第5話 父の遺した言葉
崖を登り始めて4日が経った。下はもう見えず上もまだ見えなかった。一睡もせず登り続けていたためそろそろ体力も限界に近づいてきていた。いや、限界はもうとっくに超えていた。
なぜ限界を越えてもなお登り続けているのかそれは昔の約束だった。
この世界に来る前に住んでいた家庭は決して裕福ではなかった。どちらかと言うと貧しかった。
だが両親と妹の四人で暮らしているのが割と楽しかった。高校に受かった時の家族のあの嬉しそうに泣くあの顔は今でも覚えている。ずっとこの家族でこのまま普通の日常が続いて行くのかと思っていた。
だけど家族との普通の日常は突然終わりを告げた。その日は家族での買い物を断って友達とカラオケに行っていた。
歌を歌っている時に母親の携帯から着信が来ているのに気づき外に出てから電話に出ると母親ではない見知らぬ医者と名乗る者だった。
『君の家族が交通事故にあいもう長くない』と言う内容だった。頭の中で最悪のことばかりがよぎっていった。
病院まで5kmぐらいはあったのを走って行ったのを覚えている。
病院に着くともう父親以外手遅れだった。
急いで父親の元へ行くともう息を引き取る直前だった。父は最後の力を振り絞って
『中途半端に生きる男にはなるな何事も最後までやり通せ、慎也…皆はいつまでも愛してるぞ』
その言葉を遺し息を引き取った。
その言葉を聞き今まで堪えていた涙が一斉に溢れて来た。普通の日常は失って初めてその大切さに気づくことを知った。あの日の父の言葉が今限界を超えてなお登り続ける理由だった。
一心不乱に登っていて全く気づいていなかったがもう朝になっていた。相当な高さから見たこの世界の景色はとても綺麗だった。死ぬ前の世界では例えるものの無いほどの絶景だった。
その絶景をしっかりと目に焼き付け再び崖を登り始めた。絶景を見てから2時間ほど登ると頂上がようやく見えてきた。
そしてようやく頂上へとたどり着いた。
頂上には小さな小屋が1つあるだけだった。
たどり着いた安心感からか急に眠気が襲ってきた。
「もう我慢出来ねぇ…」
そう言いその場に倒れた。
「まさかこの小僧自力で登るとは…」
そう言い慎也を肩に担いで老人は小屋へと運んでいった。
「慎也さんは絶対登れると信じてましたよ…」
ミーナはとても嬉しそうな顔をしていた。
目を覚ますとベッドの上にいた。なぜだか記憶が少し曖昧だが一つだけ覚えている事があった、それは崖を登りきったと言うことだ。あたりを見回すと老人とミーナがなにやら喋っているのが見えた。話の内容は聞き取れなかったがミーナが嬉しそうに喋っているのがわかった。するとミーナは目を覚ましたのに気がつきこちらへ来た。
「凄いですね!あの崖を登ったのは慎也さんで2人目みたいですよ!」
他にもあの崖を登った奴が居たことに驚いた。
登りきった事にも驚いたがそれよりも挑戦した事の方が驚いた。
「そうだ爺さん俺は崖を登りきったけど何が目的だったんだ?」
「ローグで良い。崖はわしの修行を耐えれるかどうかの言わば試練のようなものじゃ。ただそれだけだ」
武神と呼ばれた男の修行それだけでゾクゾクした。
「おれはどんな修行にも耐えるぜ」
そう自信満々に言ったが少しだけ不安だった。
「がっかりさせんでおくれよ」
「任せときな!ミーナは都で仲間集め頼めるか?」
「分かりました私は仲間を集めてきます。」
ミーナは『頑張ってください』とだけ言ってテレポートしていった。
続く
回想の書き方が良く分からなかったです見にくかったすみません。