66.深さ36~39 宝箱と空箱
『主君、いよいよトレジャーエリアでございます。』
いつものローディアスの説明。
「ローディアスさん、ここはどんなところなんですか?」
「ユリアさん、ローディアスに『さん』はいりません。それとローディアス、早く答えろ。」
『はい。このトレジャーエリアには無数の宝箱があります。出るものは様々ですが、トラップが出ることはありません。』
「ふーん。じゃあモンスターは? いないのか?」
『深さ36~39にはおりません。ですが、トレジャーエリア最深部、深さ40に宝の番人であるゲートキーパーとグリフォンが待機しています。奴らは冒険者が獲得した宝の数やレアリティに応じて強くなっていく、と言う厄介な性質を所持しております。』
「何で死霊のダンジョンに神獣のグリフォンがいるんだよ……ゲートキーパーは宝物の守護者って言われるモンスターだからまだ分かるけど。」
『それは某には分かりかねます。まあ、恐らくこのダンジョンの濃い邪素の影響を受けて凶暴化し、ここに入ったのだと思いますが。』
「ここの邪素はそんなに強いのかよ……」
俺は少し呆れたようにそう呟くと、一番近くにあった宝箱を開ける。中には羽の付いた靴が入っていた。俺はすかさず鑑定。
【フライシューズ】 アイテムレアランク:R
履くことで空を飛べる靴。どんな職業の者でも使用できるが飛行している間は使用者の魔力を消費し続ける為、魔力切れには注意が必要。
俺はその説明文を読むと、フライシューズを異次元倉庫に放り込み、もう1つ宝箱を開けてみる。その中には紺のローブが入っていた。
【魔術師のローブ】 アイテムレアランク:N
魔術師が好んで着用するローブ。汚れにくいが破れやすく、魔術付与もできない。
「ついでだ、もう1つ。」
俺はそう言いながら、もう1つ開ける。今度は緑色の拳サポーターが出てきた。
【ウィンドナックル】 アイテムレアランク:R
風属性の魔術が付与された拳サポーター。風属性に適性のある魔術師にしか使うことができない。
「これは体術と相性が良さそうだな。」
俺はそう言うと、ウィンドナックルを異次元倉庫に放り込み、
「ユリアさんの方は、何か出ましたか?」
と聞いた。
「私の方からは、これが出ました。」
そう言ってユリアが見せたのは、黒いパワードスーツのような服だった。
【鮫革の防護服】 アイテムレアランク:SR
ブラックシャークの革で作られた防護服。所持者に【水耐性】のスキルを与える。更に、鮫肌の為、物理攻撃をしてきた敵にダメージを与えることがある。
「おお、SRですか。運いいですね。」
俺が鑑定結果を確認してからこう言った時、ローディアスが、
『何ですと?』
と声をあげた。
「どうした、ローディアス。」
『この深さにある宝箱からSRが出るなどあり得ないのです!』
「いや、それはないだろ。ユリアさんが出したあの防護服はSRだし。」
『だからおかしいのです! 深さ36の宝箱から出るのはRまでで、SRは……』
「あ、それは私のスキルの効果です。」
ローディアスの声を遮ってユリアがそう言った。
「スキル、ですか?」
「はい。私のスキル、【幸運】は運を良くするスキルで、獲得アイテムが格上げされたりするんです。だから、今のも中に入っていたRのアイテムがスキルの効果で格上げされてこれになったんだと思います。」
「そういうスキルもあるんですね。」
「リチャードさんは持ってないんですか?」
「ええ。そのスキル、入手条件は何か分かりますか?」
「えっと、【幸運】のスキルは死の淵から生還するとか、崖から転落して無傷だったとか、そういう奇跡体験をすることが入手条件です。それと、特別例ですけど、ダンジョン攻略時にダンジョンモンスターを深さ50まで全て殲滅しきった場合も入手できるらしいです。この場合はいきなりLv5が。」
「いきなりLv5ですか?」
