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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第二章 ひとときの脱出
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悪党退治

 ゲオルグは咳払いを一つして、喉の調子を整えた。

「えー、この世の中には数多くの奇術がありますが、これからお見せするのは――」

 と、やったこともない前口上を雰囲気で進めていると、

「金を出せっ!」

 唐突だった。顔を覆面で隠した男が窓から飛び込んで来る。

「早くしろぉ! 死にてぇのか!」

 袖から刃物を取り出して怒鳴り散らした。人々は悲鳴を上げながら壁際へと逃げる。

 ただ一人、ゲオルグだけがそのままの姿勢で立っていた。覆面の男が刃物を向ける。

「金を出しな!」

 ゲオルグは舌を出してあかんべをした。

「これは調度良い。私の奇術にうってつけのパートナーが来たようですね」

「な、何が何だと!?」

「皆さん。私がこの男を目隠しをした状態で倒してみせましょう」

 テーブルに置いてあったナプキンを顔に巻いて両目を隠すと、ゲオルグは身構えた。

「さあ、どこからでもどーぞ」

「しゃらくせえ! 邪魔するなら容赦しねえぞ!」

 男はゲオルグの顔に目掛けて刃物を突き出す。しかし、まるで見えているかのようにゲオルグは身をよじって回避した。

 続けざまに刃物を振り回して襲い掛かる男。ゲオルグは最小限の動作で軽々と回避する。どうやっても、男の刃物は両目を隠したゲオルグに避けられてしまう。

「ど、どうなってやがんだぁ!」

 男は破れかぶれにナイフを投げるが、あっさりと受け止められた。ゲオルグは床に投げ捨てると、動揺して動けなくなった男との距離を跳躍で詰めると腹に拳を打ち込んだ。

「うげぁっ!?」

 腹を押さえつつ二、三歩よろめいて後退する。

「畜生! おお、覚えてろよ!」

 捨て台詞を吐くと、男は窓から這いずるように逃げ出していった。

 ゲオルグは目隠しのナプキンを外す。

「以上です」

 同時に、拍手と歓声が巻き起こった。

 村長が目を丸くして尋ねる。

「に、兄ちゃん……えっと、今のはどうやっったんだい?」

「落ち着いて。説明をしますから席についてください」

 人々は元の席に座りなおした。ニドとソフィーティアも座る。

 ゲオルグは窓辺に植えられたハーブの葉を一枚だけ摘み取った。

「何かが動けば風が起こります。私はそれを感じ取って刃物を避けていました」

 ゲオルグが葉を空中に投げると、ひらひらと天井まで舞い上がる。

「もちろん、何もしなくとも風は起こりますが……」

 葉は窓から吹き込んでくる風に乗って、村長の飲みかけのグラスの中に着水した。

「風の流れさえ読めればこの通り。これが種明かしです」

「ほえー、大したもんだ……兄ちゃんは風に詳しいのかい?」

「ある程度は」

 村長はハーブ入りの水を飲み干した。

「なら、ここに来る前に東ベルンの風がピタリと止んだんだが、原因はわかるかな?」

「風が……止まる?」

「ああ、間違いない。山風も谷風も吹かなくなって、風車もみんなピタリと止まったんだ」

 ゲオルグはあごに手を当てて考える。

「原因はわかりませんが、それはおそらく何か良くない徴候でしょう」

「そうだろうなあ……色々とおかしなことが起こっているし……」

 村長が深いため息をついたので、ゲオルグは二人の腕を引っ張って立たせた。

「あの、貴重な情報をありがとうございました。二人とも、行こう」

 ゲオルグがソフィーティアとニドの手を引いて立ち上がると、

「ちょっと待っておくれよ」

 村長が重みのある袋を取り出した。

「兄ちゃんが助けてくれたお礼だ。受け取ってくれ」

「こ、これは受け取れません。ここでの生活は苦しいでしょう」

「いやいや、旅芸人の方がつらいだろう。久々に笑わせてもらった。路銀の足しに、ぜひ貰ってくれ」

 村長が無理矢理にゲオルグの手に袋を持たせる。ゲオルグは中身の半分を店員にこっそり渡して、店を後にした。

 歩きながらゲオルグは涙を流す。

「おお、なんという優しい人々なんだぁっ! 俺は感動したぞぉ!」

「そうね。良い人たちだったわね」

 後ろを歩くニドがジャラジャラと音を立てて袋の中身の硬貨を数えている。

「うへへ、結構たくさん入ってら! あのじいさん、なかなか気前が良いな!」

 にやつくニドの頭を、ソフィーティアがコツンと叩く。

「そういう顔をしないの!」

「いーじゃねーか、うへうへへ。仲良く三等分してやるからよ」

 ニドは硬貨を自前の小袋に分けてそれぞれに手渡す。

「でよ、次はどうするんだ?」

「そうだな、やはりもっと詳しい情報が欲しい」

 ソフィーティアが二人の前に出た。

「ねえ、別れてそれぞれ行動しない? 集合場所は……そうね、今いるこの十字路にして」

 調度訪れた十字路の中心を靴でトントンと踏む。ゲオルグとニドも頷いた。

「じゃ、決まりね」

 三人は散らばって行動を開始した。


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