55.アイテムで進化
「ただいまです!」
コントロールルームのドアを開けてそう言うと、丁度コントロールルーム内にいたルキナスさんが、手に持っていた紅茶をカップごと投げつけてきた。
「おっと。」
俺がサッと躱すと、カップは俺の後ろにいたキャトルに激突した。カップが砕け、紅茶がぶちまけられる。キャトルは紅茶でびしょびしょになった。
「キャッ! リチャード様、何で避けるんですか!」
「ぶつかりそうだったから咄嗟に避けただけ。ルキナスさん、何でいきなり紅茶を投げつけてきたんですか?」
俺がキャトルを適当にあしらいながらそうルキナスさんに聞くと、コントロールルームとルキナスさんの部屋を繋いでいるドアが開き、そこからルキナスさんが出てきた。
「おお、ご無事でしたか、リチャード殿。」
「え? ルキナスさん?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、ルキナスさんが2人いるなんてありえないので……」
「私が2人?」
ルキナスさんは怪訝そうな顔をしながら振り返り、先程紅茶を投げつけてきたルキナスさんを見つけると、ねじれた杖を構えて呪文を唱えた。
「【チェーン・バインド】!」
すると、ねじれた杖から鎖が飛び出し、あっという間に紅茶を投げたルキナスさんは拘束された。拘束した方のルキナスさんはそれを確認すると、紅茶を投げたルキナスさんに近寄り、
「ルーア! ふざけた真似はやめろ!」
と言ってねじれた杖で頭をポカッと殴った。すると、拘束されているルキナスさんの形が歪み、ルーアちゃんになった。幻惑属性魔法で変身していたらしい。
「ルーア、リチャード殿に紅茶を投げつけるとはどういう了見だ?」
「マスターが帰ってこなくて心配だったから……」
「心配していたのなら紅茶を投げたりするな! 全く、リチャード殿がわざわざ1000DPも支払って入手してくださったヌワラエリアを粗末にしおって……」
そう言うとルキナスさんは俺の方に向き直り、首を傾げた。
「はて、リチャード殿、後ろにいらっしゃる少女はどなたですかな?」
「ああ、街で雇った吸血鬼の従業員です。ほら、挨拶して。」
「はい。私は吸血鬼族のキャトル・エレイン・フィラーといいます。」
「キャトル殿ですか。私は魔術師のルキナス・クロムウェル・モンテリューと申します。あちらの小型イヌ種の獣人は……」
「ルーア・シェル・アリネです。」
「ルキナス様とルーア様ですね。よろしくお願い致します。」
キャトルは優雅に一礼した。まだ紅茶でびしょびしょのままだが。
「キャトル、あの2人の血を吸うのは禁止。了承を取れた場合は別にいいけど、勝手に吸ったら即刻懲戒免職だから、覚悟しておくように。」
「りょ、了解しました。あのお2人の血を許可なく吸った場合は、街中で公開処刑ですね?」
「何でも公開処刑に結びつけるな! 俺はそんな悪趣味な蛮族じゃないし、鬼畜仕様でもないから! あくまでクビにするだけだよ。」
「く、首に……やっぱり公開処刑じゃないですか!」
「違う! そっちの首じゃない! リストラってことだよ!」
「り、リスとトラのモンスターに首を刎ねられるって……」
「あー、もう! 面倒臭えっ! 【スリープ】!」
俺が叫ぶと、キャトルはその場にバタッと倒れ、寝息を立て始めた。
「強引ですな、リチャード殿。」
「仕方ないじゃないですか。意味が分かってない奴に説明する程無駄な行為はありませんし。」
俺はそう言いながら、ウィンドウを操作し、充実機能で部屋を2つ追加。1つはキャトル用の【使用人室】、もう1つは俺用の【住人の部屋(中)】だ。
「よし、これでキャトルの部屋は確保できた。」
俺はそう言うと、キャトルを運ぼうとして抱き上げる。その時、俺はキャトルの手に切り傷があることに気が付いた。どこかで切ったのだろうか?
