第1話 不純一途な転校生
まだ読み切り部分の連載となります。
転校…それは友達との別れを意味する言葉。
俺には全然縁遠かったこの言葉。何せ俺は転校どころか引っ越しもしたことが無い。
そんな俺がつい先ほど珍しい経験をした…それが「転校」
友達との別れもあった…仲のいい友達との別れはやはりつらい…
「…むふふ」
辛い…が!
「むふふふふ」
今の俺の心は全然悲しくない。
何故か?
俺は今日からとうとう共学校に通えるのだ!
何が楽しくて男子校通いだ!?
女の子いないんだぞ!?
文化祭の時にいろいろ頑張るぐらいしか無かったんだぞ!?
「あぁ…そんな俺に女神がほほ笑んだのだ…」(※外で一人でしゃべってます)
おっと…まだ気が早いな。
今は登校中だ。特に同じ学校の女子にこんなところを見られてはいけない…
頭のおかしい奴だと思われてしまう。
申し遅れました。私、柊和人と申します。
今日から高校2年生である。
転校先の学校は光芒学園という進学校である。
色々あって親戚のお姉さんの家に居候させてもらい、ここに通わせていただく次第でございます。
さて、自己紹介も軽く済ませたので、物語に戻ろう。
しかし、この時の俺は重要なことを忘れていた。
自分が中学から4年間男子校通いをしていた理由を…
そんな俺が校門の前に来た時、一人の女の子が目に入る。
「…!!」
俺は言葉が出なかった。
腰まであるストレートロングの黒髪。
端正な顔立ちだが、凛としているその表情。
出てるところは出て、締まっているところは締まっているそのスタイルの良さ。
さらに、上品な振る舞いと服装。
俺は…
「惚れた…!」
今、目の前を通り過ぎようとしているその女の子に俺は一目ぼれした。
すると、何やら衝動が抑えきれなくなってきた。
俺は体が疼き始め、とうとう衝動が爆発した。
「す、好きだ~~~~~!」
なんと俺はその女の子に背後から抱きついた!!
「キャッ!」
「おお、やっぱり華奢だね! でも胸は出てるじゃないかもみもみ」
俺はその女の子の胸をもみながら冷静に物事を見ていた。
「うん、完璧。付き合いましょう!」
俺は少女の肩や腕など、あちこちを触ってみて評してみた。
「…」
プルプルと少女が震えだす。
「ん? 寒いの? 俺がもっと強く抱いて温めて…」
「…この変態ーーー!!」
「ボグァ!!」
俺はその女の子の拳を顔面に受け、吹っ飛んでいった。
「い、痛い…」
「あなた。自分が何をしたのか分かってるの!?」
その女の子が尻もちをついた俺を思いっきりにらみつける。
「何かそんな目で見られると余計にゾクゾク…」
「黙って」
「あ、はい」
「…貴方、見ない顔ね。でも学年章は2年だから、もしかして転校生?」
「おお! 俺のことは何でも分かってしまうのか! さすがっ!」
「黙って」
「あ、はい」
「…はぁ。まさか今日来る転校生ってこの子だったの…」
女の子は難しい顔をして考える。
「お嬢さん。そんな悩まないで。僕がその悩みを解決してうぼぁ!!」
さらに一発拳が顔面に飛ぶ。
「だから黙って」
「なんだこの騒ぎは!?」
そんなとき、もう一人の女子生徒が俺達のところにやって来た。
彼女が来て、辺りはさらに静まり返る。
「あ、渚先輩」
風紀委員の腕章をしている彼女が俺の元に来た。
「転校生が少し…」
「何?」
渚先輩と呼ばれる女性が俺のことを訝しげに見つめる。
「え?…俺は愛の告白しただけですよ!!」
「嘘言いなさい! 私の身体に抱きついていろいろ触ってたでしょ!」
ピクリと渚先輩の眉毛が動く。
「まぁ好きな女の子のことは全部知りたいものなのさ…」
俺はフッと笑いながら空を見上げる。
「分かってるの? アナタのやったことはれっきとした「痴漢行為」や「セクハラ」に分類されるものなのよ!!」
「そうなのか!? 転校早々逮捕は嫌だ!! どうせ逮捕されるならもっといっぱい触りたい!」
「お前」
「ん?」
そんなとき、目の前まで例の渚先輩がやって来た。
「え? 何がどうかしあぼぅ!!」
本日3回目の拳は鳩尾を直撃した。
「転校早々問題とはなかなか度胸があるじゃないか」
「ゲホッゲホッ!! い、いきなり何しやがる!!」
自分のことは棚に上げて俺は渚先輩を睨みつける。
「ほう。私とやる気か」
「やられっぱなしは性に合わないんでな!!」
俺は見様見真似のファイティングポーズをとる。
「ほう。面白い。いいだろう。私が成敗してやる。蓮見、お前はもう教室に行け」
「え、ええ」
あの俺が一目ぼれした女の子、蓮見というらしい。覚えておこう。
