57.戦闘訓練 with 幽霊と従業員
「ティリ、今日は俺自身の戦闘力を上げようと思うんだが、お前はどう思う?」
セントグリフと仲間になった3日後、俺はティリにこう聞いてみた。
「ご主人様の戦闘訓練、ですか? 今の時点で各分野のスペシャリストを超越する程の能力をお持ちなのですから、別に必要ないと思いますが。」
「そうか?」
「私はそう思います。レッドワイヴァーンに勝っちゃうくらい強いんですから。」
「んー、でもな……」
「やりたいと仰るのなら、私は止めませんよ。暇つぶしに冒険者稼業をやるという面で見ても、強さは必要ですからね。」
「なら、やることにしよう。サブマスター、侵入者がいた場合やウィンドウ、コアに変化があった場合は俺に知らせてくれ。」
俺がこう言うと、ティリはビシッと背筋を伸ばして敬礼した。
「はい、了解しました!」
「という訳で、今日は俺の戦闘力を上げる訓練をする。」
俺は訓練場にキャトルとセントグリフを呼び、そう言った。
『ふーん。リチャードの戦闘力は今の時点で少なく見積もってもリーンの5倍は優に超えてるから別に訓練なんてしなくてもいいと思うけど?』
「そんな感じのことはティリにも言われたけど、それはあくまで1対1のときだろ。1対多で戦わざるを得ない状態になったときに勝てないんじゃ、力の持ち腐れなんだよ。」
「それは宝の持ち腐れの間違いなのではないですか、リチャード様?」
「敢えて間違えてるんだ。気付け。」
そう言い放つと、俺はヒールフレイムの杖をキャトルに向けて、
「【サンライトストライク】!」
と呪文を唱える。光属性の中級に属するこの魔法は、光弾を発射して相手にダメージを与え、さらに追加効果で目くらましをすることが可能。そして、キャトルは吸血鬼なので種族特性で闇に適性を持っている。つまり、光が特効なのだ。どう反応するか、と思って見ていると、キャトルは、
「【ダーククロー】!」
と叫んで腕に闇の魔力を纏わせる。そして、その闇の魔力で具現化した爪を振るい、光弾を爆散させた。
「さすが吸血鬼。闇属性に適性持ってるだけあってなかなかやるな。まさか、普通に使う時の10分の1も魔力を込めたサンライトストライクを斬るとは……しかも不意打ちだったのに……」
俺は褒めたつもりだったのだが、このセリフを聞いたキャトルは俯いてしまった。
「ど、どうした?」
「あれで通常の10分の1なんですか? さっきのダーククローに私は普通に使う時の50倍も魔力を込めたのに……やっぱりこんなんじゃ私は役立たずです……」
どうやら自分が他種族を魅了したりできないということを思い出してしまったらしい。
『問題ないでしょ、もとよりリチャードの魔力量は規格外な訳だし。そもそもサンライトストライクって不定形の魔法だったよな?』
「ああ、よく知ってるな、セントグリフ。」
『俺だってあれ使えるし。まあ、それは兎も角、不定形魔法は普通斬れないんだよな?』
「斬るどころか掴むことも不可能だ。強い魔力を当てて固形化した時のみ可能だけど。」
『だから、リチャードのサンライトストライクを固形物に変化させる程の魔力をキャトルちゃんはダーククローに込められたってことだ。それは凄い事だよ!』
ここぞとばかりにキャトルを褒めるセントグリフ。
「そ、そうなんですか?」
『そうだよ! 闇属性の魔法に魔力を多く込めると、普通は暴発させてしまう。それなのに、君は通常の50倍も込めた闇魔法を自分の意思通りに動かしたんだ。そんなことができる奴は、今まで生きてきた中で見たことがない!』
「いや、お前既に死んでるだろ。」
『あ、そういえば……』
俺の冷静なツッコミにセントグリフは一瞬ハッとした表情になったが、
『お、俺がまだ生きていようが既に死んでいようがどうでも良いだろ!』
と逆ギレした。
「どうでも良くないと思うけど……まあいいや。キャトルの闇属性魔法の制御力が凄いってことは、俺も認めるよ。」
「えっ? ほ、本当ですか?」
何かキャトルが急に食いついてきた。
「あ、ああ。本当だよ。凄い。」
「はわ……生きてて良かったです……」
キャトルは頭を撫でられた後のティリのようにホワホワになった。
『何で俺とリチャードで態度がそんなに違うんだ?』
「リチャード様に褒められるのとセントグリフさんに褒められるのは、嬉しさのベクトルが異なるんです。お二方とも私にとっては雲の上の更に1万倍は上にいるような素晴らしい方なので、褒めて頂けるのは嬉しいですけど。」
『チッ……リチャードは女子人気が高いよな。リア充は爆発しろ! 爆ぜて散れ!』
「五月蝿い、黙れ。喋るな、触れるな、近付くな。」
『酷っ、コメント辛辣すぎるだろ!』
「酷いのはお前の脳内だ。」
俺はそう言うと神秘の聖銃を取り出し、銃口をセントグリフに向けると、
「【セイントライフルショット】!」
と叫んで引き金を引く。すると、金色の銃弾がもの凄い勢いで発射され、セントグリフに迫っていった。しかしセントグリフは涼しい顔で、
『【ミリオンニュートン】!』
と呪文を詠唱。すると銃弾は途端に勢いを失い、ポトリと地面に落下してしまった。
「重力魔法で対応か。てっきり呪魔法か邪魔法で防御すると思ってたんだけどな……」
『いや、あの攻撃は防御したところで意味無いだろ。銃弾に上乗せされてた聖の魔力尋常じゃなかったし。』
「そんな大量に込めてない。杖でセイントライフルショットを撃つときの2分の1だ。お前が全力で呪魔法使えば防御できただろ。」
『そんな危険な賭けはお断りだね。失敗したら死ぬし。』
「いや、お前既に死んでるだろ。」
『あ、そういえば……』
