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LONGERIAN――ロンゲリアン――  作者: 原案/gojo  作/桜井あんじ
10/10

ゆめのようなやさしいせかい

「ん……?」


 静か過ぎる。俺はそっと目を開いた。

 俺達に襲いかかろうとしていたロンゲリアン達が動きを止め、人形のように固まっている。


「どうしたの、一体……?」


 美咲も、不思議そうに辺りを見回した。


「んばああああっ!」

「ほげえええええ!」

「うわあああああっ!」


 大勢のロンゲリアン達とドリミィ~が一斉に叫んだ。何事かと見れば、ロンゲリアン毛が次々と彼らの頭から抜け落ちているのだ!!


「ど、どうしたんだ!?」


 ロンゲリアン達は抜け落ちる自らのロンゲリアン毛に夢中で、俺達に構う者などもはやいなかった。


「あああああああああ!」


 ドリミィ~は中でも一層激しく、苦悶の表情で身を捩らせている。


「お、おまえ……! お前……!」


 ドリミィ~はものすごい形相で俺を睨みつけた。


「何だよ!? 俺が何したって言うんだよ!?」

「まさか……、まさか!! お前は!」


 ドリミィ~の声が震えている。


「ハゲリアン!!!」

「えっ!?」

「ロンゲウィルスに対抗するただ一つの……、ハゲウィルス! お前がその保持者だったとは……」


 ドリミィ~はがっくりと肩を落とした。その頭部から、最後のロン毛がハラリと抜け落ちた。


「ぼくの……負けだ……」


 その言葉が終わらぬうちに、ドリミィ~はバランスを失ってどっと倒れた。俺は思わず腕を伸ばし、その細い身体を支えた。


「ドリミィ~!!」

「ふっ……。ぼくなんかに憐れみをかけてくれるのか……? こんなちっぽけな男に……。そこの彼女の言う通りさ。僕には所詮、こんな最後がお似合いなのさ……」

「ドリミィ~! そんな事言うなよ……!」

「ぼくは……! うぅっ! げふっ!」

「ドリミィ~! しっかり!」

「ぼくは……、こんな時が来るのを待っていたのかも……。誰かが僕を、この怨念から解き放ってくれるのを……。これでやっと……、自由に……」

「ドリミィ~! 死ぬな!」

「……ありがとう、ハゲリアン」


 ガクッ。

 ドリミィ~のロンゲリアン毛は今やすっかり抜け落ちていたが、その顔には、穏やかな微笑みすら浮かんでいた。ロン毛に込められた怨念も、毛と共に抜け落ちたのだろうか……。

――せめて安らかに、ドリミィ~。

 ドリミィ~の身体を静かに横たえた時、ふと気づいた。大量の抜け毛が、俺の服のあちこちに付着している。何気なく頭に手をやると、毛の束がごそっと抜けた。


「そうか……。俺は、ハゲリアン……」


 呟いた俺の側では、美咲が呆然と立ち尽くしていた。


「美咲、怪我はないか」

「え? う、うん。大丈夫……」


 良かった。ともかく、俺は美咲を守り通す事が出来たのだ。


「美咲。ロンゲリアン祭りは終わりだ……。さあ、帰ろうか」

「え? ああ、そうね……」

「……? 美咲、どうかしたか?」


 そっと肩に手をかけようとすると……、美咲はまるでムーンウォークのように素早く後ずさった。


「健太くん! あたし……、ハゲはちょっと……!」

「えっ」

「ごめん!」

「待てよ! 美咲!」


 しかし美咲は既に俺に背を向け、駆け出していた。


「本当にごめん!」

「待ってくれよ! ハゲは『ちょっと』って、なんなんだよー! 『ちょっと』なんだよ!」

「ハゲだったら……、ロン毛の方がマシよーーーーっ!!」


 絶叫と共に、美咲は走り去って行った――。



 その後の事を、少しだけここに記しておこう。

 俺を感染源とするハゲウィルスは、瞬く間にロンゲウィルスを駆逐した。それだけでは飽き足らず、今日もなお、留まる所を知らず拡散を続けている。結果、世界中のほぼ全ての男が今ではハゲリアンとなった。

 かつてこの世界では、毛髪保持者による非保持者への差別や搾取、そういった非人道的行いが当たり前のように行われていた。しかしそれも昔話となったのだ。皮肉な事に、ドリミィ~の理想は違った形で実現したと言えるだろう。

 これは、いかにして今日の、ハゲにやさしいせかいが実現されたかの記録である。



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