side ティリ 猜疑心と恋心
「うーん……何でご主人様の周りには美人ばかり集まるのでしょうか?」
私はドールハウスの中でそう呟きました。今まであまり考えたことがありませんでしたが、ご主人様は知り合いに女性が多いです。それも、美人ばかり。
「もしご主人様が他の方に目移りされたら、私はどうすればいいのでしょう……」
もしもご主人様が他の方に目移りされたら、私は生きる意味を失ってしまいます。お優しいご主人様のことですから、そんな事は無いと思いますが、絶対に無いとは言い切れません。
「うう……気にしはじめたら止まらなくなってしまいました。こうなったら、実行あるのみです!」
私はそう言うと、ドールハウスの窓から飛び出して、ご主人様の知り合いの女性にインタビューしてみることにしました。まず、ルーアさんです。
「ルーアさん、いますか?」
「うん。いるよ。何か用事? ティリちゃん。」
ルーアさんの部屋に行くと、ルーアさんは剣を持っていました。ダンジョン内でたまにご主人様と剣の修行をしているのですが、今日は一人で自己鍛錬していたようです。
「はい。ズバリ聞きますが、ルーアさんはご主人様のことをどう思っていますか? 率直に答えてください。」
「え? マスターのこと? うーん……」
ルーアさんはちょっと考えるような仕草をしてから、
「恩人、かな。私のこともお父さんのことも助けてくれたし、お兄ちゃんとの結婚式もしてくれたし、他にもいろいろ。恩人以外じゃ言い表せないよ。」
と言いました。
「それ以外に何もありませんか?」
「うん。あ、もしかしてティリちゃん、マスターが他の女の人に取られないか心配してる?」
ルーアさんの言葉に私はビクッと体を震わせました。
「あ、震えた。ってことは図星だね?」
「は、はい……」
「んー、マスターと他の女の人の関係についてなら心配いらないと思うよ? あれだけティリちゃんのことを溺愛してるマスターが他の女の人に靡く可能性なんて無に等しいだろうし。」
「うーん……でも心配なんです。」
「じゃあ、他の人たちにも聞いてくれば? 少なくとも、私はお兄ちゃん以外に恋愛感情を抱く予定はないから、マスターに手は出さないよ。」
「分かりました。じゃあ、他の人にも聞いてきます。」
私はそう言って、ルーアさんの部屋から出ました。
それから、私はキャトルさん、ルークさん、レナさん、ユリアさんに話を聞いて回りました。結果、キャトルさんは『優しくてかっこいい雇用主』、ルークさんは『憧れの大切なお客様』、レナさんは『ペットを貰ってくれた優しい人』、ユリアさんは『強くてかっこよくて優しい最高の人』と答えられました。なんかちょっと不安になる答えもありましたが、取り敢えず今すぐご主人様に手を出すことはなさそうです。しかし、女の人たちに無くても、当のご主人様に手を出す気があったら困ります。私は、ご主人様の元へと向かいました。
「ご主人様!」
「ん? どうした、ティリ。急に大声出して。」
コントロールルームに入ると、ご主人様はいつものように椅子に座ってウィンドウを操作していました。今日はダンジョン内部の観察をなさっているようです。
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、良いですか?」
「うん。何?」
「ご主人様は、私のことをどう思ってますか?」
「ティリのこと? 最高のパートナーだよ。それ以外じゃ言い表せない。」
「本当ですか?」
「俺の事を疑ってるのか?」
ご主人様の声が急にオクターブ低くなりました。
「俺がティリに嘘を吐いたことなんてあったっけ?」
「あ、ありませんけど……」
「まあ、1回で信じられないならもう1回言ってあげるよ。ティリは、俺の最高のパートナーだ。」
「うう……でも……」
「今日はいやにしつこいな。なんかあったのか?」
ご主人様はそう問いかけてきました。理由はなんとなく不安だったからですが、そんなことでご主人様を疑っていた、なんて言いたくありません。
「何かあったと言えばありましたが、それはご主人様が私の質問に答えられない限り言いません。」
「何だ? その質問ってのは。」
「天から落ちて地に転げ、青い小袖を脱ぎ捨てて、じじいばばあに金の楔で口を割られる物はなんでしょう?」
これは世界一古いなぞなぞです。この答えはさすがに博識なご主人様でもわかる訳が……
「クルミ。」
ガーン。あっさりと解かれてしまいました。
「なぞなぞ如きで俺に勝てると思うな。」
「世界最古のなぞなぞなのに……」
「簡単すぎだ。それより、答えたんだからお前も答えろ。何があった?」
ご主人様がじっと見つめてきます。逃れられないと悟った私は観念して話すことにしました。
「ご主人様に女の人の知り合いがいっぱいいることが気になったんです。ご主人様が他の女の人に靡くなんてありえないとは思いましたが、気にしだしたら止まらなくなっちゃって……」
「何だ、そんなことか。」
私は怒られると思っていたのですが、ご主人様は怒ることなく微笑まれました。
「お前、最近疲れてるだろ。」
「え? そんなことはないと思いますが……」
「嘘吐け。医学的には証明されてないが、疲れるといろんなことが気になっちまうんだよ。もしティリが疲れてないって言うんなら、それは俺の事をまだ完全に信用しきれてないってことだ。」
「そんなことありません! 私はご主人様のことを絶対的に信用しています!」
「なら、お前は疲れている。それが答えだ。ま、たとえ天地がひっくり返ろうとも、俺がティリ以外に靡くことなんてありえないけどな。」
そう言うと、ご主人様は私の頭をナデナデしてくださいました。
「ふわあ……」
「やっぱりティリに似合うのは笑顔だな。あんまり不安そうな顔はしないでいてくれよ。」
「ご主人様が無茶ばっかりするから私が不安そうな顔になるんですよ。それは理解してるんですか?」
「悪かったな、心配ばっかりかけるダメご主人様で。」
ご主人様はそう言って苦笑い。そして、私をドールハウスのベッドに入れてくださいました。
「ティリ、ここんとこ振り回してばっかりだったな。街に連れ出して引っ張り回して戦闘の見学させて……疲れるなって言う方が無理な話だ。ゆっくり休んでくれ。疲れが取れるまで。」
「ご主人様だって、お疲れでしょう? なのに無理して大丈夫なんですか?」
「俺ならキャトルに吸われない限り平気だ。じゃあな。お休み、ティリ。」
「はい、ご主人様。」
そう言うと、ご主人様はゆっくりとドールハウスの窓をお閉めになられました。私は、ご主人様に優しくして頂けた満足感とご主人様が絶対に他の女性に靡かないと分かった安心感に包まれ、幸せな気持ちで眠りに就くことができました。
「ご主人様……お慕い申し上げております……私の全てはご主人様に捧げる為にあるもの……ですから、いつまでも、永遠に、一緒に……」
お馴染み、ティリ視点の閑話で第4章は終了、次回から第5章となります。
そして、このお話が【ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~】2016年最後の投稿となります。
本年はこの作品を読んでくださり誠にありがとうございます。
読者の皆様には心より御礼申し上げます。
色々と至らない作者ではございますが、来年も本作を、そして『紅蓮グレン』をよろしくお願い致します。




