白バラのお土産
夕暮れ時の商店街はすでに人がまばらになり、閉店している店が大半だった。夜に向けて落ち着きと静けさを取り戻し始めている。
ニドがまた袋から硬貨を取り出して数え始めた。
「結局使わなかったなぁ、これ」
思い出したようにソフィーティアとゲオルグも取り出した。
「使わないのはちょっと失礼よね」
「そうだな。かといって開いている店は少ないな」
その時、一人の花売りが三人の前に現れる。頭巾で顔はよく見えなかったが、まだ小さい女の子のようだった。ボロボロの服と破けた靴を履いている。
「お花を買ってください……一本でもいいですから……」
花かごにはたくさんの白いバラが入っていた。
ゲオルグは膝を折って屈む。そこで、女の子の手が傷だらけなことに気が付いた。
「どうしてそんなにケガをしてるんだい?」
「東ベルンからバラを取ってくるときに、ケガをしてしまったんです……」
「そうか、東ベルンのバラなのか」
ゲオルグは袋ごと女の子に手渡した。
「買えるだけ全部くれ」
「えっ!? ありがとうございます!」
女の子は笑顔で花かごごとバラを手渡した。
ソフィーティアとニドは、花売りの空いた手へさらに袋を握らせる。
「こ、こんなにたくさん……いいんですか?」
「いいのよ。お姉ちゃんはお金持ちだから」
「オイラなんて、でっかい城に住んでるんだぜ」
三人は適当に理由を付けて袋を渡し、再び城へと歩き始めた。ゲオルグが歩くたびにバラの香りがあたりに漂う。
「困ったな、土産ができてしまったぞ」
「大丈夫よ。テレーズのバラ園の仲間にすればいいわ」
「それがいいな……お、着いたようだ」
はしご状の支柱のある城壁の側へと戻って来た。ニドは南東の塔で使った方法と同じ方法で城壁にロープを結びつけると、城壁の頂上へ登った。そしてはしご状の支柱を伝っていく。見張りの目から逃れるように、なるべく急いで降りた。
「さあ、さっさと植えましょ」
ソフィーティアは花かごからバラを抜き取ると、地面に挿し始める。
「このバラはね、こうやって茎を挿し木すればまた根が出てくるのよ」
ゲオルグが不思議そうにその様子を見つめる。
「うーん……一度切られてもまた再生できるなんてすごいな」
「そうよ。ほら、見てないで手伝って」
赤いバラの合間に、新たに白いバラが植えられた。それにニドが水を掛ける。
「へっへ、ゲオルグの首が切られたら、オイラがここに挿し木してやるよ」
「頼む。俺も再生できるように努力する」
振り返って館に足を向けるソフィーティア。
「できるわけないでしょ。馬鹿言ってないで戻るわよ」
しかし、すぐにその場で立ち止まる。
テレーズが肩を怒らせて立っていた。
「私のバラ園で何をしているのです!」
ソフィーティアの顔に扇子を突きつけて話す。
「三人でここから城壁の外に出たのですか?」
「え、えっと……」
「答えなくともその格好で分かります。盗賊もいなければ脱出は不可能でしょうから」
ニドも振り返り、テレーズの存在に気が付いた。
「お、おいゲオルグ! 眺めてる場合か! テレーズだぞ!」
自分の名を呼ばれたゲオルグが、最後に振り返って青ざめた。
「ゲオルグ! 身代金もまだなのにどういうつもりですか? 何をしていたのです?」
「じ、城下町で買ってきた白いバラを、ここに……植えていたんだが……」
「バラ……?」
テレーズはバラ園に視線を移す。
「こ、こいつらがやったんだからな! オイラは関係ないからな!」
ニドが付け加えると、テレーズは扇子をしまった。
「……わかりました。ではゲオルグだけ、夕食後に私の部屋へ来てください」
早口で言い残すと、館へ戻っていった。
ニドはじょうろを投げ捨て、完全に放心状態のゲオルグの肩をなでる。
「ゲオルグ、お前の骨は一番日当たりのいい場所に埋めてやるからな……」
そして南東の塔へ去っていった。
「ゲオルグ、最後の晩餐は豪華にしてあげるわ……行きましょ」
ソフィーティアに連れられて、夕焼けに染まるバラ園を後にした。




