一杯の笑顔を作った。
「美味いっ! こんなに美味い紅茶は初めて飲んだぞ! 俺は幸せだな! アハアハ!」
ゲオルグの下手糞な笑いに、テレーズがようやく顔を上げた。
「ありがとう……うう……ゲオルグは本当に優しいのですね……ぐすっ」
「な、泣くなーっ! 泣かないでくれテレーーーーズ! 俺は女に泣かれると、どうしたらいいかわからなくなるんだぁーっ!」
「す、すみません……つい……」
「畜生……俺まで泣けてきたぞ……すまないがその布を貸してくれ……」
「えっ!? こ、これは使わないほうが……」
言う間もなく、ゲオルグはナプキンをテレーズの手から取って使い始めた。
「なあに、濡れていようが何でも良い……なぜか物凄く豚臭いのが気になるが」
鼻をかんで窓から投げ捨てる。




