64.深さ30 休憩とメンテナンスと改良
「ふう、やっと深さ30か。ここにはモンスターがいないんだよな?」
深さ30の通路を半分ほど進んだところで、俺はローディアスにこう聞いた。
『はい。ここは某の特殊結界により、某以外のモンスターはいかなる手段を用いようとも入ってこられないのです。』
「なら、ちょっと休憩するか。」
俺はそう呟くと、壁を背にして座る。ユリアも隣に座った。
「俺は休憩がてら武器のメンテナンスをしますけど、ユリアさんはどうします?」
「あ、私もメンテナンスをします。」
『ククッ、主君と同じ行動をしたいという意図が見え見えですな。そしてあわよくば……』
「ローディアス、その口にチャックを縫い付けられたくなかったら黙っていろ。」
『某は非実体化もできます故、チャックを縫い付けることなど……』
「ユリアさん、エリートゴーストの魔石を砕いてください。」
『申し訳ありませんでした! 以後自重致しますので、何卒ご容赦の程を! お許しください、主君!』
「取り敢えず俺の武器メンテナンスが終わるまで一切声を発するな。」
俺はそう言うと、異次元倉庫から武器を取り出した。
「アイアンナイフは使ってないからいいけど、他はかなり使ったからな……特にドラゴンスレイヤーでは腐液斬ったりもしたし……ユリアさんはどうですか?」
「シルバーソードの斬れ味が少し落ちています。特殊効果のおかげで刃毀れはしていませんけど。」
「セイントダガーは?」
「使っていないので、メンテナンスの必要はありません。」
「そうですか。ならダガーは別に何もしないでいいですね。」
俺はそう言うと、異次元倉庫を開けて入れておいたメンテナンス用の油と砥石を取り出そうとした。しかし、取り出し方を間違え、中に入っていたゴーストの魔石を取り出してしまった。
「あ、間違えた。魔石じゃなくて油と砥石なのに……」
俺はそう言いながらもう一度異次元倉庫に手を突っ込む。しかし、また取り出し方を間違え、今度はハイゴーストの魔石を取り出してしまった。
「なんでこうも間違えるんだ? 油と砥石だぞ、油と砥石。」
今度こそ、と意気込んで異次元倉庫に手を突っ込む。今度は間違えなかったらしく、ちゃんと油と砥石が出てきた。
「ふう、やっと出た。」
俺はそう言いながら、ドラゴンスレイヤーの刃に油を塗り、砥石で研ぐ。そして、ちょっと指先を切ってみた。血がミニチュアの噴水のように噴き出る。特に斬れ味が減退している訳でもなかったが、前よりもよく斬れるようになったような気がする。
「よし、ドラゴンスレイヤーはメンテ完了。あ、ユリアさんもこれを使ってください。」
俺はそう言いながら、次に神秘の聖銃のメンテナンスを始める。
「これは弾切れの心配はないけど、俺の魔力を消費するからな……まあ、俺の保有魔力量からすると消耗の心配はないけど、聖しか撃てないっていうのが難点だし……改良してみるか。」
俺はそう言いながら、神秘の聖銃の回転式弾倉のような部分を引き出す。どうやら、普通に弾も込められるらしい。
「んー、撃つたびにここ回転はしてるんだよな。弾を込めてる訳じゃないのに……でも、回転してるってことは、弾倉1つ1つに違う魔力を付与することで、色々な属性の弾丸が打てるかも……まあ、試す価値はあるよな。」
俺はそう呟きながら、1つ目の弾倉に炎属性を付与し、壁に向けて引き金を引いてみる。すると、いつものように射出された金色の弾丸は壁に当たった途端、燃え上がったのだ。
「うおっ、凄いな……これは敵の意表をつけるかもしれない。」
俺はそう言いながら、残り5つの弾倉に氷、地、嵐、雷、邪の魔力を込める。そしてそれぞれ試し撃ち。氷では壁が凍りつき、地では土の針が壁に突き刺さる。嵐では風の刃が壁を抉り、雷では稲妻が壁を焦がし、邪では壁が見えない力によって一部崩壊した。
「ちょっと強力すぎるか? でもまあ、ちゃんと付与できてるみたいだし、良かった。」
俺はそう言いながら神秘の聖銃を何気なく鑑定。そして、その結果に驚愕した。
【神秘の破砕銃】 アイテムレアランク:UR
神秘の聖銃の上級変化武器。回転式弾倉1つ1つに違う属性の魔術が付与されており、破壊力は抜群。更に、所持者に【聖耐性】、【邪属性無効】のスキルを与える。この武器は魔術師か魔法銃士にしか使用できない。
