第6話 初めての戦闘
ミーナが仲間を集めに行ってから1時間が過ぎた。
「それじゃあそろそろ修行を始めるかの…」
ローグはそう言うと小屋の扉を開け『心の準備をしておけ』と言った。何のことか分からないままローグについて行くと崖の側で止まった。
ローグは崖を見下ろした後慎也を見ると微笑みながら慎也の襟を掴み崖を飛び降りた。
心の準備の意味が分かったのはもう落下している途中だった。着地した時隕石でも落ちてきたかのような音が辺りに響いた。
「ふむ失神しないだけマシじゃな」
放心状態の慎也を立たせると『移動するぞ』と言い歩き始めた。
「気になって居ったのじゃがお主はあの娘とどういう関係なんじゃ?」
「ミーナとの関係?そう言えばどんな関係なんだ俺?」
ローグに言われるまで考えた事もなかった。
いま思い返すとあまりにも都合が良かった…転生したての世界でナビゲート役のように急に現れそして色々とサポートして貰っている…おかしな話だった。
「これは1回ミーナに聞いてみるしかないな…」
「なんとも不思議な関係じゃな」
ローグは不思議そうな顔をしていた。
ミーナの話が終わり30分ほど歩くと綺麗な湖に着いた。
「早速始めるぞ」
そう言うとローグは湖に落ちそうなギリギリの所に立ち「ほれわしを湖に落としてみろ」と言い手で来いと言った。
「俺も舐められたもんですね!」
そう言い今出せる最大の力でタックルをした…がしかしローグピクリともしなかった。
「どうした?こんなものか?」
「クソっ!もう1回!」
そう言いタックルするが結果はさっきと同じだった。それから20分ぐらいタックルし続けたが手応えはなかった。
それを見かねたローグは慎也に近づき言った。
「この修行は14代目勇者の能力を開花させる修行じゃ」
「14代目勇者はどんな人だったんですか?」
不思議に能力ではなくどんな人だったのかが知りたくなった。
「14代目の勇者の話をするのか?気乗りはしないが良いじゃろ」
そう言うと近くの木に腰掛けた。
「14代目は魔王との戦いで1番若くして命を落とした勇者じゃ…18歳じゃったの…彼は優しくまだまだこれからの人生だった…だが15歳の頃に能力が現れそして無理矢理魔王討伐へ連れてからたのじゃ…」
ローグは凄く悲しそうに話していた。その話に木々が泣いている気がした。
「聞いといてあれですけどローグさん詳しいですね」
「14代目の頃はわしが一緒に旅をしていたからの…彼自身の能力は圧倒的な身体能力の強化と硬質化じゃった…彼は歴代で最も強く勇敢でそして優しい勇者じゃったよ…これ以上は思い出したくもない…」
そう言いローグはしばらく俯いたままになった。
完全に勘違いをしていた…今まではアニメみたいな話に浮かれ、魔王討伐も軽く考えていたが受け継がれてきた勇者の思いが相当な数になりすごい力を持っていたであろう14代目ですら魔王には勝てなかった…それを考えた時恐怖の感情がこみ上げてきた。
だが父の言葉を思い出すと覚悟を決めた。
「魔王を倒すのが俺の仕事なら絶対最後まで成し遂げる!」
そう言い再び修行に励んだ。
修行を始めてから2週間が過ぎたが能力は未だに使えていなかった。
「どうしたもんかの…」
ローグが悩んでいたその時血相を変えた1人の青年がローグの目の前に現れた。
「武神様…大至急帝都に来てください…魔王軍が攻め込んできました…」
青年はそうローグに告げると慎也の方を見て
「勇者様もご一緒に」と言った。
まだ能力もまともに使えない自分が勇者と呼ばれた事に少し違和感を感じながらも無言でうなづいた。
「モーゼンや騎士団は居ないのか?」
「モーゼン様と騎士団は他の街に救援に行っていたので不在でございます…」
「それを狙われたか…ならば早く帝都に行くぞ!」
その言葉を聞くと青年はローグと慎也を掴み転移の魔法を唱えた。
「いきますよ!テレポート!」
帝都の中のお城に着き外に出て周りを見渡すと約3週間前に来た時の帝都とは思えないほど変わり果てていた。
