第3話 土下座る軟弱者
主人公ギャグは書き馴れてないです。
委員長のキーホルダーの件から数日経った。
委員長からは避けられにくくなったが、周りの俺への対応は相変わらず。
「またセクハラしてるのか! 軟弱者め!」
「ぐはぁぁぁぁ!!」
風紀委員長の渚先輩からは殴られ蹴られ。
「まやさんを守れ~~~~~!!」
「お前ら集団で襲うなし!」
親衛隊には追い掛け回され。
「この変態! 私の半径5km以内にいないで!!」
「学校のほとんどアウトじゃねーか!」
クラスメイトの佐久間に罵られ、侮蔑され。
「…いい加減に学習しなさい」
「うっ…」
まやさんには近づく前に蹴られる。
そう、本当に真に遺憾ではあるが、俺は学校中ではみ出し者扱いをされている。
「というかこんな扱い受けてもめげないのは逆にすごいね」
オタがPC画面から目を離さずに言う。
「ふっふっ…心の強さなら…ふっふっ学校で一番…ふっふっじゃねーか?」
ゴリが腹筋しながら語る。
「お前は何でここで筋トレしてるんだ? バスケ部でやれよ」
「ふっふっ…真の漢たる者、常に己を鍛えるべし…だ。それにあそこに…ふっふっ俺の居場所は…ふっふっない」
ゴリは一応バスケ部に籍を置いているが、部活に出たところを見たことがない。
理由を聞いても居場所はないと語るのみ。まあ中二病なのだろう。
「というか、お前蓮見まやに嫌われてるとか考えたことなかったのか?」
「…え?」
そして俺は人の話を聞くことを止めた。
「いやいや現実を見ろよ!」
エロが何か言っているが、俺には関係のない話だろう。
「お前、好きだった女に嫌われるって結構傷つくことだぞ? マジで考えておけよ!!」
「…わたくしがまやさんにきらわれるなんてことあるはずないじゃないですか」
「棒読みになってんぞ」
「え、ナニヲイッテイルノカナー」
「まぁ現実なんてクソゲーだし、僕は現実見なくてもいいと思うけど」
オタは顔だけこっちに向けて語る。
「君も気がつくはずさ…二次元が最高だということに」
「かっこつけてるけど、言ってる内容はむなしいぞ!」
エロがツッコミを入れるも、俺の耳には全く届いていない。
正直考えられない。
いや、考えたくないのか…?
まさかあるはずないよね?
俺がまやさんにき…
「んかんのど飴でも買ってあげれば解決じゃね!?」
「とうとう壊れてしまったか」
「あぁ…これは重症だ…」
俺はフラフラと部屋を出て、廊下をさまようことになった。
その俺の特異なオーラに親衛隊も先生も何も話しかけず、素通りするだけだったらしい。
「あいつ…目が死んでるわ」
佐久間氏は俺についてそう語る。
「あれは自殺しそうな人の顔ね」
さらに当時の俺をそう振り返って語った。
しかし、そんな俺に話しかける猛者はいるものだ。
「おい柊」
「う?」
「目が死んでいる。おかげで女子生徒が怯えている。一体どうしたんだ?」
「な、渚センパイ…渚センパーーーーーーイ!!!」
「ど、どうしたんだ本当に!?」
俺は人目もはばからずその場に崩れ落ちた。
「俺は…俺は…まやさんに嫌われているのでしょうか!?」
「なんだ、そんなことか」
「え? なんだってどういう…」
「一般的に男子にセクハラされて好きになる女子はいないぞ。むしろ嫌がるだろうな」
「ああっ!! 俺はなんてことを…」
「今さら何を言っているんだ!? 気がついていなかったのか!?」
「だって…だって…俺はまやさんが好きなんだ~~~~~!!!!」
もはや会話にすらなっていないレベル。
「はぁ…お前、蓮見まやが本当に好きなのか?」
「大好きです!!」
「じゃあ蓮見まやの好きなものを言ってみろ」
「え…」
まやさんの好きなもの…
趣味は…お嬢様なら生け花とかかなー?