彼女は少しこちらを見てから、立ち去っていった。
「さぁ決戦の時だぜ、渚先輩!」
「かかってこい」
「言われなくてもかかってやるぜ!!」
俺はパンチを二、三度繰り出す。
なお、俺に格闘経験ありという設定は無い。
「…へなちょこパンチだな」
渚先輩は少しがっかりしながら俺の本気パンチを片手で全て捌いてしまった。
「なんだと…!!」
「ハッキリ言って並以下だな」
「な、何だとう!! 俺だって捌いて見せるぜ! さぁ掛かってごぅぁ!!」
俺の足にローキックが入る。
「ひ、人が喋っているときに卑怯だぞ!!」
「いや、勝負の最中に構えを解くお前が悪い」
「ぐっ…だがな! お前のヘナチョコキックも並以下じゃねーか!!」
嘘です。めっちゃ痛いよあのキック。
俺は精いっぱいの強がりで耐えてみる。
「ほう。気に入ったぞ。弱音を吐かないのか」
「はははどうだ! 降参するなら今のうちだぞ?」
「ならば、一瞬で終わらせよう」
「え?」
俺の意識はそこで途切れた。最後に見えたのは、俺の横顔を捉えた足と、ヒラリと見えたスカートの中身だけだった。
そこで思い出した。何故俺が男子校に通っていたのか、その理由を。
俺は好きな女の子が出来ると、その女の子に抱きついてしまうのだ。
目が覚めた。
「なるほど」
俺は0.041秒で理解した。ここは保健室のベッドの上だと。
時計の針を見てみるが、まだ朝のHRは始まっていないようだ。
「そしてなるほど×2」
俺はあの渚先輩に負けた。一瞬で。
「決めたぞ」
もう渚先輩にかかわるのは止めよう。痛いもん。
俺は保健室から教員室まで歩く。
幸いなことに、保健室から教員室はすぐだった。
「失礼します」
「…」
俺の顔を見た途端、教師のほとんどが顔をしかめた。
おおかた、朝のあの騒ぎを聞いて、頭を痛めているのだろう。
だが安心するがいい。俺は問題児とは程遠い。
「君が柊和人君ね」
「えーと」
俺に話しかけてきたのは、若い女教師だった。
「私は三波奈美。貴方のクラスの担任よ」
「おおなるほど」
「貴方が来て頭痛めてる人が多いかもしれないけれど、私は歓迎するわ」
「おお素晴らしい」
「何となく面白くなりそうじゃない♪」
「おおありがとうございやす!」
俺とミナミナ先生(※愛称)は少し会話を交えた後、一緒に教室に向かうことにする。
「まぁクラスのメンバーは賑やかだし、貴方の期待に添えると思うわ」
「それは楽しみだ」
俺とミナミナ先生は一緒に教室に入った。
みんな急いで席に着くのだが、それと同時にほとんどの人間が俺を凝視する。
なお、女子はなぜか敵意むき出しであるが。
「はい注目ー。もう学校の有名人だと思うけど、今日からクラスに新しい仲間が増えましたよ」
「え、えーと…」
ヤバい…こういうの慣れてないんだよな。
普通に自己紹介すればいいのか?
「きょ、今日からこのクラスで世話になる? 柊和人です」
俺の自己紹介に、男子だけ拍手が飛ぶ。女子はほぼ拍手しない。
…おかしいな。俺何かまずいことでも…
そのとき、俺の眼に例の彼女が映った。あの女神様だ。
「あ、あなたはっ!!」
俺は彼女を指差しすぐさま彼女の元へと駆け寄った。
「まさかあなたと同じクラスになれるとぅぼあぁ!!」
俺が抱きつく寸前に、横から別の生徒の蹴りが頬に入った。
「い、いってぇ…」
また意識を失うところだった。俺は蹴った超本人を尻もちをつきながら見上げる。
「えーと…誰?」
「アンタなんかに名乗る名前なんて無いわよ。ド変態」
「なんだと!!」
俺は立ち上がって彼女を睨む。
「何で俺がド変態だって知ってるんだ!?」
「そっちなの!? 朝といい、今回といい、アンタを形容する言葉なんてこれしか見当たらないわよっ!」
「何ー!?」
謎のバイオレンス女子の追撃キックによって俺は再び尻もちをついてしまうが、教師に止められる。
「はいはい。騒ぎは止めましょうねー。それと、和人君の席は地べたじゃ無くてあっちの席よ」
「ガーン!!」
俺はミナミナ先生が指差したその席を見て絶望した。
「一番遠いやん!!」
ヴィーナスオブヴィーナスの席と自分の席を交互に指さして叫んだ。
「蓮見さんと佐久間さんの懇願でね、出来るだけ蓮見さんと一番遠い席にしたの」
「だ、誰だその二人は!? しかも一人は俺の最愛の人と同じ苗字!!」
俺はミナミナ先生に聞く。
「佐久間智美さんがさっき貴方を蹴飛ばした人で、蓮見まやさんが貴方が抱きつこうとした人」
「何!? 蓮見まやさんというお名前なんですね!?」
