59.第1階層 ゴーストと光魔法
「フオオオオオオオオオオオオオオ!」
ダンジョンに入った途端、青白く透き通ったモンスターが奇妙な叫び声を上げながらこちらに向かって襲いかかってきた。
「【セイントショット】!」
しかし、それは俺が杖から放った聖の弾丸に貫かれ、真っ黒な石を残して消滅。
「あんなのがウジャウジャいるのか……面倒臭そうだな……」
俺がそう言いながら振り向くと、ユリアはブルブル震えていた。
「どうかしましたか、ユリアさん?」
「えっと、その、死霊系モンスターを見るのは初めてだったので、ちょっとビックリしてしまいまして……」
「ああ、友好獣のダンジョンでもイートシャドウには出くわしていないんでしたっけ。」
「はい……知識は持っているんですが、遭遇したことはなくて……」
「別にそんな怖いもんじゃないと思いますけど。」
俺はそう言いながら、先ほど倒したモンスターが残した黒い石を鑑定。
【ゴーストの魔石】 アイテムレアランク:N
霊族基本モンスター、ゴーストの身体を維持している魔力の籠もった石。ゴーストに限らず、非実体型のモンスターは魔石の魔力で力を保っていることが多い。
「ふーん。厄介なモンスターだな。」
鑑定結果を見て、俺はそう呟いた。非実体型モンスターは実体が無いので、物理攻撃が一切効かない。即ち、剣術、体術、杖術などの物理攻撃系スキルが一切意味を為さないのだ。まあ、例外としてソウル・ウォーサイズの鎌術は意味があるが、それ以外は無駄だ。
「ユリアさんって、何属性に適性を持ってるんですか?」
「私ですか? えっと、炎と氷です。」
「光は持ってませんか?」
「光は独自に練習したので、中級までは使えますけど、それ以上は……」
「そうですか……となると……」
俺はちょっと考えた。死霊系は闇、または邪属性が多いので、光や聖属性が特効となる。ゴーストは霊族の基本種族、即ち雑魚だから中級の魔法で十分対応が可能だが、それより上となると厳しいかもしれない。
「仕方ないか……ユリアさん、ちょっと我慢してください。」
俺はそう言うと、ユリアの口を開け、その中に指を突っ込んだ。そして、突然のことに驚いて目を見開いているユリアを無視して、呪文を唱えた。
「【アディッション・ライト】!」
すると、俺の身体が金色に輝いた。そして、その光はあっと言う間にユリアの口の中に吸い込まれていった。俺はそれを確認すると、ユリアの口から指を引き抜き、
「はい、これでユリアさんは今から12時間、光属性の魔法ならほぼ何でも使えます。」
と言った。
「え? ほ、本当ですか?」
「はい。俺の光属性に対する適性をユリアさんに付与しましたから。まあ、俺は光が使えなくなりましたけど、聖属性が使えるから問題はありません。」
俺はそう言うと、異次元倉庫を開き、そこから神秘の聖銃を取り出した。
「これで威力を上げられますしね。」
「あ、ありがとうございます……でも、本当に使えますかね?」
「試してみたらどうですか?」
俺がそう言うと、ユリアはシルバーソードを抜いて、
「【ライティングブレイク】!」
と呪文を詠唱。すると、シルバーソードの切っ先から極太のレーザー光線が放たれた。
「わあ、本当に光属性上級魔法が使える……凄いです!」
「ちゃんと付与できていたみたいで俺もホッとしました。じゃあ行きましょうか。」
俺はそう声をかけると、ダンジョンの奥へと歩を進めるのだった。
「ユリアさん、2体そっちに行きました! 応戦お願いします!」
「はい! 【ライトニングアロー】!」
深さ6の深部。ユリアが放った光の矢でゴーストが2体同時に貫かれ、真っ黒な魔石を残して消滅する。俺はそれを確認すると、こちらに迫ってきている大量のゴーストに神秘の聖銃の銃口を向けて、
「砕け散れ! 【セイントキャノン】!」
と叫びながら引き金を引いた。すると、神秘の聖銃の銃口より明らかに大きい金色の弾丸……いや、砲弾が現れ、それがゴーストたちに向かって一直線に飛んでいく。ゴーストたちが慌てて逃げようとするが、その時には既に聖の砲弾が奴らの身体に到達していた。
「フオオオオオオオオー!」
おぞましい悲鳴を上げながらゴーストの群れは消滅。これでこの深さにいたゴーストも殲滅完了だ。
「何か簡単すぎませんか、ユリアさん? ここまで進んでもゴーストしかいないなんて……」
「私もこれは罠っぽい気がします。簡単に逃げられない場所まで誘導してから一気に戦力をぶつける、みたいなやり方かもしれません。油断できませんね。」
「確かに、いつ何が起こるか分かりませんし、更に気を引き締めていきましょう。」
俺はそう言うと、ゴーストの魔石を異次元倉庫に放り込み、聖魔法【ヒールライト】を使用して体力を回復させる。そして、さらに奥へと進むのだった。
「やっぱりどう考えてもおかしいですよ。第1階層が全てゴーストだけで占められているっていうのは。」
「確かにそうですね。いくらこんな浅いところとはいえ、あんな雑魚しかいないなんて、絶対に何か裏があるはずです。」
「ここからは第2階層ですし、強いのも出てくるはずです。更に気合いを入れないと、ですね。」
俺は深さ10の最奥でこう言った。ここまで100回以上モンスターとエンカウントしているのだが、そのエンカウントする相手は常にゴーストなのだ。しかし、いくら数が多くても雑魚は雑魚。大して魔力も体力も消耗せず、大火力の聖魔法と聖の弾丸、敵を逃さない光魔法でぶっ飛ばしてきた。サクサク進めるのは良い事なのだが、こんな簡単にダンジョン攻略ができる訳がない。それはダンジョンマスターである俺が一番よく分かっている。
「絶対この先に罠があるはずです。ユリアさん、罠の発見はお願いしますね。俺はモンスターの殲滅を優先します。まあ、魔力探知はしているのでそう簡単に罠にかかったりはしないと思いますが。」
「はい。ダンジョンの罠は危険度が高いですからね。落とし穴とかならまだいいですけど、モンスターボックストラップとかあったら大変ですし……私は索敵と罠調査に力を入れます。」
「よし、じゃあここからは慎重に行きましょう。」
俺たちは頷き合うと、第2階層に足を踏み入れようとする。とその時、脳内に機械的な声が響いた。
【ダンジョンマスターが銃を使用しました。狙撃スキルを解放します。】
【ダンジョンマスターが霊族のモンスターを100体以上撃破しました。称号【霊の天敵】を入手します。】
【死霊のダンジョン、第1階層を攻略しました。】
どうやらスキルと称号を獲得したらしい。それと、階層攻略っていうのも聞こえてきた。脳内アナウンスは便利だな。
「あの、リチャードさん?」
ユリアに声を掛けられ、俺はハッと我に返った。
「ああ、すみません。ちょっと前の地面が気になったんですが、何もないみたいです。」
俺はそう誤魔化すと、今度こそ本当に第2階層に足を踏み入れたのだった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:52→53
スキル:鑑定眼(Lv4)
剣術(Lv2)
鎌術(Lv1)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
狙撃(Lv1)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
神秘の聖銃(SR、邪属性に特効)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)




