56.幽霊と協力依頼
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
「……という訳で、レッドワイヴァーンの鱗を大量に入手したんです。アイツ曰く、鱗もお金になるらしいんですけど、これでもいいですか?」
『勿論だ! ドラゴンの鱗は非常に入手しにくい為、希少価値が高いからな! それを貰えるのならば嬉しいの一言に尽きる!』
「じゃあ、一ヶ月以内にお送りしますね。」
俺はそう言うと、マジックオニキスに魔力を込めるのをやめる。アサンドルの支援をするという話は、レッディルの鱗のおかげで簡単に片付いた。
「ふう、面倒なことはあらかた終わったな。」
俺はそう呟くと、ダンジョンの拡張を始めた。まず、第15階層を追加して箱型領域を設置すると、キングモールとジャイアントモールに通路を掘らせる。そして、その間に新たにウルフを10体、イートシャドウを5体、ブルースパローを5体召喚。その後、shopのモンスター欄を適当にスクロールしていると、気になるモンスターが2種いたので、それぞれ仮召喚してみる。両方とも何らかで役に立ちそうなので、取り敢えず10体ずつ召喚した。すると、ティリがドールハウスから出てきた。
「おはようございます、ご主人様。今日は早起きですね。」
「ああ。おはよう、ティリ。今日は新しいモンスターを追加してみたんだが、どう思う?」
「どんなモンスターですか?」
「キラーバットとラングフィッシュだ。」
そう言うと、ティリは少し考えるような仕草をしてから話し始めた。
「キラーバットというのはランクEのコウモリ型モンスターで、暗闇から集団で奇襲する攻撃が得意ですね。イートシャドウ系のモンスターと相性が良いです。ラングフィッシュはエラ呼吸と肺呼吸ができる魚型モンスターで、泥の中などでも生息が可能な有用種。両方ともこの【友好獣のダンジョン】の環境に適応していますし、いいチョイスだと思いますよ。」
「そうか。なら良かった。」
俺はそう言うと、ラングフィッシュを深さ39の沼地の中に、キラーバットを深さ40に入った直後の光源が少ないところに配置した。
「こうしておけば、落とし穴にはまる確率も増えるだろう。驚いて逃げてるときは注意力が散漫になるし。」
俺はそう呟くと、ウィンドウを消す。今日のダンジョン整備はこれで終わりだ。
「さて、暇になったな。」
俺はそう言いながらティリを見る。
「ご主人様、その目は何なのでしょう? 暇だから私に何か面白い事をしろとでも仰りたいのですか?」
「別にそんなことを言う気はないよ。ただ、ティリは可愛いなって思ってさ。」
こう言うと、ティリはリンゴのように真っ赤になった。いつ見ても可愛いな。
「き、急にそんなことを言うのは反則です!」
「ご主人様が妖精を可愛がっちゃいけないなんていう法律はないだろ? それに、このダンジョンの中では俺がルールだ。」
そう言ってティリの頭を撫でる。ティリの顔がホワホワになった。それが可愛いから更に撫でる。すると更にホワホワになる。それも可愛いからもっと撫でる。するともっとホワホワになる。それを繰り返していると、
『クソッ、リア充しやがって……良いご身分なことだな! 爆発しろ! 爆ぜて散れ!』
と言う怨念にまみれた声がどこからか聞こえてきた。咄嗟にドラゴンスレイヤーを手に取り、周囲を見回す。すると、見たことのない顔の男がコントロールルームの隅にいることに気がついた。俺は慌てて鑑定。
セントグリフ・クレイティブ・カール
種族:幽霊(龍族)
職業:無職
レベル:337
スキル:部分硬化(Lv9)
氷属性魔法(上級)
嵐属性魔法(上級)
雷属性魔法(上級)
呪属性魔法(上級)
全属性魔法(中級)
憑依
称号:執念を持つ者(呪属性魔法の威力大上昇)
状態:苛立ち
体力:2500
魔力:50000
筋力:2000
耐久:500
俊敏:600
抵抗:300
鑑定眼スキルがレベルアップしたことの恩恵か、今までより更に詳しく分かるようになっていたが、それは今はどうでもいい。
「セントグリフ・クレイティブ・カール? 何か聞いたことがあるような……」
俺はそう呟く。すると、その男が声を荒げた。
『おい! もっとびっくりするポイント他に無いのかよ?』
「びっくりするポイント?」
俺はもう一度鑑定結果を確認する。だが、特に変わった点はない。
『俺は幽霊だぞ! もうちょっと驚けよ!』
「幽霊?」
そう言われて鑑定結果をよく見ると、確かに種族の欄に幽霊と入っている。だが、別に驚くほどのことでもない。イートシャドウとかシノビシャドウとかも死霊系モンスターだし。
「生憎だけど、幽霊って言われてもそんな驚かないんだよね。」
『何でだよ!』
「いや、見慣れてるから。それと、足があるし。」
俺の中の知識では、幽霊は足がない。だが、このセントグリフとかいう幽霊は足がある。鑑定に間違いはあり得ないから、幽霊だと言うのは本当なのだろうが、いまいち迫力に欠ける。
『幽霊に足があっちゃ悪いのか?』
「悪いとは言ってないだろ。ただ、迫力が無いなって思って。」
『迫力なんかいらないんだよ。生きてる奴が驚けばその驚きの感情が俺の糧になるんだから。』
「いや、迫力無いんじゃ驚かないだろ。」
『普通の人間は俺のこの透けてる姿を見れば驚くんだけどな……』
「残念だったな。俺は自分が普通じゃないって言う自覚があるくらい普通じゃないから。」
『堂々とそう言い切れるとか、お前頭おかしんじゃないのか?』
「お前じゃない、リチャード・ルドルフ・イクスティンクだ。ニートの幽霊なんかにお前などと呼ばれる筋合いはねえ。」
『ニートじゃねえ! 幽霊だから職に就けねえだけだ! そもそもお前だってそこの妖精を愛でてるだけじゃねえか!』
「ダンジョンマスターが妖精を愛でちゃいけないなんていう法律はないだろ? 今は休憩時間だし。」
『お前、ダンジョンマスターなのか?』
「ああ。俺はダンジョンマスターだ。ついでに大魔術師でもあるが、こっちはオマケだな。」
俺のこの言葉に、セントグリフは怯えたように身体を震わせ、一瞬の後……
