1日目 ~いつものところ~
「はい、と言う訳でいつも通りログインして、ルドの町の酒場に集合しぶげば――――――」
「ふぅ、これで貸し借り無しね」
「どこが!てか、何で俺殴られたの!?」
『19:00 いつものところ』
あのメモが示した通り、吉田浩平と高村奈々美は“いつものところ”に集合していた。
ただ、奈々美の同僚たちが勘ぐっていたような理由ではない。
2人が集合したのはルドの町。
このゲームの世界的には中盤に存在する町で、周囲のダンジョンには中級のモンスターが生息し比較的同Lv帯の中級冒険者が多く集まる。
つまり、“いつものところ”とはオンラインゲームの中なので、同僚たちの勘ぐっているような事は一切ない、のだが・・・。
全否定出来ない自分がいることに奈々美は気付いていた。
「痛ぇ・・・」
「別にフレンドからはダメージ入らないんだからいいでしょ」
ほほをさすりながら浩平が立ち上がる。
このゲームにフレンドリーキルは実装されていない。
なので、仲間に斬りかかろうが、魔法をぶっ放そうが、スキルで戦おうが、ダメージは一切ない、はずなのだが・・・。
「痛いもんは痛いんだよ!」
「痛い?ゲームなのに?」
「・・・ん?あれ?確かに」
奈々美の疑問に浩平も首を傾げる。
ゲームである以上、本来この世界に視覚と聴覚以外の感覚要素は存在しない。
しかし、浩平は「痛い」と言った。
つまり、痛覚があるという事。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・(ベシッ)」
「痛っ!また叩きやがったな!」
再度浩平に一撃を入れたことで、奈々美もとある事実に気が付いた。
「何で、浩平を叩いた感覚があるの・・・?」
「叩く必要はなかったよね!?」
浩平の戯言を横目に、奈々美は自分の掌を見つめる。
まさかありえる訳がないけど、もし万が一にもここがゲームの世界で、自分達が強制的に転生させられてしまったのだとしたら・・・いや、無い無い。
きっと、寝相が悪くてコロコロ転がりながら家を出てしまい、船か飛行機に偶々乗っかってどこか知らない土地にたどり着いたら偶然にもそこがゲームの中とそっくりな景色で、偶々同じようにたどり着いてしまった浩平と遭遇した後、なぜか持っていた装備を着てみたら奇遇にもゲーム内の装備にすごく似ていて・・・・・・・・・・・・・・自分で言っておきながら何か悲しくなってきた。
色々と考えてはみたものの、「ゲームの世界に転生してしまいました」と言われるのが一番しっくりきてしまう自分が悔しい。
最近ちょっと異世界転生物のアニメを見すぎていたせいだろうか・・・。
そんな頭を悩ませるあたしを見ながら浩平はケラケラと笑っていたが、
「・・・ゲーム内と全く同じ景色・・・」
「そりゃゲームだからな」
「・・・見分けがつかないというか、最早この世界が現実になったというか・・・」
「ななみんにしては珍しいな。そんな非現実的な事を言うなんて」
「何であんたはそう周りが見えてないのよ。どう考えてもあたし達、ゲーム内の世界に転生しちゃってるじゃない」
「え?ゲーム内に転生?そんな夢みたいな事があるはずないだろうが。それこそそんな事が起こったら逆立ちでドラゴン倒してやるわ!」
「じゃあ、自分のほほ引っ張ってみなさいよ」
「おいおい、そんなことできる訳がないだろ?このゲームにそんな細かい動作痛っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・奇跡だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああΣ(゜Д゜ )」
あたしの言葉にやっと現状が理解できたようだ。
冒険しますが、大冒険はしないかもしれません。
日常を描きますが、普通の日常とは違うと思います。
そこら辺は温かく2人の行く末を見守ってあげてください。