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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第二章 ひとときの脱出
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白バラのお土産

 夕暮れ時の商店街はすでに人がまばらになり、閉店している店が大半だった。夜に向けて落ち着きと静けさを取り戻し始めている。

 ニドがまた袋から硬貨を取り出して数え始めた。

「結局使わなかったなぁ、これ」

 思い出したようにソフィーティアとゲオルグも取り出した。

「使わないのはちょっと失礼よね」

「そうだな。かといって開いている店は少ないな」

 その時、一人の花売りが三人の前に現れる。頭巾で顔はよく見えなかったが、まだ小さい女の子のようだった。ボロボロの服と破けた靴を履いている。

「お花を買ってください……一本でもいいですから……」

 花かごにはたくさんの白いバラが入っていた。

 ゲオルグは膝を折って屈む。そこで、女の子の手が傷だらけなことに気が付いた。

「どうしてそんなにケガをしてるんだい?」

「東ベルンからバラを取ってくるときに、ケガをしてしまったんです……」

「そうか、東ベルンのバラなのか」

 ゲオルグは袋ごと女の子に手渡した。

「買えるだけ全部くれ」

「えっ!? ありがとうございます!」

 女の子は笑顔で花かごごとバラを手渡した。

 ソフィーティアとニドは、花売りの空いた手へさらに袋を握らせる。

「こ、こんなにたくさん……いいんですか?」

「いいのよ。お姉ちゃんはお金持ちだから」

「オイラなんて、でっかい城に住んでるんだぜ」

 三人は適当に理由を付けて袋を渡し、再び城へと歩き始めた。ゲオルグが歩くたびにバラの香りがあたりに漂う。

「困ったな、土産ができてしまったぞ」

「大丈夫よ。テレーズのバラ園の仲間にすればいいわ」

「それがいいな……お、着いたようだ」

 はしご状の支柱のある城壁の側へと戻って来た。ニドは南東の塔で使った方法と同じ方法で城壁にロープを結びつけると、城壁の頂上へ登った。そしてはしご状の支柱を伝っていく。見張りの目から逃れるように、なるべく急いで降りた。

「さあ、さっさと植えましょ」

 ソフィーティアは花かごからバラを抜き取ると、地面に挿し始める。

「このバラはね、こうやって茎を挿し木すればまた根が出てくるのよ」

 ゲオルグが不思議そうにその様子を見つめる。

「うーん……一度切られてもまた再生できるなんてすごいな」

「そうよ。ほら、見てないで手伝って」

 赤いバラの合間に、新たに白いバラが植えられた。それにニドが水を掛ける。

「へっへ、ゲオルグの首が切られたら、オイラがここに挿し木してやるよ」

「頼む。俺も再生できるように努力する」

 振り返って館に足を向けるソフィーティア。

「できるわけないでしょ。馬鹿言ってないで戻るわよ」

 しかし、すぐにその場で立ち止まる。

 テレーズが肩を怒らせて立っていた。

「私のバラ園で何をしているのです!」

 ソフィーティアの顔に扇子を突きつけて話す。

「三人でここから城壁の外に出たのですか?」

「え、えっと……」

「答えなくともその格好で分かります。盗賊もいなければ脱出は不可能でしょうから」

 ニドも振り返り、テレーズの存在に気が付いた。

「お、おいゲオルグ! 眺めてる場合か! テレーズだぞ!」

 自分の名を呼ばれたゲオルグが、最後に振り返って青ざめた。

「ゲオルグ! 身代金もまだなのにどういうつもりですか? 何をしていたのです?」

「じ、城下町で買ってきた白いバラを、ここに……植えていたんだが……」

「バラ……?」

 テレーズはバラ園に視線を移す。

「こ、こいつらがやったんだからな! オイラは関係ないからな!」

 ニドが付け加えると、テレーズは扇子をしまった。

「……わかりました。ではゲオルグだけ、夕食後に私の部屋へ来てください」

 早口で言い残すと、館へ戻っていった。

 ニドはじょうろを投げ捨て、完全に放心状態のゲオルグの肩をなでる。

「ゲオルグ、お前の骨は一番日当たりのいい場所に埋めてやるからな……」

 そして南東の塔へ去っていった。

「ゲオルグ、最後の晩餐は豪華にしてあげるわ……行きましょ」

 ソフィーティアに連れられて、夕焼けに染まるバラ園を後にした。


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