「ち、近寄らないで!」
「変態!」
俺がまやさんに近づこうとしたら、拳と蹴りが共に顔面にヒットした。
俺今日何回ボコられるのだろう…
「えーと、青島さん」
「は、はい」
「委員長だから、柊君が分からないところがあったら、いろいろ教えてあげてね」
「は、はい…」
地味めな委員長、青島裕子は俺を見て不安そうに返事をした。
「ミナミナ先生、裕子にあの変態を近付けるのは危険です!」
蹴り女の佐久間智美がミナミナ先生に意見を言う。
「これも委員長の仕事です」
「しかし!」
「ならあなたが柊君にいろいろ教えてあげてはどう?」
「う…遠慮します」
「よろしい。柊君は早く席について」
「はい」
こうして、長い長い朝が終わっていった。
なお、女の子に殴られるのも悪くないと思いつつあるダメな俺でした。
お昼休み。
女子生徒は全然俺に近づいてこなかったが、男子生徒は好奇心から次々と近づいてきた。
「お前やるなぁ。才能あるよ」
「うん?」
最初に俺に話しかけてきたのは、ごく普通の容姿の男子生徒だった。
「あ、俺の名前は工口大輔って言うんだ。お前凄いよな。あの蓮見まやにセクハラするなんてな」
「何かすごいのか?」
「彼女はいいところのお嬢様で、学園のアイドルだぞ!」
「さっすがまやさん。やるなぁ」
「いや、君はまずいことをしてしまったのだよ」
もう一人、小柄なメガネ男子が話しかけてきた。
「僕の名前は太田九郎。君と志を同じくするものだけど、これから君は大変な目に遭うだろうね」
「どういうことだ?」
だが、俺の質問に答えたのは、身長が凄く高いゴリラみたいな男だった。
「俺は魚住剛憲。彼女…蓮見まやは学園でも一番人気が高く、親衛隊もいる」
「つまり君は学園の女子だけでなく、男子までも敵に回したってことだよ」
「そ、そうなのか…」
転校早々に俺の学園生活は前途多難になってしまった。
「柊和人はどこだーー!!」
そんなとき、廊下から野太い声が聞こえてきた。
「やばっ! おい、柊和人…めんどくさいから和人って呼ぶぜ。奴らが親衛隊だ。捕まると厄介だ!」
「ど、どうすればいいんだ?」
俺はパニックに陥って慌て始めた。
「とりあえずあそこに行こう!」
「あそこ?」
「いいから着いてこい!」
「うわっ!」
俺は魚住剛憲に抱え上げられ、工口達と廊下へと飛びだした。
「お、お前たちは!」
「へへーん。俺達に近づくとモテなくなるぜ~!」
「に、逃げろ!!」
よく分からないやり取りを工口達と親衛隊がしていたが、理解できなかったので俺は呆気にとられる。
そして親衛隊が逃げているうちに俺は、別の部屋へと連れて行かれた。
「ふう。まぁここまでは追ってこまい」
「あのさ、ここどこだ?」
俺の質問に、3人は待ってましたと言わんばかりに顔を明るくする。
「よくぞ聞いてくれた!」
「我らはモテない三傑…その1エロ!」
「その2オタ!」
「その3ゴリ!」
「…え?」
工口がエロといい、太田がオタといい、魚住がゴリと言っていた。
「ここはそんなモテない俺達がモテようと努力する同好会の会室…」
「そう、僕たちはモテ方同好会! 略してモテタイ!!」
「当然非公式だ」
「は、はぁ…」
俺は困り顔をする。
「ここに来た君はもうモテないことが決定したね」
「マジで!?」
太田に肩をぽんと叩かれる。
「だからもう俺達の一員だ」
魚住には頭をぽんと叩かれる。
「お、お、お、俺はまだモテる可能性を捨てたくねぇ~~~~~~~!!」
俺の学園生活はこうして始まった。
これから起こる波乱について何も知らずに。
そう、俺は何も知らないんだ。
何も。
「何か突然過ぎないか?」
「君が望んだことだろ?」
「俺の望み?」
「俺の望み」
「今回は大丈夫だよな?」
「君次第」
5,6話後にキャラクター紹介乗せます。
―あとがき劇場―
美空「どうも。みなさん初めまして! 新聞部所属の期待のルーキーの初島美空です!今日からあとがきを担当することになりましたのでご挨拶させていただきます。さてさてさて!! 今回はキャラクターインタビューということで、主人公の柊先輩に来てもらいましたーパフパフ!!」
和人「…は?」
美空「それじゃまずは自己紹介から!」
和人「俺の自己紹介本編でやったじゃん! 何も見てないの!?」
美空「ええそうですね」
和人「少しは見ろよ!! ていうかお前誰だよ!!」
美空「さっき自己紹介したじゃないですか! 何も見てないんですか!?」
和人「ええまあ」
和人&美空「似た者同士!?」