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LONGERIAN――ロンゲリアン――  作者: 原案/gojo  作/桜井あんじ
9/10

アクアツアーズ

 アクアツアーズは、園内の奥まった一角にあった。近づくにつれて水の音が聞こえてくる。


「ねえ、健太くん。ロンゲリアンを生み出した科学者に一矢報いるって……、どういう風にやるの?」

「決まってるだろ。俺にはコレがあるさ!」


 そう言って俺は腕に力こぶを作り、美咲に笑ってみせた。


「で、でも。大丈夫かな……」


 さすがにシンプル過ぎる俺の作戦に、美咲は少し心配になったようだ。しかし、俺にはコレがあるとは言ったが、実はコレしかないのだ。まあ、俺の筋肉で暴れれば何とかなるだろう。筋肉は万能だ。


「きみたちぃ~。こっちこっち! こっちだぴょん!」


 ドリミィ~が、アクアツアーズの裏手から手招きしている。


「こっち側から中に入れるぴょん!」


 そう言ってドリミィ~は、灰色のペンキで塗られた目立たないドアを指差した。腰をかがめて中に入ると、中は真っ暗だ。


「気をつけて進むぴょん!」


 狭い通路を抜け、急に水音が大きく響いたかと思うと、天井の高い場所に出た。うっすらと光の差し込むその場所は、アクアツアーズのコース内だった。激しく流れる水流のすぐ脇を通る、メンテナンス用の通路――と言うより足場に近い。その不安定な場所を、俺と美咲はドリミィ~に促されて歩いて行った。


「ドリミィ~。ロンゲリアンのボスは、ここにいるのか?」

「そうだぴょん!」


 薄暗いにも関わらず、ドリミィ~はスタスタと足取りも軽く歩いて行く。


「……お前、よく知ってるな。ここにしょっちゅう来るのか?」

「…………」


 水の音で、聞こえなかったのだろうか。ドリミィ~は答えない。

 水場のせいか少し肌寒い気がする。俺の肌に、うっすらと鳥肌が立った。いや、待てよ。これはもしや……、俺の筋肉が、何かを伝えようとしているのでは……?


「なあ、ドリミィ~。お前って……、閉園した後もずっとこの裏野ドリームランドにいたのか?」


 そう言えば、なぜドリミィ~はロンゲリアンにならないのだろう。着ぐるみだから、何となく例外のような気がしていたが……、よく考えてみれば、その中の人は……?


「えいっ!」


 突然振り返ったドリミィ~に突き飛ばされ、俺はバランスを失ってよろめいた。そして、

――バッシャーン!

 真っ逆さまに水中に転落してしまった。


「うわわあああああっ!」


――俺は、泳げないのだ!


「健太くん!!」


 美咲の声が遠くで聞こえた。俺はもがいた。だが、激しい水流に飲まれて上も下も分からない。


――息が出来ない! 苦しい! 死ぬ! 


 いくらもがいても、身体は水面に浮かび上がらない。俺の筋肉は重すぎて浮かないのだ!

 目の前が明るくなった。水流に押し流されて外に出たらしい。アクアツアーズで乗る、筏を象った乗り物がすぐ近くに浮かんでいる。俺は咄嗟にしがみついた。上半身を何とかして筏の上に乗せ、水を吐き出す。俺の身体には無数のロンゲリアン毛がからみついていた。水中に漂う大量の毛は、まるでワカメのようだ。

 そこはアクアツアーズのファイナルで筏が水に飛び込む、広い池のような場所だった。目の前には大きな岩山があり、見上げればその頂上から水面に向かって急降下する、滑り台のようなレールが延びていた。岩山の壁面にはでかでかと、アクアマウンテン、と書かれている。


――ガッシャンガッシャンガッシャンガッシャン

 滑車の音が響き、筏に乗ったドリミィ~が岩山の頂上にゆっくりと現れた。


「ドリミィ~! お前やっぱり、ロンゲリアンの手下だったんだな!」


 俺は、アクアマウンテンの上に向けて怒鳴った。


「違うぴょ~ん」


 ドリミィ~はニヤリと笑った。


「嘘つくな! ロンゲリアンのボスはどこだ!」

「……ここにいるぴょん」


 筏がゆっくりと動き出した。ドリミィ~は両腕を大きく広げ、その先端に乗っている。筏は見る間にスピードを増し、アクアマウンテンの最上部から一気に滑走した。そして、勢い良く水の中に飛び込んだ!

