70.第6階層 猛進する大剣と美しき長剣
『主君、この階層には手強い敵がおります。』
深さ51に入り、半分ほど進んだところでローディアスがそう言った。
「今度はなんだ?」
『ソードブレイカーでございます。』
「ソードブレイカー? 聞いたことが無いな。どんなモンスターか説明してくれ。」
『お任せください。ソードブレイカーはリビングメイルと対を為すモンスターで、武器に瘴気が憑き生体化したものです。攻撃力が非常に高く、ほとんどが浮遊型である為、攻撃を避けるのが困難である、ということで有名です。』
「それはどんな武器でもなるのか? 剣でも槍でもワンドでもメイスでも。」
『はい。それぞれがそれぞれに適した技を繰り出してきます。』
「なら、魔法で討伐するのが一番安全且つ確実だな。浮遊型じゃクリングフィートを使っても意味ないし。」
俺はそう呟くと、ヒールフレイムの杖と神秘の破砕銃を取り出す。そして、神秘の破砕銃をレッドホルスターに収めると、ローディアスに案内を続けさせた。
「お、お出ましか?」
2分ほど歩いていると、奥から何か、刃物がこすれるような音が聞こえてきた。
「……暗くて見えないな。照らすか。【セイントフラッシュ】!」
俺は呪文を唱え、ダンジョンの奥を照らす。すると、奥から短剣が飛んで来た。咄嗟にヒールフレイムの杖で叩き落とし、それに向けて神秘の破砕銃を乱射。その短剣は跡形もなく消滅した。
「容赦って言葉が辞書に載ってないみたいだな。まあ、それならそれでいいけど。【ローリングシリンダー】!」
俺はそう叫んで神秘の破砕銃の引き金を引く。回転式弾倉が高速で回転し、二重属性の弾丸が浮遊している武器連中に襲いかかった。金属が砕け散る音が響き、ハチの巣になった剣や槍が地面に墜落する。あっという間に殲滅が完了した。
「怪しい……剣なら銃弾を斬ることができるはずなのに……」
俺はそう呟く。二重属性の魔術弾だから斬れなかったのかもしれないが、狙いなど全くつけずに撃った銃弾で全滅なんて、流石におかしいだろう。
「まあ、どうせ最深部に強いのが待ち構えてるんじゃ考えても意味無いしな。ローディアス、続きを頼む。」
『お任せください。』
そう言って進むローディアス。その後を追って俺たちはまたダンジョン内を進むのだった。
「凍れ! 【アイスホールド】!」
「投擲武技Lv1スキル、【回転投げ】!」
深さ55。俺の魔法で凍りつき、地面に落ちていくソードブレイカーをユリアが投げたアイアンナイフが回転しながら貫いていく。一撃一殺だ。しかも、投げたナイフは戻ってくるので、ユリアは何度でも投擲が可能。しかし、相手の数が増えているため、簡単にはいかない。
「ユリアさん、もっと威力のある技は使えませんか?」
「んー……一応無いことは無いんですけど……」
「じゃあお願いします! 【アイスホールド】!」
「分かりました! 投擲武技Lv2スキル、【マッハナイフ】!」
そう言ってユリアがナイフを投げた瞬間、凍っていたソードブレイカーが全てバラバラになった。ナイフが一瞬で斬り尽くしたらしい。目にも止まらぬ早業だった。
「どうですか、リチャードさん?」
目からこれでもかってくらいキラキラビームを出しながらユリアが聞いてくる。
「素晴らしいです。あの速さでナイフを投げられるなんて、凄いですよ。投擲スキルが上昇すれば、もっと色々技が使えて、もっと戦闘で活躍できるでしょうね。そうなると、俺も助かります。」
取り敢えず、凄いことは事実なのでそう述べておく。
『ククッ、主君……』
「消えたくなかったら黙れ、ローディアス。それより案内の続きだ。」
「……お任せください。」