『す、スミマセンッしたー!』
全力で土下座してきた。
「きゅ、急にどうした?」
『いや、まさか大魔術師級のダンジョンマスターでいらっしゃったとは……知らなかったとはいえ、大変失礼を致しました!』
急に態度を変えたセントグリフを、俺は訝しげに見る。
「何で態度を急に変えた?」
『私は、腕の立つダンジョンマスターをずっと探していたのです。我が妹の暴走を止める為に……』
「妹? お前妹がいたのか?」
『はい。私の妹の名はリーン・クレイティブ・カール。龍族の大陸、モータント大陸のドラコ山の麓にある【ドラゴンの巣窟】のダンジョンマスターでございます。』
「リーンだと? まさか、この間レッディルが言ってた……」
『レッディルをご存知なのですか?』
「ご存知も何も、つい3日前に戦ったばっかだよ。結構手応えがある奴だった。」
『それならば話が早いです! 何卒、私の妹の暴走を止めるのにご協力を!』
「待て待て、話が見えない。ちゃんと説明してくれ。」
『あ、ああ、申し訳ありません。素晴らしい力をお持ちのダンジョンマスターに出会えて、思わず興奮してしまいました。』
そう言うと、セントグリフはリーンと【ドラゴンの巣窟】について話し始めた。
「で、要約すると、リーンは【ドラゴンの巣窟】の中で最愛の兄貴であるアンタを殺した人間を憎んでいて、ついでに人間っていう種族そのものも嫌ってるってことか?」
『概ねその通りです。それ以後については?』
「リーンは人間をより多く殺すことがアンタの弔いになると思っている。だが、アンタはそんなことを望んではいない。だから、【ドラゴンの巣窟】に侵略戦を挑んで、妹の暴走を止めてくれ、と。」
『はい、その通りです! さすが、頭脳明晰とされる人間族! では、ご協力頂けますでしょうか?』
「断る。」
俺は一蹴した。当たり前だろう。そんなことをしたら、うちのダンジョンモンスターたちが減ってしまう。メリットも無いし。
『し、しかし……』
「しかしも何もねえ。お前が困ってるってことはよく分かったし、俺以外に頼る相手がいないってのもよく分かってる。だが、俺がそのダンジョンを侵略してもメリットが無いんだよ。うちのモンスターたちの多くも命を失うだろう。だから、協力はできない。」
『クッ……そうですか……では仕方ありません。』
そう言って俯くセントグリフ。なんかちょっと可哀想だな。
「ちょっと待て。」
『何ですか?』
「人の話は最後まで聞け。俺は、絶対に断るとは言ってないぞ。」
『つまり……』
「条件によっちゃ、協力してもいいってことだ。」
実際は、協力する気など毛頭なかったのだが、こんな言葉が口をついて出た。慌てて弁解しようとしたのだが、その前に、
『そ、その条件とは?』
と食い気味に聞かれてしまった。これはもう引き返せないな。
「そのダンジョンがうちのダンジョンに侵攻してきたとき以外、俺は協力しない。これでいいなら。」
そう言うと、セントグリフは頷いた。
『勿論です。それでも協力して頂けるなら!』
「んじゃ、交渉成立だな。」
俺は話が一段落したところで、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「ところでさ。」
『何でしょう?』
「何でいきなり『クソッ、リア充しやがって……良いご身分なことだな! 爆発しろ! 爆ぜて散れ!』って言ったんだ?」
『あ、あの時はですね……ちょっと自分を見失っていたと言いますか……羨ましいなあと思ってしまいまして……私もあの時殺されなければ、妹と共に幸せに暮らすことが出来たかもしれませんので……』
「ああ、そっか。リーンはお前を溺愛してるんだったな。」
『それが度を過ぎているのが困ったところでもあるのですがね。』
「まあ、でもお前もまんざらじゃないんだろ。俺たちに嫉妬したってことは。」
『否定はしません。』
少し照れたような声で言うセントグリフ。
「じゃあ、お前、ここに住め。」
『……はい?』
俺が唐突に言ったことに驚いたのか、セントグリフは素っ頓狂な声をあげた。
『な、なぜ?』
「うちのダンジョンにリーンが侵略戦仕掛けてきたときに、俺が説得に成功すればお前は妹と一緒にいられるじゃねえか。だからだよ。」
俺のこの言葉に、セントグリフは涙を零した。幽霊なのに泣けるのか。
『ああ、ありがとうございます、ありがとうございます!』
「あ、そうだ。ついでに敬語止めろ。俺たちのダンジョンに住むってことは、お前は俺たちの仲間ってことだからな。」
『分かりま……分かった!』
「じゃあ、これからよろしくな、セントグリフ。」
『ああ。リチャード。』
俺たちは互いにそう言うと、頷き合ったのだった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:150
階層数:15
モンスター数:401
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 55体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
キラーバット 10体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 25体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
ラングフィッシュ 10体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
セントグリフ・クレイティブ・カール(幽霊)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:50
スキル:鑑定眼(Lv4)
剣術(Lv2)
鎌術(Lv1)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
神秘の聖銃(SR、邪属性に特効)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)




