47.交通事故のプロフェッショナル
「さてと、次は……」
ガートン鍛冶屋の外に出てそう呟いたとき、俺は横から走ってきた赤い何かに弾き飛ばされた。
「うわっ? え、エアクッション!」
咄嗟に唱えた呪文のおかげで、俺は地面へ激突はしなかったが、30m程吹き飛んだ。地面に直撃していたら……と考えるとゾッとする。
「す、すみません! 大丈夫ですか? 【ハイヒール】!」
赤い何かから降りて駆け寄ってきた男性が俺にかけた回復魔法のおかげで、脇腹に残っていた鈍い痛みが消えていく。ここまでの流れ、なんかちょっと前にもあったような気がするな。そう思って男性の顔を見てみると、目が合った。そして、その男性は見る見るうちに青ざめていく。
「り、リチャードさん?」
「やっぱりあなたでしたか、ケインさん。」
案の定と言うか、俺を撥ねたのはヤスパース郵便局局長であり、唯一の郵便局員でもあるルキナスさんの友人、ケイン・アッド・ラッシュさんだった。
「何で俺を撥ねたんですか?」
「それは……」
「どうせ前方不注意ですよね?」
「はい。申し訳ないです……」
「今回も轢いたのが俺で良かったですね。警吏を呼ばれないで済みますよ。まあ、それなりの対価は支払って貰いますけどね。」
「分かってます。それは当然の要求ですしね。何をお望みですか?」
「取り敢えず、家に連れて行って貰っていいですか? 詳しい話はそこで。」
「分かりました。少々お待ちください。」
ケインさんはそう言うと、
「ヨーゼフ! ヨーゼフ!」
と大声をあげた。
「なんだなんだ、騒がしい。燃やすぞ、迷惑者。」
「物騒なこと言うなって、ヨーゼフ。郵便だよ。」
「またか。今日は何通だ?」
「7通。」
「いつもよりは少ないな。しかし、また徹夜か。忌々しい……」
「僕に言わないでくれ。まあ、頑張れよ。」
ケインさんはそう言うと、俺に向き直り、
「じゃあ、家まで案内します。リチャードさんはお乗りになりますか?」
「いえ。ケインさんからこの間頂いたこのドーイバイクで付いて行きます。」
俺はそう言って、流星柄のドーイバイクを引きよせる。
「了解です。では、行きましょう。」
ケインさんはそう言い、俺がドーイバイクに乗ったのを確認すると、自らのドーイバイクのエンジンをかけた。俺はすぐさまその後に続いた。
「さあ、どうぞ。」
郵便局に着いたケインさんは、前と同じように金庫室の隣のドアを開けて、俺たちを招き入れた。
「お邪魔します。」
俺はそう言って家に上がる。ケインさんが紅茶とジュースを出してくれ、一息吐いたところで俺はこの前から不思議に思っていたことを思い出した。
「そういえばケインさん、前から思っていたんですけど、何で郵便局の中に家を造ったんですか?」
こう聞くと、ケインさんは、
「ああ、リチャードさんには言ってませんでしたね。僕は郵便局の中に家を造ったんじゃなくて、家の外に郵便局を造ったんです。」
と答えた。
「なんでそんなことを?」
「僕は郵便局を始める前、従業員2人の小さな工場で働いていたんですけど、その工場が3年ほど前に不景気で倒産しちゃいまして。その時、工場長が僕にあるものをくれたんですよ。」
「ドーイバイクですか?」
「違います。箸とフォークです。それで、『私の気持ちだ。これで何か美味い物でも食ってくれ』って。馬鹿にされたと思いましたね。でも工場長は、『それを売れば生計の足しになるだろう。美味い物だって食える』って言って、いなくなってしまったんです。」
「それと郵便局を造ったことに何か関係が?」
「あるんですよ。工場長はジョークが好きな人ではありましたけど、嘘は絶対に吐かなかったんです。ですから、僕は工場長の言葉を信じて、貰った箸とフォークを道具屋に売りに行きました。そうしたら、そこの店主が『買い取りはできない』って言うんですよ。何でだと聞いたら、『こんなに高価なものを買い取れる余裕がうちにはない』って。驚きましたね。まさか退職金の代わりに気持ちだって言われて渡された箸とフォークにそんな価値があるなんて。でも、金にならないんじゃ意味が無いのでどうにかならないかって聞いたら、商品の落札価格の10%を貰えるならオークションにかけるって言ってくれたので、そうして貰いました。最終的に、それはゲイルとかいう伯爵が8000万ゴルドで落札。で、僕はそれを使って郵便局を建てたんです。出勤が面倒臭いから家にくっつけることにして。」
