敵国、西ベルン城へ
プロローグ
黒い森が生い茂る山岳地帯、メルメト。
この自然豊かで大小さまざまな山々を抱えるこの地を治める城が二つあった。
一つはゼラ国の西ベルン城。
広大な領地に巨大な城を築き、この山岳地帯のすべてを治めているといっても過言ではない勢力を保持している。
そしてもう一つがブレシア国の東ベルン城。
こちらは城も小さく貧弱。豊かな領地もこれといった産業も特にない。
比較してしまえば褒められる要素は見つからない残念な城である。
そして今、この西ベルン城と東ベルン城は抗争状態の真っ只中にあるのだった。
「おお、ようやく俺の城が見えてきたぞ!」
この二つの城を結ぶ山道を、一陣の風が吹き抜けた。
その風の中を一人の少年が馬を駆って走り抜ける。
緑がかった黒髪と鋭い眼光を放つ緑の瞳。
平均的な体躯だが細く締まった無駄のないその体を、美しく磨き上げられた鎧に包んでいた。
そして胸には金獅子の紋章が縫い付けられた陣羽織。
代々続く家紋である。
やがて馬は硬く閉ざされた城門の前で足を止めた。
「長旅ご苦労だったなシェルバ! 後で腹一杯食わせてやるからな!」
名前を呼ばれた黒毛の馬はブルルと一鳴き。
馬上の主人は門に向かって大声で叫んだ。
「よーし! 門を開けてくれ! この城の新城主が到着したぞ!」
声は辺りの森にまでたっぷりと響き渡ったが、門は開かなかった。
再び静寂が訪れる。
「おい、聞こえないのか! 早く開けろ!」
もう一度叫ぶと、城の頂上の見張り台から非常事態を表す警鐘が鳴らされ始めた。
カーン、カーン、カーン!
「なんだ? どうして警鐘が鳴らされているんだ?」
などと考えているうちに、無数の兵士達がゾロゾロと集まり始めた。
叫ぶ新城主の周りを彼らが取り囲むように陣を組むと、集団から一人、馬に乗った騎士が現れた。
ツルツルと禿げ上がった頭と、熊のように太った体。
その男は印象の悪い威圧的な口調で尋ねる。
「貴様は一体、何者だ!」
「俺は今日からこの東ベルン城の新城主になる、ゲオルグ・オートマイヤーだ!」
「馬鹿めが! ここは西ベルン城だっ!」
そう言われ、周囲を見渡す。
取り囲む兵士達がジリジリと詰め寄ってくる。
各々が鋭い睨みを利かせ、歓迎のムードなど皆無である。
ゲオルグはようやく自分の置かれている状況に気が付いた。
「ひょっとして……俺は間違えて敵国の城に来てしまったのか!?」
「その通りだっ! 全軍突撃ーっ! こいつを捕まえろ!」
「ちょ、ちょっと待っ――どわぁぁぁぁっ!?」
こうして東ベルン城の新城主は、就任初日に敵国に捕らえられてしまったのだった。




