第5話 すれ違う一途な俺たち
まだまだクラスの団結には遠い
俺がさやちゃんに球技大会の件で啖呵をきったことはクラスの誰もが知らない。
なので、例のエロオタゴリ、黒い3連星には伝えておいた。
「はぁ!?」
「意味が分からないね」
「マジで言ってるのかよ!?」
三者三様の反応だけど、全員意味は同じだ。
「まず、俺はスポーツとか暑苦しいのやりたくないから」
エロは首を横に振り続ける。
「僕は言わずもがな。文化系だからね。あと、勝つ算段とかあるのかい? 相手クラスの情報知ってるとか」
「いや」
「勝つための必勝の策があるとか?」
「…いや」
「俺はバスケ部だからバスケには出れねえけど、バレーならまあ力になれそうだ。でもこういっちゃ難だけど俺のほかのバスケ部員とか化け物ぞろいだぞ、俺と比べりゃ。だからまぁ俺もそこまで役に立てそうにない」
ゴリも自信がないみたいだ。
みんなを巻き添えにしたことは俺が悪い。
だから攻めることなど出来はしない。
ならばやることは一つ。
「俺ががんばるよ」
「とはいってもなー、お前なんか部活やってたの?」
「小学校のときにサッカーと野球をやってた。中学と高校は…何もやってないな」
「それでがんばるなんて無理あるよ。現実的に考えても、君より活躍できるクラスメイトなんてたくさんいると思うんだよね」
「…」
確かにオタのいうことはもっともだ。
中学と高校で運動部に所属してたやつらなんてたくさんいる。
そんな生徒に勝てるぐらいのことを俺はやっていない。
「ならやることは一つしかない」
俺は頷きながら腕を組む。
「トレーニングだ」
「と、いうわけでこれにて球技大会についての打ち合わせ終了ねー」
ミナミナ先生がHRの終わりを告げる。
「って…なんでアンタ全種目に名前入れてんのよーーーーー!!!!」
佐久間智美が俺を指差す。
「俺はまやさんのためにこのクラスを勝たせたい。だから全部出る!」
「だからって意味分からないし!! しかも体力保つの!? そのうえそのアンタが戦力になる保証がどこにあんのよ!?」
「俺の力で勝たないとだめなんだよ、この大会は…」
「はぁ?」
俺は哀愁を漂わせながら言う。
「この大会…俺とまやさんの結婚がかかっているんだ」
「は?」
「え」
佐久間智美とまやさんが同時に声を発する。
「柊お前!! 親衛隊副隊長である俺、南野悠馬の前でよくもそんなことが言えるな!!」
「これ見よがしに自己紹介してるね」
オタがぼそっと呟く。
「ならばもう一度言おう。この大会で俺は、まやさんを手に入れるってことだよ!!」
「お断りです!」
まやさんのカットが入る。
「そんな不純な動機で大会に参加するなんて、見損なったわ!」
「え…」
「球技大会はあなたの玩具でもないし、ましてやクラスみんなでやることを自分ひとりの力でって言うなんて…もう私に何も話しかけないで」
「そ、そんな…俺は…まやさんのために…」
「迷惑です」
「…わ、分かりました」
俺はそのまま鞄も持たず教室を出た。
正直頭が真っ白になった。
前に一度嫌われているのではないかということで、精神的にやばかったが、今回はさらにきつい。
見損なったといわれたのだ。確実に嫌われた。
「空回りだな…」
「柊和人、こんなところでどうしたんだ?」
「渚先輩…」
俺が廊下で黄昏れていると、渚先輩が話しかけてきた。
「すごい顔してるな。球技大会があるからトレーニングするって言ってなかったか?」
「…そうなんですけど、もう俺は頑張れないかもしれないです…」
「はぁ…お前のその感じ、どうせ蓮見まやにきついこと言われたのだろ?」
「…分かりやすいですか?」
「そうだな。何を言われたかは知らないけれど、一度決めたことを投げ出すのは良くないぞ」
「球技大会での俺の目的や考えを全否定された挙句、見損なったといわれたんです…正直球技大会がんばれる自信がないんです」
ふうと渚先輩は息を吐く。
「ま、好いた女性に否定されて落ち込むのは一般的だ。軟弱とは言わん。でも、それで投げ出して蓮見まやは喜ぶのか? そっちのほうは軟弱ではないのか?」
「…そうかもしれません」
「ま、とりあえずいつものように身体を動かして、少し忘れてみるのがいいと思うぞ。一石二鳥だ」
「…はい」
俺は気持ちを落ち着けるためにも更衣室のほうへ向かっていったのだった。