――バシャン!

 水しぶきと共に、大量のロンゲリアン毛が空中に舞い上がった。


 ドリミィ~の乗った筏は、ゆっくりと俺の方に近づいて来る。俺とドリミィ~はじっと睨み合った。


「お前が……、黒幕だったのか……!?」


 ガパッ。

 ドリミィ~は、頭の被り物を持ち上げた。その下から現れたのは……。ロン毛の、陰気な顔をした男だ。灰色の顔と、血の気の無い唇。――ロンゲリアン!

 この男が、沢山の人々や俺の友達をロンゲリアンにしたのだ。そうして自らもロンゲリアンとなり、世界中をロンゲリアンで埋め尽くそうと企んでいるのだ。


――だが、そうはさせない。そんな事は、俺の筋肉が許さない!


 俺はよろよろと立ち上がった。勢いをつけ、ドリミィ~の乗った筏に飛び移る!


「行くぞぉ!」


 飛び蹴りがドリミィ~のボディに入った! だが、ブカブカの着ぐるみでは中身にダメージを与えられない。

 頭だ! 頭をねらえ!

 俺の筋肉がそう指示した。

 今度は足を高く上げ、ドリミィ~の横っ面目掛けて回し蹴り! だがドリミィ~はホンワカした着ぐるみからは想像もつかない敏捷さで、俺の蹴りを避けた。


「とうっ! てやっ! たあつ!」


 次々と繰り出す俺のパンチ攻撃を、前後左右に身を翻して避けるドリミィ~。


「くっ……」

「ふっふっふ~」


 その時だ。

 空を切って、何かが勢い良く飛んできた。

――バコォン!!

 金属製のバケツが、ドリミィ~の頭部をクリティカルヒット! 見上げれば、アクアマウンテンの頂上に美咲が仁王立ちしている。


「健太くん! 今よっ!」

「み、美咲!」

「痛いぴょん……! ひどい! 動物虐待だぴょん!!」


 ドリミィ~は後頭部を抑えてうずくまっている。


「よし……、行くぞぉ!  ロンゲリアン・アターーーーック!!」


 俺の渾身の技をくらい、ドリミィ~はもんどり打って水中に転落した!


「やった!」


 俺はアクアマウンテンを見上げ、美咲に微笑んでみせた。美咲はウットリと俺を見つめている。

 ところが……。


「ふつうその技名は、ロンゲリアンが使うと思うぴょん……」


 水滴を滴らせたロン毛頭が、ゆっくりと水中から浮かび上がった。


「くっ……!」


 水中で着ぐるみを脱ぎ捨てたらしいドリミィ~(中身)は、軽々と筏に飛び乗った。俺の筋肉とは比べ物にならない、細身の身体。普段の俺なら一笑に付しただろう。だが、油断は出来ないのだ。ロンゲリアン化している事で、その能力は未知数だ!

 俺は全身を緊張させ、身構えた。


「んばあああああああああっ!」


 突然水中から無数の腕が生え、筏の四辺を取り囲んだ!


「うわああああっ!」


 ベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタッ

 手は筏の縁から伸び、俺の足首を掴んだ。

――水の中に、引きずり込む気だ!

 必死に抵抗しても、すごい力でどんどん引きずられてゆく。ロンゲリアン達の中には、拓也、愛美、そして千花の姿もあった。


「んばあああああああああ~~! 健太~!」

「健太く~~ん!」

「健太く~~~~~~ん♪」

「拓也! 千花! 愛美!」

「ロン毛になろうよ~♪ 一緒にぃいぃぃ!」

「わあああ! や、やめろぉ! 目を覚ませ!!」


 三人は大勢のロンゲリアン達と一緒になり、俺を引っ張る。


「ちっくしょう……!」


 俺の筋肉が、怒りに震えた。

 力任せに足を引き抜き、群がるロンゲリアン達に次々と蹴りを繰り出してゆく!


