脱出開始
「それを私達に守らせたくて、自分からこの牢屋に忍び込んでわざと捕まったのね?」
「し、知りません。この牢屋の中からお宝の匂いがしたので忍び込んだ訳でして……」
「そんな訳ないでしょ。つべこべ言わずにさっさと出さないとぶち殺すわよ」
ニドがじりじりと後退するので、ソフィーティアは強引に襟首へ手を突っ込んだ。
「服の中に隠してるんでしょ! 見てたんだから!」
「いやぁん! エッチ! やめてぇん! 助けてぇん!」
「変な声を出さないの……ほら、あった」
焔の小太刀がソフィーティアの手に握られて出てくる。
ついでにピートもくっついていた。
「あら、かわいい! この子ももらっちゃおうかしら」
「ピ、ピート、戻って来い!」
ピートはニドの肩へと飛び移った。ソフィーティアが小太刀を眺める。
「とにかく、こんな大層な物は没収よ」
「あーあ! ちくしょう! せっかく盗んだのによぉ! 昨日の尋問でも隠し通したのによぉ!」
不平を言うニドを尻目に、ソフィーティアは小太刀を仕舞い込む。
「ところでゲオルグ、この城から抜け出したいんでしょう?」
「う、聞いていたのか……その通りだ」
「それ、私も連れてってもらうわ」
少し考える素振りをゲオルグが見せる。
「ま、いいだろう。これで堂々と正面の城門から出られる」
「何を言っているの? 私も一緒に逃げ出すのよ」
ニドが悲鳴じみた声を上げた。
「バ、バカ言うな! 素人の面倒なんて二人も見れるかよ!」
「何とかしなさいよ。引き裂くわよ」
焔の小太刀を構えたので、ニドはピンと背筋を伸ばし、黙って頷いた。
ゲオルグがソフィーティアのドレスを見て言う。
「どうでもいいが、そんな立派な服装では目立つと思うんだが……」
「ゲオルグにしては良い意見ね。着替えてくるから待っててね」
彼女はいそいそと塔から駈け出していった。ニドがすっくと立つ。
「チャンスだゲオルグ! あいつがいない間に城を出るぞ!」
ニドが扉に手を掛ける。しかし、扉はビクともしなかった。押しても引いてもまるで動く気配がない。
「ちくしょう! 早く行かねぇと脱出の作戦までパァだぜ!」
ニドが扉に蹴りを入れるが、ほこりが舞い上がるだけだった。外側からかんぬきで固定されているらしく、ビクともしなかった。
その後、二人でどうにかこじ開けようとするが、どうにもならなかった。
時間だけが刻々と経過し、日が頂上に昇った頃。
「おまたせ! どう、似合う?」
扉が開き、赤い毛織物で出来た服に身を包んだソフィーティアが現れた。庶民の間でよく見るごく普通のデザインだ。
ニドが興味なさげに深いため息をつく。
「ソフィーティアよぉ、どうでもいいからさっさと行こうぜ」
「何よ。ちょっとくらいは評価をくれてもいいじゃない」
ジロジロと品定めをするようにニドが見た。
「そんな安物、どっから持ってきたんだ?」
「メイドの棚から内緒で借りてきたの」
「借りてきただぁ? へっ、まるで盗賊だぜ。ゲオルグもそう思うだろ?」
「……」
ニドが呆れるように言うと、返答を待たずにロープを肩に掛けて階段を上っていった。ゲオルグもそれに続いて黙って上っていく。
「何よ二人して! もう、待ってよ!」
三人は塔の三階へと辿り着いた。ニドがロープの先に石を結びつけると、窓から思い切り放り投げる。石は空中で弧を描き、軽がると城壁を飛び越えた。
続いて、ピートがしっぽでバランスを取りながら垂れたロープの上を走っていく。城壁の上に辿り着くと、ロープを器用に城壁の上部へとひっかけた。ニドがロープを引いてピンと張ると、そばにあった大きな本棚の足に縛り付ける。
「これで脱出経路は完成だぜ」
そしてスルスルとロープを伝っていき、あっという間に城壁の上に辿り着いてしまった。手招きをしてゲオルグ達が来るように合図を送ってくる。
「ソフィーティア、行けるか?」
「で、出来るわよ。馬鹿にしないでよね」
ロープを握り、窓際に立つソフィーティア。
「ここ、三階だっけ……?」
下を覗きこんだ彼女は、そのまま固まって動かなくなってしまった。
「ソフィーティア……?」
見かねたゲオルグが肩に手を置くと、背中を仰け反らせて窓から飛び退いた。
「きゃああああっ!? な、なにするのよ!」
「し、静かに! 怖いのなら俺が先に行くぞ」
「ぜ、全然怖くなんていわよっ! ちょっと悲鳴みたいで情けない声が出たけどね、ゲオルグが後ろから押したからいけないのよ! そういうダメよ! やめてよ!」
「わ、わかったから静かにするんだ……バレてしまう……」