「はい。ダンジョンモンスターを殲滅しきって進む、なんて普通は不可能ですから、一種の奇跡体験っていうことになるんですよ。」
「じゃあ、俺たちはその普通は不可能であることをしてるってことですか?」
「そうなります。」
『これは歴史的な大活躍でございます。もっと嬉しそうな顔はできないのですか、主君?』
「ローディアス、お前は黙れ。」
そう言ってローディアスを黙らせた時、俺はふと瘴気の流れを感じた。ローディアスから出た瘴気ではなく、ダンジョン内に溜まっている瘴気だ。ちょっと気になったので、俺は瘴気が流れていった方にあった宝箱を鑑定する。その結果は……
タカラバ・コゥ ランクD
名前:‐‐‐‐‐
保有魔力:30/5000
称号:なし
スキル:擬態(無生物に体を似せることを可能とするスキル)
状態:凶暴化
体力:1000
魔力:0
筋力:600
耐久:150
俊敏:0
抵抗:80
何とモンスターだった。俺はそれに近付くと、剣術武技Lv2スキル【ブリングダウン】を使用して、ドラゴンスレイヤーで真っ二つに叩き斬る。すると、そのタカラバ・コゥというらしいモンスターは
「ギェ……」
と呻き声を上げて消滅した。俺はそれを見届けると、ローディアスを睨む。
『し、主君、どうか怒りをお鎮めください……』
「そういうセリフで俺の怒りが鎮まるとでも思ってるのか?」
『これは謝罪のつもりですが……』
そう言って震えるローディアス。
「謝罪になっていない。まあ、今回は許すがな。」
『ゆ、許して下さるのですか?』
「あのタカラバ・コゥとかいうモンスターに関して、お前は全く知らなかったみたいだからな。知らないことを教えろって方が無理な話だ。それとも知っていて黙っていたのか?」
『い、いえ! ここの宝箱がモンスター化したということは、一切存じておりませんでした!』
「ならいいさ。知らないことを教えるのは不可能だろ。ただ、あのモンスターについて知っていることがあったら教えてくれ。」
『お任せください。タカラバ・コゥは不死族瘴気系に分類されるモンスターで、ダンジョン内の宝箱が開けられ、空になった後に瘴気が取り憑くことによって誕生します。移動はできませんが、噛み付きは地味に強力なので、それには注意が必要です。』
「成程。なら……」
俺はそう言いながら、ユリアをチラッと見る。ユリアは頷いて短剣、ゴールデンダガーを取り出した。俺が言いたいことが分かったようだ。
「ゴールデンダガー特殊技、【邪気一掃】! そして、短剣術武技Lv3スキル、【高速斬撃】!」
ユリアの叫びに呼応して、ゴールデンダガーが金色の光を辺りに放出する。すると、いくつかの宝箱から苦しげな呻き声が上がった。ユリアはそれに狙いを定めると、次々にゴールデンダガーで斬り裂いていく。一撃一殺。あっという間にエリア内の瘴気を消し去り、タカラバ・コゥの殲滅を完了させた。
「リチャードさん、どうでしたか?」
ユリアは満面の笑みで俺に言う。
「素晴らしかったです。あの短剣さばき、思わず見惚れてしまいました。」
俺がそう言うと、ユリアの顔が夕焼けのように真っ赤に染まった。
『ククク、ユリア殿は……』
「ローディアス、お前は懲りるということを知らないのか? マジで魔石を砕くぞ。」
『お許しください、主君!』
「ユリアさんの感情に余計なツッコミを入れるな。今は道案内とダンジョンの説明に集中しろ。お前をいちいち止めるのも大変なんだよ。俺の胃に穴が開いたらどうする気だ? 確実にお前は消滅確定コースへまっしぐらだからな。覚えておけよ。」
『うっ……』
「さあ、消えたくないなら道案内だ。ユリアさん、行きますよ。」
俺はそう言うと、ローディアスを進ませるのだった。
「よいしょっと。これはNの【剣士の服】か。」
深さ39の深部で、俺は宝箱を開けてそう言うと、剣士の服を異次元倉庫に入れた。
「そろそろ深さ40だし……あと2、3個でやめておきましょう、ユリアさん。」
俺はユリアにそう声をかけると、もう1つ開ける。中からは茶色いブーツが出てきた。
