39.山中での会話
「あ、あの、リチャードさん。」
ウェーバーに向かってドーイバイクで山中を走っている時、後部座席に座っているユリアが声をかけてきた。
「ん? 何ですか?」
「り、リチャードさんの従者というのは、今リチャードさんの肩に乗っている妖精さんのことですか?」
「ああ、まあそうですね。この子の名前はティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト。愛称はティリです。ほら、ティリ、挨拶して。」
俺がそう言うと、ティリは俺の肩の上で器用にクルリと半回転し、
「私はリチャード・ルドルフ・イクスティンク様の従者であり秘書でもある妖精のティリウレス・ウェルタリア・フィリカルトと申します。どうぞティリとお呼び下さい、ユリア様。」
と言ってペコリと一礼。常に俺に敵対する者や俺が優遇する者に対して敵意をビンビンに向けているくせに、今日はやけに素直だ。何か怪しいので、俺はこっそりとリードハートを使用。すると……
(ご主人様に敵対したにもかかわらず優遇されて調子に乗りやがって……今すぐ消し炭に変えてやりたい……でもそんなことをしたらご主人様に今度こそ愛想を尽かされて捨てられるかも……この人、もしかしたらそんなに悪い人じゃないかもしれないし、消し炭はやめておこうかな。ご主人様の正体もバレてないみたいだし。)
やっぱりヤバいことを考えていたが、段々と穏やかになっている。これなら心配はないだろうが、急に暴走しないように布石も打っておくか。
「ティリは俺の人生にとって、最も大切な存在です。ティリに害を与えようとする者は誰であろうと許しません。問答無用でこの世から強制排除します。」
俺がこう言うと、ユリアはちょっと引いた顔をしながら、
「あ、そ、そ、そ、そうですか……ティリさんのこと、大切にされているんですね……」
と言った。
「ええ。」
俺はそう短く答えると、ドーイバイクのスピードを上げ、ユリアに、
「ところで、話は変わりますが、ユリアさんはB+ランクでしたよね? 冒険者になってから何年程経つんですか?」
と聞いた。これはユリアがどのくらいの実力の持ち主なのか見極める為だ。ダンジョンの中じゃフレイムウルフに敵わないってことぐらいしか分からなかったからな。
「私ですか? えっと……冒険者になったのは3年前です。今でこそB+ランクの一級探索者ですが、最初はD+ランクでした。」
「3年で6つもランクを上げられたんですか。なかなかの実力をお持ちなんですね。」
「い、いえ。私なんかまだまだですよ。実際今日だって、もしリチャードさんが助けに来てくださらなかったら私は今頃骨だけになっています。しかし、私のことは置いておいてもリチャードさんは凄いですね。情報が無い状態で深さ25まで行かれるなんて……」
「そんなに凄いことはしていませんよ。俺はモンスターの種類や生態の調査をしていただけですから、戦闘はほとんどしていませんし。」
「でも、ソロで深さ25まで行かれるなんて、探索者か斥候じゃないと99.99%無理ですよ! いくら魔術師でも魔力探知で通路を探るには限界があるでしょうし……リチャードさんはいつ頃冒険者になられたんですか?」
「あー、まだ1年経ってないですね。ランクはAですけど。」
俺がこう言うと、ユリアは目を見開いた。
「え、Aランクということは、リチャードさんは大魔術師なのですか?」
「ええ、まあ、大魔術師ですけど……」
俺はユリアの勢いに少し気圧されながらも頷く。そんなに驚くことなのだろうか?
