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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第二章 ひとときの脱出
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絶好のチャンス

 その時、上から階段を下りてカールがやって来た。

「何かあったんですか?」

「なな、何もないわ。とても平和よ。今日もいい天気よ」

「そうですか……あれ?」

 窓から垂れたロープをカールが指差した。

「それ、なんですか?」

「えっ!? あっ! これはその、私の洗濯物を干そうと思ったのよ!」

「ああ、だから今日はそんなに庶民的な服なんですね?」

「そ、そうなの! ドレスの代わりに、たまにはこういう服装もいいかなって!」

 カールは笑顔で挨拶すると、最上階の自分の持ち場へと戻っていった。

「ふぅ、危なかったわ……」

 胸を撫で下ろしていると、ニドが慌てた様子で部屋へと戻ってきた。

「何を騒いでんだよぉ! 城壁の下に人がきて作戦が台無しだぜ! 行ったらバレちまう!」

「だ、だってゲオルグが押したんだもの……」

 ふくれっ面のソフィーティアがロープを解いて片付けた。

「そもそもこんな作戦では無理があったのよ」

「じゃあ他に方法があるってぇのか?」

「あるわ。あるのよ。南東のこの場所に人が集まっている今が絶好のチャンス!」

 ソフィーティアは下り階段へと駆け出した。

「急いで! こことは逆の、北西に向かうわよ」

 ソフィーティアを先頭に一行は塔を駆け下り、城壁に沿うようにして走り出した。すぐ上を見上げると、多くの兵士達がカールと話をしていた。ゲオルグ達に気付く様子はない。

「意外と自分達の真下は見ないんだな」

「灯台もと暗しってことわざは、まさにこの事ね」

 走りながら会話する余裕すらあった。

 やがて南東の塔から城壁沿いに三つの塔を通過したところで、ソフィーティアが立ち止まる。ゲオルグとニドもそれに続いて止まった。

「どうしてこんなところで立ち止まるんだ?」

 ゲオルグが尋ねると、ソフィーティアはその口を手で塞ぐ。

「しっ! 静かに! ここからは見つからないようにゆっくり行くわ」

 今度は足音を殺して歩いた。北西の塔の間近に来ると、その手前の城壁にはしごのような棒がいくつも立掛けてあった。その長さは城壁の頂上にまで達している。

「あれよ。あそこを登って城壁を越えるわ」

 棒に近付いてみると、たくさんのバラのつるが絡み付いていた。

「はしご……ではないな。バラのための支柱か?」

「そうよ。テレーズが育てているの。綺麗でしょ」

 二人が真っ赤なバラを眺めていると、ニドが後ろからソフィーティアの手を引っ張った。

「おい、誰かが館から出てくるぞ! 隠れろ!」

「テレーズかしら?」

 三人は城壁から離れ、館の壁際に身を寄せて様子を伺う。

 すると、ソフィーティアの言う通りにじょうろを持ったテレーズが現れた。道脇の井戸から水をくみ上げると、じょうろを使ってバラに水を与え始める。

「テレーズはね、バラが大好きなの」

 優しい子守唄を鼻歌で歌いつつ、丁寧に水を与えていく。やがて作業を終えると、再び戻っていった。

 ソフィーティアが懐から白い手袋を取り出してはめる。

「さあ、バラの支柱を登るわよ」

「オ、オイラ達の手袋はないのか?」

「ないわ。だってこんな作戦になるとは思ってなかったもの」

 そして先行して支柱を登っていくソフィーティアを仰ぎ見る二人。

「うげげ! オイラ嫌だなぁ……」

「バラのトゲが刺さらないように注意すればいい話だ。行くぞ」

 ゲオルグもすいすいと登っていく。置いていかれそうになったニドは支柱に飛びついた。

「とほほ……オイラは身軽だけど繊細な指だからこういうの苦手なんだよなぁ……いてて!」

 文句を言いながらも、盗賊が本職のニドは一番に城壁の頂上へと辿り着いた。兵士達がまだ戻ってきていない事を確認すると、ロープを城壁の外へと垂らす。

 見回りのいない城壁から悠々と脱出し、三人は外の土を踏み締めた。

 ニドはロープを片付けつつ、鼻をすする。

「へへっ、二人とも盗賊の才能があるかもしれねぇなぁ」

「ちっとも嬉しくないわ。さっさと行きましょ」

「けっ! たまに褒めたらこれだ! なんでぇなんでぇ!」

 ニドの愚痴を聞きつつ、三人は城下町へと繰り出した。

 城下の市場は活気のピークを迎えていた。商人達の威勢の良い呼び声が絶えず飛び交い、客もそれに合わせて増減を繰り返す。老若男女、民族や種族を問わず無数の人間が混在していた。

 ソフィーティアが黙って露店のアクセサリー屋に突入しようとしたので、ゲオルグが手を引っ張ってそれを止める。

「ソフィーティア、そこに東ベルンの情報はない」

「けち」

「それより、外部から来た人間が集まりそうなところはないか?」

 ゲオルグは首を回して市場を眺めた。


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