「じゃあ、出勤が面倒だから箸とフォークの売却益で家に郵便局をくっつけて建てて、そこの唯一の郵便局員になったってことですか?」
「ええ。自分が長である郵便局を持てた時の喜びは今でも覚えています。あ、それはそうと、僕がリチャードさんを撥ね飛ばしたことに対して支払う対価って何ですか?」
ケインさんにそう言われて、俺は本来の目的を思い出した。
「ああ、すっかり忘れてた。えっと、俺、今日パーティメンバーの家に泊めて貰うんで、そこまで送って欲しいんです。」
「それだけで良いんですか?」
「ええ。」
「住所などは分かりますか?」
「はい。ここです。」
俺はユリアが住所を書いた紙を渡す。すると、ケインさんは目を見開いた。
「こ、ここってユリアの家じゃないですか!」
「え? ケインさん、ユリアと知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、元同僚ですよ! 工場で一緒に働いてたんです! 今でも1か月に2、3回会ってますし!」
「ふーん、なかなか親密な関係なんですね。恋愛感情とかあるんですか?」
俺はちょっと気になったので聞いてみたが、ケインさんは平然とした顔で、
「いえ。単に気の合う友人ってだけで。」
と否定した。
「じゃあ、何でさっきあんなに驚いていたんですか?」
俺がこう聞くと、ケインさんは、
「ユリアにあまり会いたくないんです。」
とちょっと不安そうな声で言った。
「ユリアと喧嘩でもしたんですか?」
「いえ。そういう訳ではなく、なんか今日はユリアを轢いてしまいそうな気がするんです。」
「俺を轢いたからですか?」
「はい。まあ、リチャードさんがお求めになる対価ですから、ちゃんとお送りしますが……」
「万一轢いちゃった場合は俺が魔法で何とかしますよ。だから、安心してください。」
俺がこう言うと、ケインさんはホッとしたような顔になった。
「ありがとうございます。じゃあ、もう行きますか?」
「あ、はい。ティリ、行くよ。」
そう俺が声をかけると、ストローの袋でゲジゲジをして遊んでいたティリは、
「かしこまりました、ご主人様。」
と返事をしてフワリと飛び上がり、俺の肩に座った。
「じゃあ、乗ってください。」
ケインさんは真っ赤なドーイバイクを引っ張って来てそう言う。
「あ、ちょっとだけ待ってください。」
俺はそう言うと、流星柄のドーイバイクを異次元倉庫にしまい、後部座席に乗り込んだ。
「では出発です。しっかり掴まっていてくださいね!」
ケインさんがそう言うと、ドーイバイクはもの凄い勢いで走り出した。
「ちょ、ちょっと、ケインさん! スピード出し過ぎなんじゃ……」
俺はこう言ったが、
「ウェーバーに行くときはこのくらいの速度が普通ですよ!」
とケインさんは楽しそうに言うだけだった。
……尚、この後ケインさんが家の前で俺を待っていたユリアを撥ね飛ばしてしまったのは言うまでもない。
「はあ、だから言ったのに……【エアクッション】!」
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:140
階層数:14
モンスター数:360
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 50体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 20体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:21
スキル:鑑定眼(Lv2)
全属性魔法(上級)
無詠唱
炎耐性
毒耐性
呪耐性
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ヒールフレイムの杖(R、炎属性魔術と治癒属性魔術の威力上昇)
神秘の聖銃(SR、邪属性に特効)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)