そして、俺が出て行った後の教室では…
「まやも言うときは言うのね。最近まやがあいつに何も言わないから、ちょっと気に入ってるのかと思っちゃって心配してたのよ」
佐久間智美がまやに話しかけた。
「私はチームワークや秩序が団体戦では大事だと考えてるだけ、それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ま、確かに球技大会はチームワークが大事だもんね」
「でもさ、あそこまで言う必要は無いんじゃないの?」
エロがこれ見よがしに大声で言う。
「何よ、アンタ文句あるの?」
「いやいやー。そんなことより蓮見さん、あなたの言ってることは正しいと思うけど、それ理想論だから」
「工口!! お前、蓮見さんに何てことを…!!」
親衛隊の南野が席を立ち、エロを睨みつける。
「蓮見さん、もしもクラスのみんなが蓮見さんみたいにチームで頑張って勝ちたいって思ってればあんたのいうチームワークは正しいよ。でもな、俺は別に球技大会とかどうでもいいし、みんながやるから仕方なくって考えてるやつもいるんだよ。そんなひとりひとりの考えや目的を無視したチームワークなんて本物のチームワークって呼べるのかよ? みんなで頑張って勝とうって鼓舞するのがあなたの仕事なんじゃないのか?」
「…」
蓮見まやがしばし考える。
「チームがあるから個人がいるんじゃない。個人がいるからチームがあるんだろ? ま、俺はあいつの考えはやっぱり不純だと思うし、クラスの人全員を無視してるって思われても仕方ないとも思う。でも、あいつの考えを頭から否定してチームチームっていうのはおかしくないか? あいつはチームに入っていないのか?」
エロは少しため息を吐いて席に座る。
「え、えーと…じゃ、HRはこれで終わりってことでー…解散!!」
ミナミナ先生が逃げるようにHRを終わらせた。
「あ」
「逃げたな」
「…」
「まや、あいつの言うことなんて気にすることないって。いっつもエロイこと考えてるやつよ?」
佐久間智美がまやをなだめるように言う。
内心ではエロの言うことに一理あると思ってはいるものの、まやがショックを受けているのではないかと心配した。
「ありがとう、智美。でも工口君の言うことは正直心に響いたの。私、チームって言いながらも一人一人のことは考えてなかったわ。工口君すごいわね。中学のときとか運動部とか組織に所属してたのかな。智美、同じ中学じゃなかった?」
「…さぁね、知らないわ」
佐久間智美は昔のことを思い出そうとしたがすぐに止めた。
工口との思い出など、振り返りたくなかったからだ。
「私、柊君のこと探しに行くね」
蓮見まやは少し元気なさげに微笑み、席を立つ。
「彼の話、きちんと聞くわ」
それでも決意を秘めたまなざしには迷いなどなかった。
自分の間違っていることは素直に認める、それが出来る彼女は子供の中でも比較的大人なのであった。
「工口君。ごめんなさい。あと、ありがとう」
「いいよいいよそんなことは…ったく柄にもないことを言っちまったぜー」
「本当にね」
佐久間がちょっと微笑みながら言う。
「うるせー」
まやは最後に一礼して、教室を出て行った。
しかし、まやはすぐに俺に会うことが出来なかった。
なぜならその日、俺はある事件に巻き込まれたからだ。
「柊和人、あなたを体操着泥棒の容疑で風紀委員会へ連行いたします」
俺にとってこの事件はある種のターニングポイントだったのかもしれない。
あとがき劇場
美空「それでは本日もあとがき劇場の時間がやってまいりました! 今日は佐久間智美さんです!」
智美「どうも」
美空「さて、さっそく質問なんですけど」
智美「あの、こんなこと聞いていいのか分からないんだけど、私より先に出ないといけない人いるんじゃないの?」
美空「え?」
智美「第1回は変態(柊和人)、第2回は委員長、第3回は渚先輩、第4回はさやちゃん…」
美空「え?」
智美「え? じゃないでしょうーーーーっ!! まやはどこいったのまやは!?」
美空「ああまや先輩は出番多いと思うのであとがき劇場には呼びません」
智美「はああああ!?」
美空「ここに呼ばれるのは本編で大した活躍できない脇役…」
智美「ふんっ!!」
バキッ
美空「ああああ私のボイレコがああああ!!」
智美「帰らせていただきます」
美空「後輩いじめだあああああ」