「これは凄い……」
俺はこう呟く。まさか単なる思い付きでやった魔術付与がレアリティランクを引き上げるとは……
「スキルも増えたしな……」
そう言いながら俺が神秘の破砕銃を異次元倉庫にしまった時、脳内でお馴染みの機械音声が再生された。
【ダンジョンマスターが武器を改良しました。武器造形スキルを解放します。】
【ダンジョンマスターが新しい武器を作成しました。称号【ウェポンメイカー】を入手します。】
【ダンジョンマスターが新アイテムを鑑定しました。鑑定眼スキルをレベルアップします。】
【ダンジョンマスターが新しい銃を撃ちました。狙撃スキルを2レベルアップします。】
「……前の3つは兎も角、最後はおかしいだろ。何で撃っただけで2もスキルレベルが上がるんだよ……」
俺がこう呟くと、シルバーソードを研いでいたユリアが反応した。
「り、リチャードさん、今なんて言いました?」
「え? ああ、独り言です。気にしないでください。」
「スキルレベルが上がったって聞こえたんですけど……」
「ああ、スキルレベルは上がりましたよ。狙撃スキルのが。」
俺がこう言うとユリアは目をキラキラさせ始めた。
「どうかしましたか?」
「凄いです、リチャードさん! 試し撃ちで狙撃スキルが上がるなんて!」
「それは俺が凄いんじゃなくて、銃が凄いんだと思いますけど……」
「その銃を作ったのはリチャードさんです! だから、リチャードさんが凄いんです!」
「あの銃の前身である神秘の聖銃を造ったのはヨーゼフさんです。」
「ヨーゼフさんはリチャードさんのお知り合いです! だから、リチャードさんが凄いんです!」
「……自分に都合の良い解釈は危険なものですよ。そう思うならそう思っていてもいいですけど、ちゃんと真実を見られるようにもなって頂きたいです。」
俺はちょっと皮肉っぽくいうと、ローディアスに視線を向ける。
『何か御用でしょうか、主君?』
「ああ。この深さの罠の有無について。」
『罠ですか。普段はありますが、本日はありません。』
「は? 普段はあるけど今日はない?」
『そう申し上げておりますが。』
「どういう意味だ、それ。」
『ここの罠は、冒険者が深さ30に入ったときに某が作成するものでございます。しかし本日は、罠を作る前に主君との戦いに行った為、罠は存在しないのでございます。』
「お前そういうところちょいちょい抜けてるよな。エリートの癖に。」
『主君、そのことばかり振るのはおやめください!』
「分かった上で言ってるんだがな。まあいい。」
俺はそう言うと、ユリアの方に向き直り、
「ユリアさん、メンテ終わりましたか?」
と声をかけた。
「あ、はい。油と砥石ありがとうございました。おかげで斬れ味が元に戻りましたよ。」
「なら良かったです。」
俺はそう言いながらユリアが渡してきた油と砥石を異次元倉庫に放り込む。そして、
「ローディアス、案内の続きを頼む。」
と言った。
「お任せください。こちらへどうぞ。」
ローディアスはこう言って、今までと同じように俺たちを先導し、第4階層へと入るのだった。
【死霊のダンジョン、第3階層を攻略しました。】
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:59
スキル:鑑定眼(Lv4→Lv5)
剣術(Lv5)
鎌術(Lv3)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
狙撃(Lv1→Lv3)
武器造形(Lv1)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
聖耐性
邪属性無効
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
瘴気喰らう者(瘴気系の悪影響中減少)
気高き守護者(防御魔法の威力小上昇)
称号収集家助手(称号獲得率中上昇)
ウェポンメイカー(武器造形成功率中上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)
神秘の破砕銃(UR、神秘の聖銃の上級武器)




