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旦那の帰宅

旦那をこの世から消してしまう方法。

そして、事が上手く進んだとして、私が犯人とバレたら意味が無い。

何故なら、私が幸せに暮らせない人生では全く意味が無いと言うことだ。


旦那は私より20センチ近く高くガッチリとした体型である。

しかも、柔道黒帯と言う実力。

これは…。

迂闊に殴りかかったりしたら、逆にやられてしまう。

武器を持って立ち向かったら?

いやいや、そんなことしたら私の大切な

部屋の内装に汚れた血痕が飛び散ってしまう。

それは絶対にイヤだ。


困った…。


ふぅーと深く息を吐き、窓の外を眺めていると、駐車場に旦那の愛車が入って行くのが見えた。

旦那がずっと欲しかった赤のスポーツカー。

私に何の相談も無しに頭金幾らかと月々5万ローンで購入した車が見事なハンドルさばきでガレージに入って行く。



え?

こんな時間に帰ってくるなんて?

何々?


慌てて、目に見える範囲で部屋を片付ける。

床に散らばっている雑誌をマガジンラックに投げる。

脱ぎ捨てられた自分と娘のパジャマを隣の部屋に放る。


主人が玄関の扉を開ける。

途端にさっきまで静かに眠っていた愛犬が吠え出す。

愛犬マリーが我が家に来て、もう10年近く経つが、旦那には一向になつかない。

なつかないどころか、旦那が部屋に入ってくると歯を剥き出しに低い声でうなり始める。

ん?

これは使えるのでは無いか?

マリーが主人の喉を噛みきって…しまえば誰も何の罪も背負わず生きていく事ができるのではないだろうか?


そんな危うい考えを慌ててかき消した。

マリーにあんな男の汚い血がついてしまったら、それこそ可哀相過ぎる。


ん?

玄関の扉が空いたものの旦那がなかなか部屋に入ってこない。

いつもなら入ってきてすぐに。


『相変わらずうるせー犬だな!』


と言って、マリーを蹴り上げるのに。


いつもだったら、旦那が居間に入ってきても振り返る事もしない私が居間に入ってくる旦那を自分から出迎えるなんて何年振りだろう?


玄関に立ったままの旦那は虚ろな目で立っていた。


な、どうした?

こんな旦那見た事…いや、お酒を飲み過ぎた時の旦那もこんな表情をしている。

まさか?

こいつ昼間からお酒を飲んできたのか?

仕事だと言って出ていったけど、昼間からお酒を飲みに行っていたのか?

旦那は飲み会とかの時も自分の車で帰ってくる。

代行は?

と尋ねると、『代行使って帰ってきた』

と答えるが、私にはそれが嘘だと分かる。

旦那は嘘をつくのが非常に下手だから。

嘘をつくとき、ふわふわと泳いだ瞳は天井を写すから。

アルコール運転で大きな事故でも起こして私達の未来が真っ暗になる前に何とかして始末しないと…。


だけど。


今すぐには消す事はできない。

まだ消し去る何の用意もしてないから。



あれから数秒経ったと言うのに、旦那は全く動いていない。


目の前に私が立っている事にも気付いていないようだ。


さすがに飲み過ぎではないだろうか?


「ねー、あなた、昼間からお酒どのぐらい飲んだの?」


私が声を掛けると。


ようやく、旦那は首を右から左に動かし、また左から右に動かし、また右から左に…そして、真正面の私を見た。


まるで、初めて私を見たように、彼は動きを止めた。


数秒の静寂(しじま)


「ただいま」


ん?心なしかいつもより甲高の気がする。


「仕事は?」


「帰ってきた。少し眠いから眠る」


「は?」


意味が分かんないんだけど…。


靴のまま玄関を跨ぐから。


「ねぇ、何の冗談?」


「え?」


「靴」


私の指差した方向を見て、旦那は、ああと小さく声を出して、靴を脱いだ。


「悪い。ちょっと疲れてて…」


「…」


今『悪い』って言った?

うちの旦那は自分が悪いと思うことなんて一度だって無かった。

誰がどう見ても旦那の方が悪いと言う場面でも、絶対に謝ったりしない。


やはり…。

これはアルコールの影響だろう。

こいつは仕事をサボって飲んできたのだろう。


突如外では家を揺さぶるほどの強い風が吹き始めた。



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