そこらじゅうから火の手が上がり、そこらじゅうの家が崩壊していた。それよりも1番驚いたのはアニメや漫画でしか見たことのない怪物達…魔王の配下だった。
魔王軍と見られる者達が城の城門まで迫っていた。
「おお!ローグよ来てくれたか!」
「久しぶりじゃのグランガイアの王よ」
ローグはこの帝都の王と見られる人と会話をし、
話し終えると慎也に「急いで城門へと行くぞ」と言い走り出した。
「なにを話していたのですかローグさん?」
「騎士団達があと1時間で到着するらしいその間の時間稼ぎじゃ」
しばらく無言で走り続け城門へ着くと大量の兵士が魔王軍の進行を止めているのが目に入った。
「慎也…お主は死なぬ程度に戦っておれ」
そう言うとローグは凄い勢いで敵軍に突っ込んで行った。ローグの闘っている姿はまさに武神だった…ありとあらゆる方向から色々な武器で攻撃されるがそれを全てかわし、敵を1発で確実に仕留めていた。
「俺も…やってやる!」
そう言い敵軍に飛び込もうとした時テレポートの青年がまた目の前に現れた。
「待ってください!武器なしでは死にますよ?!武器庫の剣です使ってください!」
そう言い青年はいたって普通の剣を慎也に手渡した。
「ありがとう!」
青年から剣を受け取ると怪物の中に走って行った。だがまるで歯が立たなかった。剣を持っているとは言え素人だったからだ。いくら武神と呼ばれる者の元で修行したとは言え3週間じゃそれなりにしか成長しなかった。戦場でおろおろしている慎也を見つけた魔王軍の怪物が慎也の体を掴み投げ飛ばした。幸い崩れていた家のベッドがクッションになり大きな怪我はなかったが慎也の精神は完全に恐怖に支配されていた。
「無理だ…こんなの能力無しじゃ勝てるはず…」
崩れていた家の隅にうずくまり恐怖していると母親が家の下敷きになり助けようとしている子供が目に入った。
「お母さん待ってて今助けるからね!」
「お母さんは大丈夫だから早く逃げて!お願い!」
その様子を見ていた魔王軍の怪物が2人に近寄り子供を蹴飛ばすと母親の目の前に座った。
「おいお前の子供殺っちまうぞ?」
不気味な笑い声をあたりに響かせ怪物は蹴飛ばした子供の頭を掴むと徐々に手に力を入れ始めた。
「お母さん!痛い!痛いよぉ!」
子供の悲痛な叫びに母親は「やめて!殺さないで」とずっと怪物に叫んでいた。
その時グチャと言う何か潰れた音が聞こえると怪物に握られていた子供は何も言わなくなった。
「いやぁぁぁ!」母親は息子を殺された事に叫ぶ事しかできなかった。
「うるせぇ!」そう言うと怪物は母親を踏み潰し再びあたりに不気味な笑い声を響かせていた。
この時慎也は何も考えずに立ち上がり怪物の元へと歩いていた。
怪物は慎也の存在に気付くと不気味な笑い声で語りかけてきた。
「お前さっきの見てたのか!お前もこうしてやろうか?」
慎也は何も言わず怪物の前に立っていた。
「何か言え!殺されのか!」
「何か言え?言ったところで殺すだろ?怪物さんよ」
「てめぇ馬鹿にしてのか!」
激怒した怪物は拳を握りしめると太くデカイ腕で殴りかかってきた。
バキッそう鈍い音を立てると怪物のほうがうずくまった。
「おいどうした…なにうずくまってるんだ?」
そう言うと怪物の頭を掴み徐々に力を込めていった。
「頭が…潰れる!お前どこにそんな力が!」
自分でも分からなかった…だがあの親子がとても苦しんで死んでいった…それだけは分かっていた、。
「ほらお前があの子供にしていたことだ」
「わかった!謝る!謝るからゆるしてくれ!」
「馬鹿か」そう言うと手に思い切り力を入れ怪物の頭を握り潰した。
初めて怪物を殺したが気分は悪いどころか逆に清々しい気分だった。
それに体が軽かったまるで他人の体のようだった…だが答えは直ぐにわかった。
「これが14代目の残したかった思いか…」
そう慎也は呟くと魔王軍の中にゆっくりと歩いていった。
続く