52.居住地周りでの戦闘契約
「な、何でレッドワイヴァーンがここに……何しに来たんだ……」
俺は驚きを隠せずにそう言う。誰も答えられないのに……と思っていると、何かの声が急に脳内に響いてきた。
『人間よ、我は主の命により、このフェリアイルステップにあるダンジョンの調査に来た。何か知っていることがあれば答えよ。』
「れ、レッドワイヴァーンの声、か?」
『いかにも。我らドラゴン族が生まれながらにして所持する能力、【念話】によって汝に我が声を届けている。だが、今はそんなことよりもダンジョンの情報だ。何か知らぬか?』
そう言って俺を空中から巨大な目で睨むレッドワイヴァーン。
「知らないとは言わないが、俺は大きな声で話したくはない。高度を下げてくれないか?」
『そのくらいは別に構わぬが、1つ忠告しておく。おかしな行動はせぬことだ。戦闘ならば受け入れ、正々堂々と勝負するが、不意打ちをしてきた場合は一撃でここ一帯を灰燼に帰してくれよう。』
「不意打ちはしないさ。情報を与えるだけだからな。」
俺がそう言うと、レッドワイヴァーンはゆっくりと高度を下げ、フェリアイルステップに着地した。
『要望通り、高度を下げた。情報を提供して貰おう。』
「良いだろう。ここ、フェリアイルステップにあるダンジョンの名前は【友好獣のダンジョン】。ダンジョンランクはCで、ベースモンスターは魔狼族基本モンスターのウルフだ。」
『あの獣がか……ここのダンジョンマスターについては知らぬか?』
この言葉を聞いた瞬間、俺の背筋に寒気が走った。多分このレッドワイヴァーンは、俺がダンジョンマスターだと気付いているのだろう。そうでなければ、いきなりダンジョンマスターのことを聞いてくる訳がない。ダンジョンはマスターが造る物と自然発生する物の2タイプがあり、それは外見では分からないのだから。だが、カマをかけているという可能性もある。それを考慮して、俺はとぼけてみることにした。
「このダンジョンはダンジョンマスターが造った物なのか?」
『とぼけても無駄だ、人間。我は魔力感知の能力を所持している。貴様の身体から溢れ出る膨大な魔力と殺気が隠せていないぞ。我に適当に正しい情報を与え、撤退させようと考えていたのだろうが、我はそんなものには引っかからん。甘いな、ダンジョンマスター。』
前者だったらしい。だが、バレているなら好都合だ。
「分かっていたか。なら、俺が次に何を言おうとしているかだって、察しがついているんじゃないか?」
『ダンジョンマスターがダンジョンの情報を素直に話すとは思えんからな。どうせ情報の代わりに何かを求めるのだろう?』
「ああ。何を求めると思う?」
『我の鱗や魔臓ではないか? ドラゴン族の鱗にかなりの価値があることは知っているだろう?』
「そういうので平和的に解決するのもいいんだが、俺は今、もの凄く機嫌が悪い。街へ行って気を遣いまくってたからな。だから、俺はお前に決闘を要求する!」
俺はそう宣言。すると、ティリが慌てたように飛び上がり、俺の目の前にやって来た。
「し、正気ですか? ご主人様?」
「正気だよ。大真面目だ。」
「ならば失礼を承知で申し上げます! ご主人様の脳にはコナヒョウヒダニが湧いていらっしゃいます!」
「コナヒョウヒダニ好きだな、ティリは。何で俺の脳をそんなにお好み焼き粉にしたいんだ?」
「別にお好み焼き粉にしたい訳じゃありません!」
「でも、俺の脳にコナヒョウヒダニは湧いてないよ。いたって正気。」
「レッドワイヴァーン相手に正面切って戦いを挑むなんて、正気の沙汰とは思えません!」
「ティリ、俺はストレス溜まってるんだよ。それにコイツなら俺が全力をぶつけても死なないだろうし。」
俺はそう言うと、ティリを掴んでキャトルの肩に無理やり座らせた。
「ティリ、悪いがここでは俺の気持ちを優先させてくれ。」
「しかし……」
「ティリウレスさん、今回はリチャード様の行動を見守ってはいかがですか? きっと何か考えがあるんですよ。」
「……分かりました。ご主人様、ご武運を。」
ティリはそう言うと、俺をじっと見つめた。
「ああ。」
俺はそれだけ答えると、レッドワイヴァーンの方に向き直った。
『貴様、本気で我と戦おうというのか?』
「おう。」
『それで何か貴様にメリットがあるのか?』
「俺のストレスが発散できる。」
『それだけか?』
「それだけじゃないが、それは今は言えない。ダンジョンの情報をもっと知りたいなら、俺に勝ってからにしろ。俺に勝てたら、全部情報を教えてやるよ。逆に、俺がお前に勝ったら、お前の鱗を1000万ゴルド分ほど俺に寄越した上で、お前の主とやらの情報を教えろ。」
『我はこの命令を失敗する訳にはいかんのだが……』
「お前、戦闘の申し込みは受けるって言ってたじゃないか。今更になって発言をひっくり返すのか? それとも、負けるのが怖いのか?」
『貴様、口が上手いな。良いだろう。だが、我は飛行を続けて疲弊している。まず、我の部下と遊んでやってはくれまいか?』
「俺だって山中でアシュラベアーと戦って疲弊している。状況は同じだ。」
『それでもだ。無論部下と戦闘した後は、貴様の魔力、体力の回復を待ってから我と戦闘だ。貴様はストレスを発散したいのだろう? ならば、少しでも多く戦闘できた方がよりスッキリするのではないか?』
「お前もなかなか口が上手いな。」
俺はそう言ってちょっと考え、そして言った。
「良いだろう。だが1つ、約束をしろ。」
『何だ?』
「俺とお前の部下の戦闘、俺とお前との戦闘。両方とも、双方の命を奪わない。これが約束できるならお前の部下と遊んでやるよ。」
『……分かった。』
「よし。んじゃ、お前の部下とやらを出してくれ。」
『我の部下は、この者だ!』
そう言って、レッドワイヴァーンは上空に向けて炎を吐き出す。すると、その業火の中から1m70cm程の白いドラゴンが出てきた。
『我の部下で、ドラゴン族基本モンスターに分類されるミニスタードラゴンだ。ランクはB+。』
「基本モンスターで既にB+かよ。まあ、相手に不足は無いな。」
『では指示をするから少し待っていろ。』
そう言うと、レッドワイヴァーンはミニスタードラゴンの方を向いて、何度か吼える。すると、ミニスタードラゴンは頷き、口からポッと白い炎を吐いた。
『指示をしておいた。貴様の命を奪うな、貴様の仲間を襲うな、全力で戦え、と。』
「了解だ。戦闘開始!」
俺はそう叫ぶと、ヒールフレイムの杖を構え、フライを使用して空を飛ぶ。ミニスタードラゴンも翼を広げて、俺の前まで飛んで来た。
「全力でやらせて貰う!」
俺は初めて本気でできる戦闘に感情を昂ぶらせながら、ヒールフレイムの杖に魔力を込めるのだった。
これから、ダンジョンやリチャードに変化が起きない限り、ステータスの表示を行わないことにしました。毎回同じのばかりでは意味がありませんので。