好物は…大和撫子そうだから和食かなー?
好きな科目は…女の子だから家庭科かなー?
「生け花! 和食! 家庭科!! かも」
「それは誰かに聞いたことか? それともお前が考えたことか?」
「それは…あ! そういえば全部勝手に思ってることです!!」
「お前は彼女のことを知ろうともしないくせに好きだといってるんだ。それって本当に好きっていえるのか?」
「…」
ショックだった。
俺の気持ちが否定されたことではない。
こんな簡単なことに気がつかない自分自身にだ。
「お前は蓮見まやという存在や容姿に惹かれたに過ぎない。それはただのミーハーなファンと同じだ」
「お、俺は…まやさんのことを本気で好きって思っていないのか…?」
「それはお前にしか分からない。ただ、現状私を含めこの学校にいる人全員はそう思っているはずだ」
「…ふぅ」
不思議なほどに頭はクリアだった。
今までの自分の行動を思い出す。
初対面の人へのハグ。
好きだといって追い掛け回したこと。
「俺、謝ってきます」
「まったく…どうしてそんな基本的なことを…」
「渚先輩。最初会ったときはただの暴力が好きで人のことを傷つけ嬲ることが趣味のドS悪魔だと思っていましたが、いい人だったんですね!」
「お前、蹴られたいのか?」
「はい」
「うわぁ…それはちょっと引くぞ」
渚先輩が後ずさりをする。
「俺がしてきたことに比べたら、蹴られることなんて大したことじゃない」
「…そうか」
「俺がしてきたことは世界中の“I love you”を軽くしてしまった…世界中の人々への冒涜だ…」
「いや、そこまで思いつめないでも…」
「だからお願いします!! 俺のことを蹴って蹴って蹴りまくってください!! 俺が痛いって言っても止めずに、見下し罵りながら蹴り嬲ってください!!」
「おいちょっと周りに人が…」
「え?」
いつの間にか俺の周囲に人だかりが出来ていた。
なお、客観的に見ると、男と女のSMプレイに見えている。
「やっぱりあの人って変態なんだ…」
「でもあの渚先輩もまさか蹴ることに快感を覚える変態とはなー…」
「だから風紀委員長やってるんじゃないの?」
「うわー…両方ともマジ引くわー」
ヒソヒソの大声が俺と先輩二人に届く。
「わ、私は…」
渚先輩が言い訳をしようと話し始めるが、言葉が続かない。
「渚先輩は悪くないんです!! 悪いのは全部俺だ!! 別に渚先輩じゃなくても俺を蹴って蹴って蹴りまくってくれていいんだぞ!? そこにいる君も! 君も! さあ君も!!」
「キャ~~~~!!!!」
「変態~~~~!!!!」
俺の叫びにみんなが蜘蛛の子を散らすように消えていった。
「…私をかばってくれたのか?」
「え? 俺はみんなに蹴られたかっただけなんですが…」
「…さっさと蓮見まやに謝ってこい!!!」
「ぐはっ!!」
俺は渚先輩に背中を押され(蹴られ)てまやさんの元へと向かっていった。
俺が教室に行くとまやさんは確かに席に座っていた。
だがしかし、まやさんを含め、まやさんの取り巻きたちは俺のことを蔑んだ目で見ていた。
「ど、ドウシタンデショウカ」
「どうしたこうしたもないわよ!! この変態!!」
佐久間智美がまず俺を罵る。
「さっきあった廊下の件、親衛隊の人たちから聞いたからね!!」
取り巻きたちが俺を睨みながら叫ぶ。
「え、俺が蹴られたいっていってたこと?」
「当たり前でしょ!! あなたが近くにいると変態が移るわ!!」
「え…変態が人に移るわけないでしょ? 何をおっしゃってるんでしょうか」
「う…そ、それはそうだけど…って真面目に返してるんじゃないわよ!!」
「ぐはぁ!!」
佐久間智美の蹴りが炸裂した。
「ってそんなスタントマンみたいなことをしにきたわけじゃない!!」
