一世一代の命乞い
「いぎゃああああ!?」
ニドが絶叫すると、そのしわはさらに深くなった。
「人の顔を見て悲鳴を上げるのは、失礼なんじゃないかしら?」
「ソ、ソフィーティア様! ご機嫌麗しゅう存じます!」
「全っ然、麗しくないわ。全部聞いたわよ」
ずかずかと大股で入るソフィーティア。武器庫の棚から一式の弓矢を取り出すと、ニドに矢じりを向けて構えた。
「とりあえず死んでもらうわ」
ひゅおうっ!
「わああああっ!?」
悲鳴を上げつつニドが屈むと、その頭上すれすれを矢が通過して石壁に突き刺さった。ニドは一瞬にしてすべての鎖を外す。金属音と共に床へと落ちる鎖。
ソフィーティアが次の矢を構えて弓を引く。
「私の悪口を言っていたでしょ。わがままだとか性格が悪いとか」
「ま、まさか! ソフィーティア様に欠点などあるはずもございません!」
「嘘よ! 背が小さいとか鼻が低いとか言ってたでしょ!」
「い、言ってねぇよバーカ! でも言われてみりゃあ確かにその通り……じゃなくて!」
びゅん!
二本目は足元に放たれた。ニドは這うようにして壁際に避難する。
「ぎぃえええええっ!」
「しぶといわね」
ソフィーティアは笑顔で弓をへし折り、次に手斧を拾い上げた。
「ねえニド。私って世界一かわいいと思わない?」
「お、思います思います! 美の女神だってひれ伏しますよ!」
「あら、本当に?」
「そうですとも! そんな化け物みてぇな怖ぇ顔してたら誰だって……じゃなくて!」
ぼかんっ!
投げられた手斧は石壁を粉砕し、牢屋の外へ消え去った。
「わーっ! 私には病弱で年老いた妹と育ち盛りの幼い母がいるのです! お助けを!」
「何を言っているかわからないわ」
ソフィーティアは最も長大な剣を両手で持つと、ずりずりと引きずりながらゆっくりと牢屋へ進み出した。
「真っ二つにしてあげるけど、縦がいい? それとも横がいい?」
「ゲ、ゲオルグ! お前も殺されるぞ!」
「俺はソフィーティアの配下だから、命の保証はされているらしいが……」
ゲオルグが目で訴えると、ソフィーティアはそっぽを向いて答える。
「さ、さっきはちょっと度が過ぎたかも……一応謝っとくわ」
ニドが感嘆の声を上げた。
「やや! なんとお優しい! その海よりも深い慈悲の心で、私の罪もお許しください!」
「ダメよ。あんたはゲオルグと違って信用できないわ」
「そ、そんなぁ! ぜひともオイラも配下にしてください!」
やった事もないが神に祈るように両手を合わせるニド。
しかしソフィーティアも簡単には譲らない。牢屋の中へと入った。
「あんた、さっき私の配下になるくらいなら死んだほうがマシって言ってなかった?」
「は、配下になって幸せな人生をあと五十年ほど送ってから死にたいのです!」
長大な剣は上段に構えられ、正面にいるニドを狙い定める。
「ゲ、ゲオルグ助けてくれ! オイラ達は同じ牢屋の仲間だろっ!」
「まあ、一応はそうだな」
「わかってんならさっさと助けやがれ! この役立たず! 使えねぇ奴だなぁ! バカ!」
ゲオルグも牢屋の中に入ると、ソフィーティアに構えを解かせた。
「剣を使うときは、利き手を上にして握ると上手く真っ二つに出来るぞ」
「あら、ありがとう」
ニドの顔が青ざめる。
「おいこらゲオルグ! なに余計な事を教えてんだよ! このクズ! 外道!」
「ついでに言えば刃を出来るだけ横に寝かせると、肋骨の間を捉えて心臓を斬り裂ける。おススメだ」
「やめてくださいゲオルグ様! 私が悪うございました! 申し訳ございません!」
縮こまって謝るニドの姿を見て、ソフィーティアは剣を投げ捨てた。
ニドはパッと顔を上げた。
「ゆ、許してくださるのですか?」
ソフィーティアは手を差し出した。
「焔の小太刀を出しなさい。そうしたら許すわ」
「な、なんでしょうかそれは、知りませんね……」
視線をそらすニド。ソフィーティアは更に問い詰める。




