65.深さ31~35 影中の急襲者
『主君、第4階層は2つのエリアに分かれております。』
第4階層、深さ31の通路に入ったところで、ローディアスがそう言った。
「2つのエリア?」
『はい。深さ31~35が【シャドウエリア】、深さ36~40が【トレジャーエリア】でございます。』
「ふーん。なら、当然いるモンスターの系統も違うんだよな?」
『その通りです。』
「シャドウエリアにいるモンスターはどんな奴なんだ? エリア名から何となく想像つくけど、一応教えてくれ。」
『お任せください。シャドウエリアはイートシャドウ、ハンターシャドウ、アサシンシャドウ等の奇襲特化型モンスターで占められております。』
「やっぱりあいつらか。基本のイートシャドウから珍種扱いだし、気を緩めるとすぐに背後を取られるから面倒なことになりそうだな。」
俺はそう呟いてから、ユリアの方を向き、
「ユリアさん、せっかくメンテナンスしましたけど、シルバーソードの意味がなくなっちゃいましたね。」
と言った。
「え? 何でですか?」
「何でって……俺が第2階層で話したこと、覚えてないんですか? イートシャドウは特殊なモンスターで、魔術付与が無い武器ではダメージを与えられないんですよ。」
「あ、そういえば……でも、これがあります! これなら大丈夫ですよね?」
そう言って、ユリアはポーチから短剣を取り出す。
「ああ、セイントダガーですか。それはちょっと分からないですね。セイントダガーに付与されているのは【聖なる加護】であって、【聖の魔術】ではないですから……」
「加護と魔術って違うんですか?」
「使用されているのは両方とも魔力ですので誤解されがちですが、加護は防御魔術の下位互換って感じです。まあ、聖属性は邪と闇属性に特効ですから効果はあるかもしれませんが、なかった場合は確実に命を落とします。」
「じ、じゃあどうすれば……」
「俺が聖属性を付与すれば大丈夫だと思います。神秘の聖銃にも付与できましたし。ちょっとやってみますね。」
俺はそう言うと、セイントダガーに触れ、
「【グラントセイント】!」
と唱えた。するとセイントダガーが激しく輝き、刀身が金色に変化した。
「あれ? こんな反応するはずないんだけど……」
本来、聖属性を付与した武器は光を放つようになるだけで、金色になったりはしない。俺は鑑定してみることにした。
【ゴールデンダガー】 アイテムレアランク:SR
セイントダガーの上級変化武器。聖なる加護を受けた上で聖属性を付与された短剣。所持者に聖属性への適性と【聖耐性】、【邪耐性】のスキルを与え、邪属性にセイントダガー以上の破壊力を示す。また、特殊技の【邪気一掃】を使用して振るうことで周囲の邪気を払うこともできる。
「……えっと、予想外のことが起きましたが、取り敢えず付与は成功しました。」
「ありがとうございます!」
「いえ。お礼を言われる程の事ではありませんよ。」
俺はそう言いながら、ドラゴンスレイヤーを腹に突き立てる。ジュエルドラゴンの鱗でできているだけあって、破壊力は抜群。あっさりと俺の身体を貫通した。
「え? り、リチャードさん、何してるんですか!」
「何って、討伐ですよ。影からイートシャドウが出てきたのに気付いたんですけど、今から振り向いても間に合わないと思ったんで俺ごと串刺しにしたんです。」
俺はそう言うと、無詠唱で【ハイパーヒール】を発動させ、ドラゴンスレイヤーを引き抜く。無論、後ろから不意打ちをしようとしていたイートシャドウは先程の一撃で絶命し、消滅していた。
「油断できませんよ。相手はこっちの事情なんか汲んでくれませんから。」
俺はそう言うと、奥に向けて神秘の破砕銃を乱射。すると、いくつかの悲鳴が聞こえてきた。
「これで連中の敵意は俺に集まったかと思いますが、一応用心はしておいてください。奴らは神出鬼没、いつどこから現れるか分かりませんから。」
俺はそう言うと、ドラゴンスレイヤーと神秘の聖銃をしまい、代わりにソウル・ウォーサイズを取り出して奥へと進むのだった。
「せいっ!」
「ガッ……」
「短剣術武技Lv3スキル、【高速斬撃】!」
「ギギャッ……」