俺はその場に正座をする。
「まやさん、ごめんなさい」
「え?」
「はい?」
俺の土下座にみんなが呆気に取られる。
「アンタただのドMなの?」
「…」
「スルーすんな!!」
佐久間智美が俺を怒鳴りつける。
しかし、それに対応している場合ではない。
「まやさん、今まで自分がしてきた行動を振り返りました。すると何ということか、まやさんに迷惑をかけていることに気がついたのです。そして私は好きといってあなたに抱きつくだけで、あなたを知ろうともしなかった。ただただ子供のように好きを押し付けているだけ」
「…」
あまりの俺の豹変振りにこのときのみんなは何もしゃべれなくなっていた。
思えばこれが本当の始まりだったのかもしれない。
「だからこれからはまやさんをもっと知ろうと思います。もっとまやさんの気持ちを大事にしていこうと考えていく所存です」
「え? え?」
「…」
佐久間智美はただただ混乱し、蓮見まやは静かに俺の言葉を聞いていた。
「だから…俺とデートしてください!!」
『…は?』
クラスの9割9分が頭に?マークを浮かべた。
「あなたをもっと知るためにこれが一番だと思ったのです!!」
「デ、デ、デ、デデデデデートオオオオォォォ!? まや! だめよこんな男とデ、デートなんて!! まやはアンタとなんか行かないわよ!! っていうか何でそんな結論になるによ!? どういう思考回路してるのよ!!」
「…」
焦る佐久間と対照的にまやさんはあごに手を当てて考える。
「まや!? 冷静に考えて!! こんな男とデートだなんてきけ…」
「智美、ありがとう。でもこれは私が誘われてることだから。私が決めるわ」
まやさんはふっと笑いながら佐久間智美の肩に手を置いた。
「え、まや…まさか…」
佐久間智美の言動に多少傷ついたが、まやの期待させるような言動に少し気持ちに余裕があった。
「柊和人君。申し訳ありませんが、お断りします」
しかし現実は無常である。
「まや!」
「…!!」
佐久間智美はホッとして明るい顔をし、俺は呆気にとられていた。
「私もあなたのことをよく知らないけれど、デートなんてせずクラスメイトとしてゆっくり知っていこうと考えています」
「え…」
「まや?」
まやさんはそう言って席を立つ。
「それじゃ」
「あ…」
まやさんはそのまま背中を向けて教室から出て行った。
「まや!」
佐久間もまやさんに付いていき、教室から出た。
そして俺はというと、腕を組みながらしばし先ほどの言葉を考える。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………断られたってこと?」
「それ以外ないだろ!!」
いつの間にか戻ってきていたエロたちが俺にそう叫んだ。
この日からまた俺は親衛隊に目をつけられたのは言うまでもなかった。
あとがきげきじょー
美空「はいはいはいー。今日も始まりましたよあとがきげきじょー。今日は風紀委員長の渚佐和子さんでーす」
渚「…心なしかやる気が感じられないのだが」
美空「昨日、競馬負けたんですよねー。はあ」
渚「何いいい!? 未成年がそんなことしてはいけないぞ!!」
美空「はあ…今日はもう終わりにしましょうかねー」
渚「待て待て待て! せめて何か質問してくれ!! 私何のためにここまで来たのだ!?」
美空「わかりましたー。明日の天気は何だと思いますー?」
渚「うーん。晴れかな。じゃなくて!! もっと私に関係する質問をしてくれ!!」
美空「そんなに自分語りしたいんですかー? じゃあしょうがないですね。今までの人生を漢字一文字で表すとー?」
渚「…渚」
美空「以上、あとがきげきじょーでしたー」
渚「あああああ今日はもういいからまた呼べえええ!!」