俺の冷静なツッコミにセントグリフは一瞬ハッとした表情になったが、
『お、俺がまだ生きていようが既に死んでいようがどうでも良いだろ!』
と逆ギレした。
「どうでも良くないと思うけど……まあいいや。」
俺はそう言うと、
「訓練続けるぞ。ここから容赦なくやるから、頑張ってくれ。死ぬなよ。」
と言って普段より多めに魔力を開放し、様々な魔法を2人に向けて放つのだった。
「ふう……2人ともよく耐えたな。お疲れ様。」
2時間後、俺は浮遊しているセントグリフと倒れ伏しているキャトルにそう労いの言葉をかけた。
『鬼畜すぎるよ、リチャード。俺は別に平気だけど、キャトルちゃんはヤバいじゃん。』
「キャトルは吸血鬼の種族特性で生命力に優れているから大丈夫だろ。キャトル、起きろ。」
俺はそう言うと、自分の指を少し斬って倒れているキャトルの前に血を1滴垂らし、その横に金貨を6枚置いた。するとキャトルは、
「血……リチャード様の血!」
と叫んで飛び起きた。
「疲れただろ、キャトル。俺が死なない程度の量なら好きなだけ飲んでいいぞ。それと、そこにあるのは訓練に付き合ってくれたボーナスだから、好きに使え。」
俺はそう言うと、ローブの襟元を開く。すると、キャトルはすぐに飛んできて、俺の首筋に牙を突き立てると、恍惚とした表情になりながら俺の血を吸い始めた。
『いつもこんなことしてるのか?』
「いや? キャトルが耐えられなくなった時とか、どうしても欲しくなった時とか、定期的にあげる時くらいだ。」
『結構吸われてるな……貧血にならないのか?』
「自己回復力は結構高いからな。【ウルトラヒール】を応用すれば血を増やすこともできるし。」
俺はそう言うと、自分を鑑定。
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:52
スキル:鑑定眼(Lv4)
剣術(Lv2)
鎌術(Lv1)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
状態:魔力消耗
体力:55000
魔力:3500000
筋力:8200
耐久:10000
俊敏:18000
抵抗:6800
レベルが2上がっていた。強化訓練の成果は現れていたが、俺はそれより気になることがあった。
「状態が魔力消耗で残り魔力が350万とか俺の最大魔力量はいくつなんだよ……」
自分が本当に人間なのか疑わしくなるような数字だ。
『やっぱりリチャードは規格外だね。』
「セントグリフ、お前面白がってるだろ?」
『いや、全然。それよりさ、キャトルちゃんはまだ血を吸ってるけど平気なのか?』
「ああ、大分倦怠感が高まって来たな。おい、キャトル、そろそろやめろ。」
俺がこう言うと、キャトルは首筋から口を離した。犬歯がキラリと光る。
「リチャード様の血、美味しかったです。ごちそうさまでした。」
「そりゃ良かった。じゃあ、今日はもう仕事しなくていいから、好きなことしていていいよ。」
俺はそう言うと、訓練場を後にした。その後、こんな会話がされていたことなど知らずに。
『いやあ、キャトルちゃん、恋してるね。』
「え? き、急に何を仰るんですか?」
『あんな目からキラキラビームを出しておいてしらばっくれるのは難しいと思うよ。リチャードのこと、好きなんでしょ?』
「い、いえ! 確かに格好いいなあとは思っていますけど、好きでは……」
『じゃあ何で血を吸い終わってからもリチャードの首筋から口を離してなかったの? 普通、人間があれだけ吸血鬼に血を吸われ続けてたら失血死するよ?』
「リチャード様は普通じゃありませんから……」
『確かにリチャードが規格外なのは同意するけど、体格は普通だから血液量も普通でしょ。認めて楽になれば?』
「認めなくても楽になれますよ♪」
「え? て、ティリウレス様、いつからそこに?」
「ついさっきです。ご主人様の首筋に見慣れない跡があったので、何か魔力の暴発事故でも起きたのかと思ったのですが……そうですか……キャトルさんがご主人様を誘惑していたのですか……」
「ゆ、誘惑なんてそんな! していませんよ! セントグリフさんも証言してください!」
『さて、俺はリチャードとルキナスと一緒にお茶でもしてこようかな。』
「え? ちょっと、セントグリフさん! 逃げないでください!」
「はあ、残念です。キャトルさんなら大丈夫だろうと思っていたのですが、どうやら違ったみたいですね。まさかご主人様を誘惑して、執着を意味する首筋にキスマークをつけるとは……」
「ち、違います! それは誤解……」
「問答無用です! ご主人様の魔術に耐えられたのですから、私の魔術如き、余裕で耐えられますよね? さあ、私からご主人様を奪おうとした泥棒猫に制裁の時間です!」
「キャアアアアアアアアア!」
「セントグリフ、何かキャトルの悲鳴が聞こえたような気がするんだけど……」
「訓練場に凄まじい負の魔力を感じますが……セントグリフ殿、何か知りませぬか?」
『さあ? 俺は何も知らないよ。キャトルちゃんが1人で訓練してて、魔力暴発でもさせちゃったんじゃない?』
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:50→52
スキル:鑑定眼(Lv4)
剣術(Lv2)
鎌術(Lv1)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
神秘の聖銃(SR、邪属性に特効)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)