深さ23の中間地点まで進んだ俺たちは、イートシャドウの群れと戦闘していた。無数の黒い影が立ち塞がり、背後からも襲いかかってくる。字面で判断したら地獄絵図以外の何物でもない。
「あー、もう面倒臭い!」
「リチャードさん、愚痴を言っている暇はありません!」
「そんなことは分かってますよ。でも面倒臭いんだからしょうがないじゃないですか。」
俺はそう言うと、武器を持ち替える。今度はヒールフレイムの杖だ。
「漆黒より昏き闇よ、我が杖に来たりて、敵を滅する礎となれ! 【バインドミスト】!」
呪文に呼応して、ヒールフレイムの杖が黒く輝き、紫色の霧が噴出した。それはイートシャドウに纏わりつき、動きを封じていく。
「動かなければ撃破は容易いからな。魔法が無くても勝てる。」
俺はそう言うと、ソウル・ウォーサイズを取り出して構え、
「鎌術武技Lv3スキル、【オーラサイズスラッシュ】!」
と叫ぶ。すると、鎌に闇のオーラが纏わりついた。俺はそれをいつものように横薙ぎに振るう。すると、鎌に纏わりついていた闇のオーラがイートシャドウの群れに向かって飛んでいった。そして、イートシャドウたちの前で鎌の形状に変化し、一撃で黒い影の群れを真っ二つに斬り裂いた。
「よし、これで前方は殲滅完了っと。」
俺はそう言って後ろを向くと、後方にいたイートシャドウも同じように殲滅。そして、凄い凄いとはしゃぐユリアを落ち着かせながら歩を進めた。
そして辿り着いた深さ35。ここまでが奇襲特化型モンスターで占められているシャドウエリアだ。
「ユリアさん、ここからは警戒を強めないときついと思いますよ。ここまで出てきていないイートシャドウ進化系モンスターがわんさかいるでしょうからね。」
「シノビシャドウが怖いっていうのは、前にリチャードさんが仰っていたから覚えています。でも、他のも怖いんですか?」
「勿論です。影の剣と影の盾で剣士と対等に戦う能力を持つハンターシャドウや後ろからいきなり突き刺してくるアサシンシャドウ。イートシャドウの時よりも敏捷性が上がっていますし、傷をつけられると【鈍重】や【恐怖】のバッドステータスを付与される可能性があります。そうすると、一気に戦いにくくなりますよ。」
「私が食らったら……」
「いくら俺でもイートシャドウ系を何体も相手取った状態でユリアさんを庇うのは難しいです。まあ、その場合は……」
俺はそう言いながらローディアスをチラッと見る。
『主君、戦えと庇え、どちらの意味ですか?』
「どっちだと思う?」
『主君のことですから、『どちらでもない』か『どちらも』でしょう。そして、この場合は『どちらも』が適切です。』
「分かってるじゃないか。臨機応変に、その時の状況で判断しろ。」
俺はそう言いつつ、神秘の破砕銃を取り出す。そして、
「これからの相手はめちゃくちゃ素早いので気を付けてくださいね。」
と言い、奥へと進む。そして700m程進んだところで、俺は多数の気配を感じた。
「ユリアさん、止まってください。この先に多数の気配を感じます。」
俺はそう言うと、壁に聖の魔力を注ぎ込む。すると、壁に映っていたダンジョン内にある岩などの影から無数の人型の影が飛び出してきた。相手は焦って冷静さを失っている。
「よし、今がチャンス! 狙撃武技Lv3スキル、【ローリングシリンダー】!」
そう叫んで俺が神秘の破砕銃の引き金を引くと、回転式弾倉が高速で回転しだした。それと同時に、金色の弾丸が目にも止まらぬ速さで射出され、影の群れに突っ込んでいく。燃やされ、凍らされ、刺され、抉られ、焦がされ、捻り潰されていく無数の影。敵が素早いなら、それ以上の速さで攻撃すればいいと思ってやってみたのだが、結構効果があったな。
「んー……でもまだ全部は倒しきれないか……」
俺はそう言いながら前方でまだ蠢いている30体ほどの影を対象に鑑定眼を発動。すると、ハンターシャドウ、シノビシャドウ、アサシンシャドウの他にもう1つ、見覚えのない名前が浮かび上がった。
トラップシャドウ ランクC-
名前:‐‐‐‐‐
保有魔力:57736/444444
称号:なし
スキル:影潜(一定範囲内の影の中を自由自在に移動できるスキル)
影罠(物体の影を操って不可視の罠を作成できるスキル)
