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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第一章 敵国、西ベルン城へ
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忠犬ゲオルグ

 ソフィーティアが扉を開ける。大きな花瓶が飾られたテーブルや美しい装飾の施された鏡、天蓋の付いたベッド……。その他にも様々な家具や装飾品が置かれていた。

「そこに座ってもらえる?」

 ゲオルグはソフィーティアに促されて椅子へと腰掛ける。

「いやあ、まともな部屋に来ると安心するなぁ!」

 大きく背伸びをするゲオルグを見て、ソフィーティアが微笑みながらその正面に座った。

「フフ……ところでゲオルグ、少し話がしたいの。いい?」

「ああ。いいぞ」

 椅子にもたれてくつろぎながら、ゲオルグが尋ねる。

「で、何だ?」

 ソフィーティアはテーブルに肘をつき、手の平にあごを乗せた。

「とりあえず、私の配下になったんだからすぐに死ぬようなことはないと思うわ。ただ、テレーズやバルガはどう動いてくるか分からないの」

「そうだな。気をつけよう」

「だから、さっきのみたいな勝手な行動はやめてよね」

「おう……だが、なぜお前は俺に色々と親切にしてくれるんだ?」

「私、忠実な配下が欲しかったの。それだけよ」

 あっさりと答えたソフィーティアにゲオルグは面食らったが、単純な理由だったので安堵する。

「なんだ、それだけなのか……いいぞ、忠実に仕えてやるから何でも言ってくれ」

「じゃ、三回クルクル回ってワンって鳴いてもらえる?」

「ふむふむ三回クルクルでワンワン? そんなの簡単……んん、なんだとっ!?」

 驚きで椅子から落っこちたゲオルグは、目をぱちくりさせながらソフィーティアを見る。

 彼女は薄っすらと笑みを浮かべたままだった。

「だから、いーい? 三回だけ回るの。そしたらワンって元気良く鳴くの。難しい?」

「難易度の問題じゃない! ソフィーティア、俺は――」

「私は忠実な配下が欲しいって言ったのよ?」

 反論を遮るソフィーティア。良く見れば、冗談を言う顔ではなかった。

 ゲオルグは腕をわなわなと震わせる。

「一城の城主である俺が犬の真似事だと!? 冗談ではない! 断る!」

「仕方ないわね……ロバート! ロバート!」

 ソフィーティアが叫ぶと、すぐさま扉を叩く音が聞こえた。

「お呼びですか?」

 入ってきたのはかなり大柄な男だった。着ている服も十分に大きいはずだが、それをはち切れんばかりの筋肉が内部から盛り上げている。いかつい顔つきに固く結んだ口。短く切りそろえられた髪に少しの口髭。歳はゲオルグよりも二回りほど上に見えた。

 その男、ロバートに向かってソフィーティアが静かに命じる。

「ロバート、そこの彼に軽くお仕置きして欲しいの。新入りの配下、ゲオルグよ」

 とても優しそうには見えないその男は、視線をソフィーティアに向けながら、

「彼、ですか?」

 ゲオルグを指差した。

 目の前にちらつくその指が気に食わないゲオルグは、威嚇するように歯を見せて睨む。

「やれるもんならやってみろ!」

 ドカン!

「うぐあっ!」

 指差していた手はグーに握り直され、そしてゲオルグの鼻っ柱を正確に捉えた。

「これでよろしいですか?」

「うん。ありがとうロバート」

 あくまでも彼の視線の先にはソフィーティア、であった。

 ゲオルグは鼻を押さえつつわめく。

「くそっ! 油断した! まさかそのまま殴るとは……」

 対照的に、優しく微笑むソフィーティア。

「ゲオルグ、さぁ、回って見せて?」

「ふざけるな! 絶対にやらないからな!」

「じゃ、ロバートにもう一度お仕置きしてもらうといいわ」

「フン、同じ手が通用するとでも思っているのか! 俺は――うぐおっ!?」

 しっかりと顔面をガードするゲオルグだったが、がら空きの腹にロバートの足がめり込んだ。

「おおおお……」

 立っているのもやっとのゲオルグに、ソフィーティアから三度目の命令が下る。

「もう言わないわよ? 回って」

 フラフラとよろめきながら三回転し、床にぱたりと倒れた。

「ワ……ワ……ワン……キャインキャイン……」

「よく出来たわゲオルグ! ご褒美に私の手作りクッキーをあげるわ!」

 ソフィーティアがゲオルグのぽっかりと開かれた口にクッキーを投げ入れる。

 しかし、ゲオルグに顔へ向かって吐き出された。

「ロバー……やっぱりいいわ。自分でやるから」

 ソフィーティアは馬乗りになり、窒息するまでクッキーを詰め込んだのだった。


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