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LONGERIAN――ロンゲリアン――  作者: 原案/gojo  作/桜井あんじ
1/10

裏野ドリームランド

なろう公式企画、「夏のホラー2017」参加作品です。


原案 gojo

http://mypage.syosetu.com/544839/


作 桜井あんじ

http://mypage.syosetu.com/577650/

――裏野ドリームランド。

 今では廃園になっているその古ぼけた遊園地は、俺達の住む東京郊外のベッドタウンから車で一時間半ほどの所にあった。車に揺られているたった一時間半の間に、車窓からの眺めは、ごみごみしたターミナル駅前から所狭しと立ち並ぶ新築の住宅群へ、そしてそのエリアを過ぎると突然現れる自然のままの山並みや広い空、のどかな田園風景へと様変わりした。行楽気分を存分に味わわせてくれるその光景はかつて、ドリームランドに訪れる者の目を到着する前から楽しませてくれたという。

 近隣のベッドタウンには、主に都内から移ってきた多くの家族が生活していた。そのファミリー層に、裏野ドリームランドは、週末の手軽なレジャー地として人気を誇っていたのだ。

 その裏野ドリームランドが何故、廃園に追い込まれたのか。今では、真実を語る者はない。



「ああ~っ! いい空気だな~」


 車から降りると俺はまず、思い切り身体を伸ばした。


「ほんと。これだけでも来たかいあったね!」


 美咲が、俺の後に続けてワゴンから降りて来る。美咲の言葉に、俺は気を良くした。廃園になった遊園地の探検なんて、馬鹿らしくて気が進まなかったけれど、やっぱり来て良かった。美咲が楽しんでいるのなら、俺はハッピーだ。


「まだまだ、これからだぜ、健太」


 続けて車を降りてきた拓也が、ニヤリと笑った。

 この探検を企画したのは拓也だ。本当は俺同様、オカルトになんて興味ないくせに。魂胆は分かっている。


「ちょっとー。すぐ近くって言ったの誰よぉ。あたし疲れちゃったぁ」


 鼻にかかった声で文句を言いながら、愛美が降りてきた。明るい所に出るとさっそく、バッグから鏡を取り出してヘアスタイルのチェック。


「いいでしょ。皆で来れば楽しいじゃん」


 千花が、元気良く車から飛び降りた。ふわふわとしたショートカットがまるで羽根のように風を受ける。屈託のない千花の笑顔に、そのボーイッシュなヘアスタイルは良く似合っていた。


「そうそう。皆で楽しもうよ~」


 拓也はそう言いながら、片腕を千花、もう片方の腕を愛美の肩に回した。一見、単なる幼馴染同士のふざけ合いだ。しかし、千花と愛美の間には微妙な空気が流れた。

 これさえなければ、結構いい奴なんだけど。俺は内心、溜息をついた。美咲も苦笑いで三人を見ている。拓也は二人の気持ちを知りながら、こうしてどちらとも微妙な距離を保ち、それを楽しんでいる。今日のこの探検も、そんな楽しみをより煽るために思いついたのだ。


「やっと着いたねえ~」


 のんびりとした声が背後から響き、空気を和ませてくれた。今日の運転役、康介がやっと車から降りてきたのだ。小学校からの腐れ縁である俺達六人の中で、いつも皆よりワンテンポ遅い。だが、こんないい奴はいないと言うくらい、温厚で優しい奴だ。


 康介は車にロックをかけ、慣れた手つきで着物の裾を整えた。


「康ちゃん、本当にそんな動きにくい服で大丈夫なのか。今日は探検なんだぞ」


 俺がそう言うと、康介は「うん」と頷いた。

 康介は、両親共に演歌歌手という、演歌のサラブレッドだ。そして本人も、将来は演歌歌手を志望している。「演歌は日本の心」のポリシーの元、常に和服を着て生活し、日々の鍛錬に余念がない。実際のところ、俺のような素人でも分かる素晴らしい歌声の持ち主だ。男にしては少し高い澄んだ声が、聴く人を和ませる。ほらあれだ、アルハーハっていうやつだ。


「はあ~。ちょっと疲れちゃた」


 はぁ~、の所にコブシをきかせ、康介が呟いた。


「康介くん、ありがとね。帰りはあたしも運転するよ」


 美咲が言う。


「美咲の運転かぁ。それはちょっとな~」


 拓也が茶化した。


「皆生きて帰れるかなぁ~?」

「失礼ね! 仮免も本番も、一発で通ったんだからね、あたし」

「へえ~! 美咲ちゃんすごいねえ。僕なんて、十三回目でやっと仮免受かったのに~」

「…………」

 

 皆それは初耳だった。


「と、とにかく。帰りはあたしが運転するから大丈夫。……早く遊園地の中、入ってみようよ!」


 美咲がそう言って歩き出し、皆後に続いた。


「…………帰りが、あったらね」


 一番最後を歩いていた俺だけに聞こえたらしい、その言葉を呟いたのは誰だったろう。



 ギィーーーーーー、ギギギギギ……………ギィ…………

 

 すっかり錆びついた鉄柵で周りをぐるりと囲われた、裏野ドリームランド。その園内に通じる門は事もなげに開き、俺達を迎え入れた。園内に一歩足を踏み入れると、遠くの山並みを背景にそびえ建つドリームキャッスルが目に映る。


「おい、なんで鍵もかかってないんだよ。こんなに簡単に入れるもんか? 普通」


 俺は何だか気味が悪くなり、拓也に尋ねた。


「さあ? 廃墟なんて、そんなもんじゃねーの。廃墟探検とかって、ネットに写真上げてる奴いるじゃん」


 拓也はさして気にも止めていないようだ。それよりも、康介と話している愛美の後ろ姿をちらちらと盗み見るのに忙しい。愛美は例によって今日も、かなり短いスカートを履いている。そんな拓也の様子を、やはり千花が横目で気にしていた。


「じゃあ……、どこから始めようか?」

 

 美咲が辺りを見回しながら言った。


「ほら、あったじゃん、ここの噂。何だっけ?」

 

 拓也が言うと、千花がスマホを取り出した。


「えーと、ちょっと待ってね。『裏野ドリームランド七不思議』、……あった、これだ。まず最初のウワサ、『閉園の理由』だって」

「何なの? 閉園になった理由って」


 愛美がさり気なく拓也の腕に手をかけ、割り込んだ。


「このサイトによると、子どもが時々いなくなるって噂があったらしいよ」

「へえー」

「次は何?」

「えっと、ウワサその2、『ミラーハウスの謎』。ミラーハウスに入った人が、出てきた時には別人みたいになってる、だって」

「それ面白そうじゃん!」

 

 拓也が、ふざけた調子で愛美の手を取った。


「よし! まずはミラーハウスに行ってみようぜ!」

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