影踏(対象の影を踏んで動きを制限できるスキル)
状態:正常
体力:4444
魔力:4444
筋力:444
耐久:444
俊敏:4444
抵抗:444
「トラップシャドウ?」
俺がこう呟いた時、何体かいたトラップシャドウが一斉に影に潜って姿を消した。そして、数秒遅れて俺の身体が強張る。
「なっ?」
何とかして後ろを見ると、俺の影を4体のトラップシャドウが踏みつけていた。ユリアはと見ると、そっちには1体しかトラップシャドウがいなかった。どうやら奴らは俺の方が強いということを見抜き、こっちに戦力の多くを割いたらしい。
「成程、俺の方を先に始末しようってことか……」
俺がそう言うと、それに応じるようにハンターシャドウとシノビシャドウがこちらに突進してきた。更に、アサシンシャドウたちはその場でこちらに向けて闇の銃弾を放つ。
「リチャードさんっ!」
ユリアの焦ったような声が響くが、俺は落ち着いていた。
「大丈夫ですよ、ユリアさん。この程度で俺はやられません。」
俺はそう言うと、迫りくる闇の銃弾を睨みつけ、重力魔法【ミリオンニュートン】を発動させる。すると銃弾は勢いを失い、その場にポトリと落ちた。俺はそれを確認すると、
「渦巻け、風よ! 全てを呑み込み、全てを斬り裂け! 【テンペストトルネード】!」
と叫んだ。すると、俺の腕から緑色の魔力が飛び出し、それが前方にいるハンターシャドウ、シノビシャドウ、アサシンシャドウを呑み込んでいく。そして、その魔力は逆円錐を形作り、竜巻に変化した。
「ギャギャギャギャギャギャギャ!」
聞くに堪えないような悲鳴を上げながら、ハンターシャドウたちは竜巻の中で無数のカマイタチに切り刻まれ、消滅していく。しかし、その難を逃れた奴らがこちらへ向かって来た。
「やっと集まってくれるか。これぞ正しく、『飛んで火にいる夏の虫』だな。燃え尽きろ! 炎よ噴き出せ! 【ヴォルカニック】!」
そう叫ぶと、俺の身体全体から灼熱の炎が噴き出した。その威力は凄まじく、瞬く間に俺の周囲は火の海になった。全てのイートシャドウ系モンスターが消滅していく。そして、炎が消えた時、このフロアにいるのは俺とユリアとローディアス、そしてユリアの影を踏んでいるトラップシャドウだけになっていた。そいつは慌てたように影に潜って逃げようとしている。
「逃がすか! 【バインドミスト】!」
俺はそう唱えて拘束の霧でトラップシャドウを捕らえると、ソウル・ウォーサイズで斬った。トラップシャドウは声をあげる暇もなく消滅した。
「よし、殲滅完了!」
俺は清々しさを感じながらそう言った。すると、脳内でいつものように機械音声がアナウンス。
【ダンジョンマスターがイートシャドウ系モンスターを100体以上撃破しました。称号【影の支配者】を入手します。】
【ダンジョンマスターが上級嵐属性魔法師を使用しました。称号【嵐神の加護】を入手します。】
「また新称号か……称号多すぎるだろ……」
俺はそう言いながら、ローディアスに目配せをし、道案内を続けさせたのだった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:59→63
スキル:鑑定眼(Lv5)
剣術(Lv5)
鎌術(Lv3)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
狙撃(Lv3)
武器造形(Lv1)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
聖耐性
邪属性無効
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
瘴気喰らう者(瘴気系の悪影響中減少)
気高き守護者(防御魔術の威力小上昇)
称号収集家助手(称号獲得率中上昇)
ウェポンメイカー(武器造形成功率中上昇)
影の支配者(闇属性魔術の威力中上昇)
嵐神の加護(風、嵐属性の威力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)
神秘の破砕銃(UR、神秘の聖銃の上級武器)