「ルキナスさん、回復薬ってまだありましたよね?」
「回復薬ですか? 申し訳ありませぬ、あれは既にモンスターの治療に使ってしまいまして……」
「あー、そうですか。じゃあ、補充しておかないと。」
俺はそう言いつつ、上級回復薬を5つ召喚。すると、ダンジョンとコントロールルームを繋ぐドアが急に開き、そこから白い毛のウルフが入って来た。
「グアルルル!」
「ん? こんなモンスターいたか?」
俺は疑問に思い、鑑定を使用。すると、
メディックウルフ ランクD
名前:‐‐‐‐‐‐
保有魔力:0/50000
称号:なし
スキル:超回復(心臓が残る限り回復を可能とするスキル)
回復霧(モンスターの傷を回復させる霧を吐き出せるスキル)
状態:正常
と表示された。
「メディックウルフ……?」
「ああ、昨日プレデターラビットに噛み付かれて怪我をしてしまったウルフに上級回復薬を飲ませたところ、このモンスターに進化したのです。」
ルキナスさんの言葉に俺は驚いた。まさか、アイテムを使用したら進化するとは予想外だ。そう思っていると、ティリが俺の目の前に飛んできて、
「ご主人様、これはアイテムレア進化と呼ばれるものです。」
と言った。
「アイテムレア進化?」
「はい。アイテムレア進化は、アイテムを使用すると同時に保有可能魔力量が上限到達したモンスターのみが進化する、非常に珍しい種のモンスターです。それこそ、レア進化種と同じくらい。」
「ああ、つまり、キングモールがジェネラルメタルモールに進化するのと同じくらいの確率ってことか。」
「はい。因みに、アイテムレア進化はウルフだけに起きる訳ではなく、様々な種が進化する可能性がありますが、ビッグワームは進化によって体が耐えきれない可能性があるのでお勧めしません。それと、一度でも進化したモンスターはアイテムレア進化を起こす確率が下がります。」
「ふーん。なら、ウルフで色々試してみるか。」
俺はそう言うと、【shop】を開き、いくつかアイテムを購入。そして、それをウルフたちに使用してみる。結果、新たに何体かの新種モンスターを入手することに成功した。それは以下の通りだ。
【モンスターには無効の毒薬を使用】
ポイズンウルフ ランクD
名前:‐‐‐‐‐
保有魔力:0/50000
称号:なし
スキル:毒物無効(あらゆる毒素を無効化するスキル)
毒煙(毒素の混じった煙を吐き出せるスキル)
状態:正常
【モンスターには無効のウィルスを使用】
イルネスウルフ ランクD
名前:‐‐‐‐‐
保有魔力:0/50000
称号:なし
スキル:病弾(ランダムで病の症状を与える弾を発射できるスキル)
状態:正常
【高級幻覚薬を使用】
ハルキネーションウルフ ランクC
名前:‐‐‐‐‐
保有魔力:0/50000
称号:なし
スキル:幻覚音波(幻覚を見せる超音波を放てるスキル)
状態:正常
「ご主人様、凄いです! 凄すぎです!」
ティリが喜びながら俺を褒める。
「凄いのは俺じゃなくてウルフだろ。それに、こうしようと思い付いたのも、ルキナスさんがウルフを治療してくれたからだし。」
俺はそう言うと、
「よし、最後にダメ元であれを試してみるか。」
と呟き、ローブのポケットからレッドワイヴァーンの鱗を取り出す。そしてそれをウルフに呑み込ませてみた。すると……
「グオオオオオオオオオー!」
ウルフの身体が真っ赤になった。そして、その背中から羽根が生える。表情も凛としていて、なかなかカッコイイ。俺は早速鑑定。
フライングウルフ ランクB-
名前:‐‐‐‐‐
保有魔力:0/80000
称号:なし
スキル:炎魔法(火魔法の上位互換スキル)
フレイムブレス(ファイアブレスの上位互換スキル)
状態:正常
……凄い。進化するかも、とは思っていたが、まさか翼を手に入れるとは予想外だ。
「おお、ウルフがこのような姿になるとは……こんなモンスターは今まで見たことがありませぬ。」
「ご主人様、きっとこれは新種モンスターです! 新種作成に成功したんですよ!」
「こいつ新種なのか。ならダンジョンにとってこれ以上の好都合はない。ラッキーだな。」
俺がこう言うと、突然ダンジョンコアが青く光った。そして、
【ダンジョン内のアイテムレア進化種が5種類に達しました。鑑定眼スキルをレベルアップします。】
【ダンジョンマスターが新種モンスターを作成しました。念話スキルを解放、並びに鑑定眼スキルをレベルアップします。】
とウィンドウに表示された。
「なんか最近スキルとか称号増えすぎじゃないか?」
「んー、それはご主人様が色々規格外なことをしているせいだと思いますけど……」
「別に好きで規格外なことしてるわけじゃないんだけど……まあいいや。あって困る物じゃないし。」
俺はそう呟くと、念話のスキルを使ってみることにした。
(ティリ、聞こえるか?)
(え? この声ってご主人様が送って来てるんですか?)
(その反応ってことは聞こえてるみたいだな。)
(はい! これで24時間365日、いつでもご主人様とお話ができますね!)
(……まあ、そうだな。ただ、これは俺からしか送れないから。本当に24時間365日話せるようになりたいんなら、ティリが【念話】のスキルを取得するしかないぞ。)
俺はそう送ると、ティリとの念話を切り、今度はモンスターに念話を送ってみる。
(シルヴァ、聞こえるか?)
(こ、この声は? 主殿ですか?)
(え? ま、まあそうだが……シルヴァ、お前人語を話せたのか?)
(いえ。私の発声器官は主殿やティリ様のものより単純な構造ですので、せいぜい『クウー!』と鳴くぐらいが精一杯でございます。ですが、人語は理解しておりました。)
(ああ、だから念話だと人語を送ることが可能って訳か。)
(はい。因みに、私だけではなく、コバルトやアクアウルフ、フレイムウルフなども人語を理解しております。)
(あいつらもか?)
(はい。ところで、何か御用でしょうか?)
(いや。ただ念話のスキルの検証をしていただけだ。)
(然様でございますか。)
(ああ。邪魔したな。)
俺はそう送ると、シルヴァとの念話を切った。
「ご主人様、良いスキルを入手なさいましたね!」
「ああ。これでいちいちダンジョンコアを通さなくても細かい指示ができそうだ。」
ティリの言葉に、俺は微笑んでそう返すのだった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:140
階層数:14
モンスター数:361
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 45体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
メディックウルフ 1体
ポイズンウルフ 1体
イルネスウルフ 1体
ハルキネーションウルフ 1体
フライングウルフ 1体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
アシュラベアー 1体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 20体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
キャトル・エレイン・フィラー(吸血鬼、従業員)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:50
スキル:鑑定眼(Lv2→Lv4)
剣術(Lv2)
鎌術(Lv1)
杖術(Lv1)
体術(Lv4)
全属性魔法(上級)
念話
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
神秘の聖銃(SR、邪属性に特効)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)