ローディアスは少々不服そうな表情を浮かべながらも、指示に従って案内を続け始めた。
『ここから深さ60でございます。ここには、大剣タイプのソードブレイカー【モウシン】と、長剣タイプのソードブレイカー【メイビ】がフロアボスとして待機しております。』
「ネームモンスターか。なんでお前がそれを知っている?」
『トレジャーエリアと第5階層の失態を取り戻すべく、全力で魔力探知を展開したからでございます。』
「そうか。それはありがたいが、魔力切れとかには注意しろよ。身体は労われ。」
『ご心配には及びません。このダンジョンには瘴気が無尽蔵にあります故、変換して魔力を補充できます。』
「ならいいが、魔力関係ではあんまり無理するなよ。それと、無謀なこともするな。」
俺がこう言うと、ローディアスは首肯した。
「よし。ところで、そいつらはここからどのくらい行ったところにいる?」
「少々お待ちください……ふむ……2.5km程先にいますな。奴らは自分から突っかかってくることはしませんので、こちらから向かうしかありませんが……」
「どうせ向かうんだから問題ない。じゃあ、引き続き道案内だ。」
「お任せください。」
ローディアスはまたゆっくりと進み始めた。
「ああ、あれだな。」
しばらく進んでいると、奥に少し銀色の煌めきが見えた。俺はそこに向かって鑑定を発動。
ソードブレイカー(大剣) ランクE
名前:モウシン
保有魔力:8000/10000
称号:炎の激闘者(炎属性の攻撃力中上昇)
スキル:炎剣(剣に炎を纏わせるスキル)
状態:正常
体力:5000
魔力:150
筋力:6000
耐久:4000
俊敏:1300
抵抗:3000
ソードブレイカー(長剣) ランクE
名前:メイビ
保有魔力:9200/10000
称号:輝きし舞踏者(敵の攻撃回避率中上昇)
スキル:疾走(高速移動を可能とするスキル)
状態:正常
体力:4500
魔力:100
筋力:3200
耐久:2500
俊敏:5000
抵抗:2900
「両方称号とスキル持ちか……スキル特性上、大剣は凍らないだろうし、長剣には避けられるよな……となると、こっちも武器で対抗するのが良い。」
俺はそう言いながら、神秘の破砕銃をホルスターから抜き、メイビに狙いをつけると、
「狙撃武技Lv2スキル、【アキュラシーショット】!」
と叫びながら引き金を引いた。命中率を大幅に上昇させる武技、アキュラシーショットの効果で見事に聖の弾丸はメイビの柄に命中。更に、回転式弾倉に込められた氷の魔力によって柄を凍らせ、動きを鈍らせることにも成功した。
「よし、次は……」
俺はそう言いながら、ドラゴンスレイヤーを取り出し、モウシンに斬りかかる。もちろんドラゴンスレイヤーに炎属性を付与した為、斬り合いになっても火力では負けない。
「剣術武技Lv5スキル、【衝撃刃】!」
俺がそう叫んでドラゴンスレイヤーを振るうと、モウシンもフルスイングされたようにドラゴンスレイヤーに自らの刃をぶつける。その2つの刃が交錯した瞬間、モウシンの方が吹き飛ばされた。衝撃刃の効果で、当たった瞬間にドラゴンスレイヤーが衝撃波を生み出したのだ。モウシンは空中でフラフラと揺れている。少なからずダメージを与えることができたようだ。
「剣術武技Lv2スキル、【ブリングダウン】!」
ユリアも後ろでメイビと戦っているらしく、剣戟音が聞こえてくる。あっちは任せて大丈夫そうだな。
「爆炎よ、包み弾けろ! 【エクスプロージョン】!」
俺はヒールフレイムの杖を構えて爆発の魔力が籠もった弾丸をモウシンに向けて飛ばす。モウシンは避けなかった。しかし、爆発に巻き込まれたわけでもなかった。
――ゴオオオオオオオー!