「大魔術師なんて100人ぐらいしかいないはずなのに……あの、リチャードさんはパーティを組んでいらっしゃいませんよね?」
「勿論。組んでいたらソロでダンジョンに挑戦したりなんかしませんよ。」
「どこかのギルドメンバーだったりは……」
「いえ。俺はどこのギルドメンバーでもないです。これからもなる気はありません。」
ギルドメンバーになったところで、別に暇つぶし以外でクエストをする気はないから、大して意味無いんだよな。ルキナスさんによると、メンバーになる時に入会金がかかる上、招集がかかったらギルドに急行しなければならないらしいし。メンバーになったギルドのクエスト報酬が5割増しになるっていうメリットがあるみたいだけど、俺だってそう度々地上に来たい訳じゃないし、先程言ったように暇つぶし以外でクエストをする気も無い。だからこんなハイリスクローリターンなことはしたくないんだよな。
「あの、リチャードさん?」
ユリアの声で俺はハッと我に返った。
「あ、すみません。少しボーっとしていました。」
俺がこう言うと、ユリアは、
「まだ質問があるのですが、よろしいですか?」
と聞いてきた。
「ええ。」
俺は特に断る理由も無いので了承。すると、ユリアはホッとしたような顔になって、
「リチャードさんは、パーティを組む気はないのですか?」
と聞いてきた。
「いや、ただ単に仲間が見つからないってだけです。」
俺がこう答えると、ユリアは目をキラキラさせ始めた。急にどうしたのだろうと思っていると、ユリアはガバッと頭を下げ、俺が全く予想していなかった言葉を口にした。
「では、私とパーティを組んで頂けませんか?」
「……はい?」
俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。
「べ、別に構いませんが、なぜ?」
「私はずっと頼りになるパーティメンバーの方が欲しかったんです。でも、私は非力で戦闘能力も低い探索者。索敵能力では斥候に劣り、弓術では射手に劣り、狙撃では銃士に劣り、剣術では剣士に劣り、馬術では騎士に劣り、魔法では魔術師に劣ります。強い冒険者に頼んでも、お前のような産廃職業者は要らないと言われて断られ続け、結局ずっとソロでした。そんな私を不憫に思って仮のパーティを組んでくださっている方もいるのですが、仮ですのであまり一緒にクエストを受けることができなくて……」
「成程。でも、俺が頼りになりそうだっていう理由だけでパーティを組んでいいんですか? もしかしたら俺はもの凄くあくどくて、パーティを組んだ途端に豹変するかもしれませんよ? 例えば、クエストの報酬の取り分を俺が9割、ユリアさんが1割っていう風にしたりとか。」
「あくどいことをする人はそういうことは言いませんよ。それに、ご自分のダンジョン探索を中止してまで見ず知らずの私を助けてくれたリチャードさんがそんなことをする訳がないと信じていますから。」
「……買い被りすぎですよ。俺はユリアさんが思ってるほど立派な人間じゃありません。」
「いいえ! ご主人様は素晴らしいお方です!」
ここまでずっと黙っていたティリが急に割り込んできた。
「ご主人様はただの従者にすぎない私を労ってくださいます! それに、人を貶めたりしません! もっとご自分に自信を持ってください!」
「リチャードさんを一番近くで見ているティリさんがこう仰るなら、これに勝る証拠はありません! やはりリチャードさんは素晴らしい方です! どうか、私とパーティを!」
懇願してくるユリア。これはもう断れないな。
「分かりました。俺の提示する条件を飲んで頂けるのならば、パーティを組みましょう。」
「何ですか? 私の出来ることならば何でも!」
「まず、ダンジョン調査クエストがあった場合は、俺も同行することを許可する。次に、俺が1人でクエストに行くことも許可する。更に、パーティで受けるクエストは俺と2人で相談して決める。そして、俺の事を詮索しない。以上です。」
「それだけですか?」
「ええ。」
「分かりました。では、その条件を飲みます!」
ユリアはしっかりと頷きながらそう言った。
「じゃあ、これからよろしく、ユリアさん。」
「はい! よろしくお願いします、リチャードさん!」
俺たちはウェーバーへと進むドーイバイクの上で握手を交わしたのだった。
【ダンジョンステータス】
ダンジョン名:友好獣のダンジョン
深さ:140
階層数:14
モンスター数:360
内訳:ジャイアントモール 10体
キングモール 10体
メタルモール 29体
ジェネラルメタルモール 1体
ウルフ 50体
ソイルウルフ 15体
ファイアウルフ 13体
ウォーターウルフ 12体
アースウルフ 20体
フレイムウルフ 20体
アクアウルフ 20体
プレデターラビット 2体
ビッグワーム 25体
ジャイアントワーム 25体
ビッガースネイク 30体
レッドスワロー 12体
フレイムイーグル 5体
イートシャドウ 10体
ハンターシャドウ 1体
シノビシャドウ 2体
アサシンシャドウ 2体
ハイパースパイダー 5体
ナイトスコーピオン 5体
ブルースパロー 20体
ブルースワロー 10体
ウォーターホーク 1体
ウォーターホーンオウル 2体
ウォータークジャク 3体
友好条約締結者
リック・トルディ・フェイン(農業都市アサンドル領主)
レオナルド・モンテュ・フォーカス(工業都市ヤスパース領主)
住人
リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)
ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)
ルーア・シェル・アリネ(獣人、軽戦士)
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:19
スキル:鑑定眼(Lv2)
全属性魔法(上級)
無詠唱
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
所持武器:ルビーの杖(R、炎属性魔術の威力上昇)




