焔の小太刀
どうにか立とうとするロバートだったが、ソフィーティアが止める。
「ロバートは少し休んでいて」
「申し訳ありません……しかしゲオルグは逃亡を……」
「私が迎えに行くわ。元はといえば、やり過ぎた私が悪かったのよ」
脇腹を押さえつつ、ロバートは走り去るソフィーティアの姿を目で追うのだった。
飛び出したは良いものの、ゲオルグの足はすぐに止まってしまった。自分が敵陣のど真ん中にいるという事に気が付いたからである。
城外へと続く城門は兵士にしっかりと守られており、見回りの兵士がそこらじゅうに待機している。本能的に身の危険を感じた。
ゲオルグは自分の城を見るため、南東の塔へと足を向ける。
幸い、塔に見張りはいなかった。扉を手で押すとそのまま軽い音を立てて開く。嫌なカビ臭い空気が中から流れ出した。日中でも薄暗い塔内にはひんやりとした空気が流れている。
「あっ!? ゲオルグじゃねーか!」
突如、自分の名を呼ばれたゲオルグは中を見回す。それは鉄格子の奥からの声だった。ゲオルグが覗き込むと、小柄な体を鎖で繋がれ壁に固定された少年の姿がある。
「お前、ニドか?」
「そうそう! 昨日話をした、盗賊のニドだ!」
彼は明るいオレンジ色の髪をしていた。わずかな光すら反射して光るので、この暗がりの中では一際目立つ。愛嬌のある丸い瞳をキョロキョロと動かしてゲオルグを見た。
「そんなところに立ってないで、こっちに来いよ。ゲオルグに話があるんだ」
「調度良い。俺もニドに話があるんだ」
「じゃあ、ゲオルグから言えよ」
ゲオルグは言われた通りに鉄格子の前に座った。
「話、というよりも頼みだな。城下町に行って情報を得たい。俺と一緒に城を脱出して、またここに戻る……出来るか?」
すると、ニドは鼻で笑った。
「へっ、誰に聞いてんだい? この盗賊ニド様にかかりゃ余裕も余裕よぉ!」
「それは良かった。では、ニドの話を聞こう」
ニドはチャラチャラと鎖を鳴らしながら、縛られた腕をどうにか懐に入れる。そこから一本の小太刀をするりと抜き出した。
「兵士から話を聞けば、お前は本物の城主らしいから言うんだけどよ……」
ニドの手の中で小太刀が鈍く光る。
「こいつは焔の小太刀。東ベルン城、つまりお前の城で起きた事件の発端よ」
「どういう事だ?」
「これがまたとんでもねぇ代物でよ、たったの一振りで辺り一面を火の海に出来るらしいぜ……その力で、東ベルン城の騎士団長が反逆を起こして前城主を焼き殺したって話だ」
「そんな代物が? まあ、反逆の話は信じたくないが、何らかの事件があった可能性は否定できないが」
ニドが手の中でクルクルと小太刀を回す。
「とにかくだ、オイラは事件の話を信じて、東ベルン城からこれを盗み出したってわけ」
「盗賊だから成せる業、ってわけか」
ニドは眉毛をぴくりと持ち上げた。
「でよ、こっから本題。これ、買いな」
「ほう、俺に売るのか? いくらだ?」
首を横に振る。
「言っとくが、金じゃ売れねぇ。城か屋敷を丸ごとくれたら譲ってやってもいいぜ」
「む、無茶苦茶な!」
「買わねぇんなら、お前の城の庭ででも試し斬りして、そのまま火事場泥棒よ」
「や、やめろ! そんな事に使うんじゃない!」
鉄格子の間から腕を突っ込んで奪おうとするゲオルグ。ニドは素早く仕舞い込んだ。
「へっへっへ、どのみち断ったら脱出の手助けもしてやらねぇからな」
「むむむ……」
ゲオルグは口を閉ざしたので、ニドが話題を切り替える。
「そういや、どうやってお前は生き延びたんだ?」
「ああ、ソフィーティアというここの城主に助けられたんだ」
「あの生意気な城主にか?」
「そうだ。その代わりに配下にはなったがな」
ニドは顔をしかめた。
「うぇえ!? あんな奴の配下になるくらいだったら、死んだほうがマシだぜ!」
「そ、そんなに嫌か?」
「当然だぜ! バルガとテレーズがいねぇと何にも出来ねぇヒヨっ子のくせに、生意気だし威張り散らすしわがままだしよ! 何一つ城主らしいところなんかねぇぜ! ゲオルグ、お前はあんな城主にはなるなよ? 民が泣くぜ?」
「だ、だが俺を救ってくれたぞ。そこまで酷い人間ではないと思うんだが……」
ニドの愚痴は止まらない。
「お前、バカか? そんなわけがねぇだろ!? あいつの顔を見た瞬間に寒気がしたぜ! 顔に性格の悪さがにじみ出てんだよ! 頭も悪そうだし幸薄そうな雰囲気も出てるしよ、まさに早死にしそうな人間の――」
そこまで言うと、
ばぁん!
塔の扉が蹴破られる。
眉間にしわを寄せたソフィーティアが腕を組んで立っていた。




