41.Aランクの待遇
「あっ、リチャードさん!」
俺がギルドに入った瞬間、そんな声が飛んで来た。声のした方を見ると、そこにはネコミミをピコピコと嬉しそうに動かしている受付嬢が1人。元ダンジョンマスターで、俺の専属担当受付のレナ・ルー・ミウさんだ。
「こんにちは、レナさん。」
「はい、こんにちは! コバルトは元気ですか?」
「ええ。今日初陣を飾って貰いました。戦闘で疲れちゃったみたいなので連れてきてはいませんが。」
正確にはユリアと一緒だから連れてくるわけにはいかなかったのだが、そんなことを言うとユリアに質問攻めにされそうなのでそうは言わなかった。因みに冒険者の中には野生のモンスターを捕らえて飼いならし、必要に応じて召喚して共に戦う、といったような戦闘スタイルの者もいるので、この会話は特に怪しまれはしない。
「そうですか……コバルトに会えると思ったんですが……」
「すみません、約束を守れなくて。」
「いえ、いいんです。ところで、本日は何のご用でしょうか?」
レナさんに言われて、俺は本来の目的を思い出した。
「ああ、ダンジョン調査に来ていた探索者のユリア・エステル・ローレライさんの付き添いです。」
「ユリアさんのですか? でも、ユリアさんいませんよね?」
「ここにいます! リチャードさんの背が高すぎて隠れちゃってるだけです!」
「あ、いらっしゃったんですか。これは大変失礼致しました。今回はどこまで調査できたんですか?」
「……取り敢えず、深さ10の真ん中あたりまでです。」
「了解しました。ただ、本日はギルドメンバー希望者が13人いまして、ヴェトルは今面会中です。」
「あとどのくらいかかるんですか?」
「さっき面会を始めたばかりなので、少なくとも45分はかかるかと……」
「そんなにかかるんですか? 待ちきれませんよ!」
「いいじゃないですか、ユリアさん。俺たちにはパーティを組むっていう目的もあるんですから、そっちを先にやればいいでしょう?」
俺がこう言うと、レナさんは目を見開いた。
「ええ? り、リチャードさん、ユリアさんとパーティ組むんですか?」
「いけませんか? 別にAランク冒険者がパーティ組んじゃいけないなんてどこにも書いてないですよね?」
「まあ、確かにAランクがパーティを組んではいけないという規則はありませんけど……」
レナさんはそう言うと、俺に顔を寄せてヒソヒソと話し始めた。
「ご自分の立場を分かっていらっしゃるんですか? リチャードさんはダンジョンマスターでしょう?」
「メリットがあるんですよ。パーティ組めば行動を制限できますから。」
「……まあ、リチャードさんなら心配はいらないと思いますが、ばれないように気を付けてくださいね。」
レナさんはそう言うと、顔を離して近くの書類の山から1枚の羊皮紙を取り出した。【パーティ結成用紙】と上部に書いてあり、その下に四角い枠が4つついている。
「この枠の中に、右手の親指で血判を捺してください。」
そう言って、レナさんは小振りのナイフを俺に渡した。俺はそのナイフの先端で親指を少し斬り、血判を捺すとその傷を【ヒール】で治してからユリアにナイフを渡す。ユリアも同じように捺した。レナさんはそれを見ると、
「はい、これでパーティ契約は完了です。」
と言った。
「え? これだけですか? 署名とかは?」
「必要ありません。リチャードさんがAランクですので。」
「Aランクがいる場合は血判だけでいいんですか?」
「ええ。Aランクになったということは、相当な回数のクエストをこなして、ギルドに多大なる貢献をしてくださったということですから。ギルドもそれだけ信頼しているんです。」
「俺はクエストやってないんですけど……」
「リチャードさんの場合はバミック試験官を倒したという実績があります。それに、リチャードさんが怪しい人じゃないということは私が証明できますからね。」
「俺は怪しいとか怪しくないとかそういうレベルを逸脱しているところの存在のような気がするんですけど……」
なんてったってダンジョンマスターだしな。
「そうですね。でもいいんです。実績があるんですから。」
「はあ……」
そんな理由で全面的に信頼して大丈夫なのかと思ったが、面倒事を増やすのは嫌なので、俺は反論をしないことにした。
「では、パーティ結成は済んだみたいなので、もうここに用はありません。ヴェトルマスターの面会が終わるころにまた来ます。行きましょう、リチャードさん。」
そう言ってユリアは出口に向かって歩き出す。しかし、その時レナさんが、
「あーあ、残念だなぁ。なんか今日あたりリチャードさんが来るような気がしたからAランク冒険者面会待機室に色々と準備してたのになぁ。アサンドルから届いた最高級の更に上をいくハイグレードなハチミツとか、王都のこの国で一番有名なお菓子屋さん、モロディエルから届いた1個1000ゴルドもするマカロンとか、魔境山の麓から湧きだしてる天然炭酸水とか。でも帰っちゃうんじゃいいや。元々私が貰ったものだし、今日の休憩時間に食べちゃおうっと。あ、休憩時間だ。リチャードさん、ユリアさん、当ギルドのご利用ありがとうございました♪」
と唄うように呟き、そのまま奥に引っ込もうとした。
「え? あっ、ちょっと待ってください!」
ユリアは慌てたように声をあげる。1個1000ゴルドのマカロンというフレーズに惹かれたようだ。しかしレナさんは、
「お帰りになられて結構ですよ。今日の私のおやつがグレードアップしましたし。嬉しいなっと♪」
と心底嬉しそうな声で言うだけ。ユリアは涙目になってプルプル震えている。それを見かねて、
「レナさん、あんまりいじめないであげてください。待ちますから。」
と俺が言うと、途端にレナさんは態度を変えた。
「では、Aランク冒険者面会待機室にご案内致します。リチャードさん、ユリアさん、こちらへどうぞ。」
レナさんはそう言いながら、カウンターとこちらを仕切っている板をどけてこちら側に出てくると、俺たちをギルドの奥へと案内した。
「うわ……めっちゃ豪華だ……」
俺はAランク冒険者面会待機室の豪華さに言葉を奪われていた。天井からは豪奢なシャンデリアがぶら下がり、マホガニー製のテーブルの上にはハチミツの壺、マカロンの入った箱、天然炭酸水の入った瓶が並んでいる。
「Aランク冒険者の方を無碍に扱うことはできませんからね。因みに、Aランクの方がパーティの半数を占める場合、そのパーティはAランクパーティとなりますので、リチャードさんがいらっしゃればユリアさんもここで待機することができます。では、ヴェトルが面会できるようになるまで、ごゆっくりおくつろぎください。あ、私の分のおやつは別に取ってありますので、用意してある物はご自由にどうぞ。」
そう言うと、レナさんは出て行った。念の為、テーブルの上の物を鑑定してみたが別におかしなところはない。Aランクに対するギルドの待遇の良さを思い知った瞬間だった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:140
階層数:14
モンスター数:360
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 50体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 20体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:19
スキル:鑑定眼(Lv2)
全属性魔法(上級)
無詠唱
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
所持武器:ルビーの杖(R、炎属性魔術の威力上昇)