突如として刃の部分を炎で包み込み、エクスプロージョンの火球を斬り裂いたのだ。そして、はずみで爆発した火球による爆風にも耐え、勢いをつけてこちらへ一直線にかかってきた。刃が炎に包まれた状態で。
「まさに猛進ってか……面白い!」
俺はそう言うと、ドラゴンスレイヤーに氷の魔力を込め、炎剣を発動させているモウシンを真っ向から受け止めた。ギリギリとせめぎ合う長剣と大剣。
「クッ……」
俺は少し顔をしかめた。通常筋力8200で、黒迅の魔槍の効果で底上げしても剣士系職業に比べると劣る俺は、単純な力比べが苦手なのだ。モウシンの筋力は6000なのでパラメーター値では勝っているが、向こうは疲れを感じない為、こちらの方が不利だ。
「ぬうっ……」
俺は炎を大きく燃え上がらせるモウシンを何とか受け止め、いい案は無いかと考える。その時思い出したのは、深さ50での戦闘だった。確かケンロウがユリアの剣の衝撃を弾き返して、そのはずみでシルバーソードは天井に突き刺さったんだったな、とそこまで思い出して俺は1つ手段を思いついた。
「速さと威力が怖いなら、動けなくすればいい!」
俺はそう言うと、サッとしゃがみ、モウシンと交錯させていたドラゴンスレイヤーも下げる。突然攻撃目標を失ったモウシンが自らの勢いを止めきれずに少し前に出た隙を俺は見逃さなかった。
「剣術武技Lv5スキル、【衝撃刃】!」
俺はそう叫んで思い切りドラゴンスレイヤーを振り上げた。それはモウシンにクリーンヒット。衝撃をまともに食らったモウシンはあっという間にダンジョンの天井にぶつかり、刃が突き刺さって身動きが取れなくなってしまう。
「ふう、手間かけさせてくれたじゃないか。だが、これでお前は終わりだ! 杖術武技Lv1スキル、【殴打】!」
フライを使用してモウシンに近付いた俺がヒールフレイムの杖でモウシンの柄を思いっ切り叩くと、綺麗に柄と刃が分断された。それと同時に、刃を包み込んでいた炎も消える。どうやら倒せたらしい。
「これで終わり! 剣術武技Lv6スキル、【サクリファイス・スラッシュ】!」
ユリアの声と、剣が砕け散る甲高い音が聞こえた。後ろを向くと、ユリアの剣がメイビを真っ二つに叩き斬ったらしく、地面には砕けたメイビの欠片が散乱していた。それを確認したとき、脳内でお馴染みの機械音声が。
【ダンジョンマスターが杖術武技を使用しました。杖術スキルをレベルアップします。】
【ダンジョンマスターの剣術の熟練度が上がりました。剣術スキルをレベルアップします。】
【称号【強奪者の素質】発動により、モウシンのスキル、【炎剣】を強奪しました。技能として習得します。】
「レベルアップと能力強奪か……」
俺はそう呟くと、考えることを放棄した。いくら悩んでもスキルが減ったりレベルダウンしたりする訳じゃないしな。
『主君、どうかなさいましたか?』
「いや、何でもない。」
「大丈夫ですか、リチャードさん?」
「ええ。ちょっとボーっとしてただけです。ローディアス、案内の続きを頼む。」
「お任せください。では、こちらへ。」
ローディアスはそう言うと、ダンジョン内を進む。俺たちはそれに従い、第7階層に入るのだった。
【死霊のダンジョン、第6階層を攻略しました。】
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:86→87
スキル:鑑定眼(Lv5)
剣術(Lv5→Lv6)
鎌術(Lv3)
槍術(Lv4)
杖術(Lv1→Lv2)
体術(Lv4)
狙撃(Lv3)
幸運(Lv5)
疾走(Lv6)
壁走(Lv1)
武器造形(Lv1)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
聖耐性
邪属性無効
地属性無効
闇属性無効
技能:炎剣(魔法剣)
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
瘴気喰らう者(瘴気系の悪影響中減少)
気高き守護者(防御魔術の威力小上昇)
称号収集家助手(称号獲得率中上昇)
ウェポンメイカー(武器造形成功率中上昇)
影の支配者(闇属性魔術の威力中上昇)
嵐神の加護(風、嵐属性の威力大上昇)
強奪者の素質(倒した相手のスキル、称号奪取率小上昇)
邪を祓いし者(浄化属性魔術の威力中上昇)
神獣との契約者(戦闘勝率大上昇)
スキル収集家助手(スキル獲得率中上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ウィンドナックル(R、風属性物理攻撃可能)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)
神秘の破砕銃(UR、神秘の聖銃の上級武器)
黒迅の魔槍(UR、闇属性能力及び筋力上昇)