「おらおらおらぁあああぁぁ!!!」

「ぐふぉ!」

「ぶばあああぁぁ!」

「んばふうぅぅ!」


 ロンゲリアン達は水中に消えた。が、それよりもっと多くのロンゲリアンが次々と這い上がって来る。


「健太くん! こっち!」


 その声にハッとして振り向けば、美咲が筏を巧みに操り俺に近づいて来る。俺は思い切りジャンプして美咲の筏に飛び移った。ロンゲリアン達は怒りの唸り声を上げ、追いすがる。


「ふははは! 君たちも、ロンゲリアンになるんだよーーーー!」


 ドリミィ~は高らかに笑った。


「さあ行け! ぼくのロンゲリアンたちよ!」


 筏に這い上がろうとするロンゲリアンを、まるでもぐら叩きのように次々と蹴落としてゆく。美咲も、掃除用のモップの柄で加勢する。だが、きりがない。どこから湧いて来るのか、ロンゲリアンは数限りないようだ。どんどん増え続けている。


「くそっ……。だめだ。このままじゃ……」


 もはやこれまでなのか。


「健太くん! 諦めちゃだめ……! きっと何か方法が……!」


 美咲の言葉が、俺に新たな力を与えた。

――そうだ! 物理攻撃に効果がないなら……。


「美咲! お前の力を貸してくれ!」

「え!?」

「このままじゃ、らちがあかない。もっと、何ていうかこう、精神的に攻撃するんだ!」

「わ……、分かった!」


 美咲はドリミィ~の前にすっくと立ちはだかった。そしてじっと見つめる。途端にドリミィ~は、オドオドし始めた。


「な、なんだよ……?」

「……ププッ」


 美咲は吹き出した。


「な……! なんだよっ!」

「あ、ごめ~ん! つい~」

「つい、な、なんだぴょん!?」

「何でもない、何でもないって」

「は、はっきり言うぴょん!」

「う~ん。ていうか~。今時ロン毛とか……、やばくない?」

「ふん! どうせそんな事だろうと思った。女に何が分かる! ロン毛はポリシーだ! アイデンティティだ! ロン毛は……、」

「重っ」

「……!」


 やった。攻撃は効いているようだ!


「そもそも、なんで人をロンゲリアンにしようと思ったわけ?」

「お、お前に関係ない! 女なんかに、どうせ分かるわけない!」

「さっきから女に拘るよね。まさかとは思うけどぉ~。ロン毛ダサいって彼女に振られたとか……?」


 会心の一撃!! ドリミィ~はよろめいた。


「う、うるさいっ……」

「え、まじで!? て言うかそんな理由で!?」

「うるさいうるさいっ! 世界中の人が皆ロンゲリアンになれば、ダサくないもん!」

「もん、って何よw」


 ドリミィ~の瞳に涙が滲んでいる。


「み、美咲。もうそれくらいで……」


 しかし美咲はバーサーカー化している。


「それで着ぐるみに入って引きこもるとか、まじキモイんだけど。やめてくんない?」

「う、うわあああああん!」


 哀れなドリミィ~は、もはやHPゼロだ。そしてなぜか俺まで軽いダメージを受けている。


「も、もう……! 怒ったぴょん!」


 どうやらドリミィ~は、キレたらヤバイ奴の典型らしい。


「うおおおおおお! ロンゲリアン~~全員集合~~~~!」

 

 ドリミィ~はポケットから小さな笛を取り出すと、ピューツと吹いた。

 気づけば俺と美咲は、筏の上でロンゲリアンにすっかり囲まれていた。池の周りにも続々とロンゲリアンが集まって来る。どうやらアクアツアーズ全体を、ロンゲリアンが取り囲んでいるらしい……。


「…………!」

「け、健太くん……」


 もはや、これまでか。俺は美咲をしかと抱きしめた。


「すまない、美咲。守ってやれなくて……」

「いいの。健太くん……」


 俺達の前に、ドリミィ~が静かに進み出た。


「覚悟が出来たようだな、リア充どもめ。ふふふ。さあロンゲリアン達よ! ひと思いにやってしまえ!」

「ばぶふふふぅああぁ!」

「んばああああっ!」

「ぼげええええ!」


 ドリミィ~の言葉を合図に、ロンゲリアンの群れが一斉に襲いかかって来た――。

 俺はぎゅっと目を閉じた。

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