【地龍の革靴】 アイテムレアランク:SR
グランドドラゴンの革を鞣して作られた靴。装飾性には乏しいが非常に強靭で、装備者に【疾走】と【地属性無効】のスキルを与える。また、装備者の地属性魔法の威力を上昇させる。
「おお、良い装備だ。これはここで装備するか。」
俺はそう呟くと、今まではいていた革靴を脱いで、地龍の革靴に履き替える。そして、少し足踏みをしてみるが、特に重いということも無い。問題はないようだ。
「もう1つくらいなら平気か?」
俺はそう言ってまた1つ開ける。今度は赤いホルスターが出てきた。
【レッドホルスター】 アイテムレアランク:R
火山地帯に棲息するリザードマンの変異種、レッドリザードマンの革で作成されたレッグホルスター。熱耐性に優れ、破れにくい。
「ホルスターか。これがあれば神秘の破砕銃をすぐ取り出せるな。」
俺はそう言いながら、レッドホルスターを大腿部に取り付ける。そして足踏み。歩きにくさは特に感じないので、これも問題は無いようだ。
「ユリアさん、そろそろ行きましょう。」
俺がそう声をかけると、ユリアは頷いた。
「よし、じゃあ仕上げだけしますね。全ての瘴気を浄化しろ、【クリーナップシャワー】!」
俺がこう唱えると、清き光が辺り一面を照らし出した。いくつかの宝箱が呻き声を上げながら塵となって消えていく。タカラバ・コゥは瘴気系モンスターなので、呪系程ではないが浄化に弱いのだ。
「さて、次はいよいよ宝の番人か……俺たちが入手したアイテムは全部で50だから、結構強さは増してるだろうけど、まあ、何とかなるだろ。」
『楽天的ですな、主君。相手は神獣ですぞ?』
「ポジティブシンキングの方が良いだろ。あ、そうだ、ローディアス。次の戦闘時、お前はウォーサイズの中に戻っていてくれ。」
『構いませぬが、なぜ?』
「お前を狙われたらいろいろと面倒だからな。今はお前だって、一応俺の仲間なんだ。俺が切り捨てるならそれは別だが、今はそのときじゃない。お前にダメージを負わせるわけにはいかないからな。さあ、さっさと行くぞ。」
俺はそう言うと、ローディアスを進ませた。
「リチャードさん、やっぱり優しいんですね。」
「そうですか? この位普通ですよ。仲間を危険な目には合わせたくないでしょう?」
「自分が助かる為に仲間を囮に使うような冒険者も結構いますよ。まあ、リチャードさんはそんなことしないでしょうけど。」
「当たり前じゃないですか。仲間を見捨てて助かるくらいなら、仲間を助けて死んだ方が100倍マシですよ。」
俺たちはそう会話しながら、深さ40に踏み込んだのだった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:63
スキル:鑑定眼(Lv5)
剣術(Lv5)
鎌術(Lv3)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
狙撃(Lv3)
疾走(Lv1)
武器造形(Lv1)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
聖耐性
邪属性無効
地属性無効
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
瘴気喰らう者(瘴気系の悪影響中減少)
気高き守護者(防御魔術の威力小上昇)
称号収集家助手(称号獲得率中上昇)
ウェポンメイカー(武器造形成功率中上昇)
影の支配者(闇属性魔術の威力中上昇)
嵐神の加護(風、嵐属性の威力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ウィンドナックル(R、風属性物理攻撃可能)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)
神秘の破砕銃(UR、神秘の聖銃の上級武器)




