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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第4章:マスターと冒険者①

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side 探索者 撤退と追跡

「キャアアアアアー!」


 ユリアは大きな悲鳴を上げた。無理もない。粘液に濡れた、自分の3倍程の大きさのミミズがにじり寄ってきているのだ。悲鳴を上げるなと言う方が無理な話である。だが、この場合は悲鳴を上げたことが更なる悲劇を生むことになった。


「シュシュシュー!」


 悲鳴を聞いたジャイアントワームが、急に動きを乱したのだ。いくら巨大だと言っても、結局このジャイアントワームというモンスターはミミズであることに変わりはない。従って、普通のミミズと同様に視覚を失った分だけ、他の感覚機能である嗅覚、聴覚、味覚、触覚が発達しているのだ。その中で今回ユリアを追うのに使用していたのは、遠くの1滴の雨の匂いすら感じ取ることができるほど発達している嗅覚と、生物の鼓動の音すら聞くことができる聴覚。それらをフル活用しているときに目の前で大音量の悲鳴など上げられようものなら、どうなるかは容易に想像できるだろう。加えて、ジャイアントワームたちは光を感じることはできるが、物体の形を完全に認識することはできない。その為、今回もユリアの姿を完全には認識していないのだ。そんな時に襲いかかってきたのが大音量の悲鳴。例えるなら、何の前触れも無く、いきなり耳元でバイクの爆音が鳴り響いたようなものだ。


「シュシュシュー!」


 ジャイアントワームたちは一瞬のうちに大パニックに陥り、体を激しくビタンビタンと壁や床に打ち付け、粘液を辺り構わず発射する。ユリアはそれを見て更に大きな悲鳴を上げ、ジャイアントワームはそれを聞いて更にパニクる。そんな負のスパイラルが何度か繰り返され、遂に……


「キャッ!」


 ジャイアントワームの発射した粘液がユリアにかかった。その瞬間、ジャイアントワームのスキル、【粘液拘束】が発動。粘液は瞬く間に固まり、ユリアは完全に動けなくなった。ユリアはまた叫ぶ。ジャイアントワームは更にパニクる。またも負のスパイラルが繰り返され、今度はジャイアントワームの尾(どこからが尾なのか定かではないが)がユリアに直撃した。ユリアは吹き飛ばされ、壁にぶつかってゴホゴホと咳込む。左手に痛みが走ったので見てみると、手の平から血が出ていた。壁にぶつかったときに擦りむいたらしい。そして、ユリアの手の平から滴る血は新たな悲劇を生む。


「「ギュルルルルル……」」


 おぞましい2重の唸り声と共に、ウルフの群れの中から何かが出てきた。真っ白な体で長い耳、小さな口とその中にビッシリと並ぶ鋭い牙、そしてかすかに血の臭いを漂わせるその生物は……


「プ、プレデターラビット? あんな危険な猛獣がいるなんて聞いていません!」


 そう、リチャードが山で捕獲してきたプレデターラビットだ。無論彼らもリチャードから、【命は最優先】という命令を受けている。従って、ユリアを襲うなどという危険な行為は本来起こりえないのだが、彼らはウルフたちと決定的に違う点がある。それは、元野生種であるということ。即ち、リチャードが召喚したモンスターではないので、ダンジョンコアの支配下に完全には入らないのだ。その為、何らかの外的要因によってリチャードの命令よりも重要度が高い彼らの本能が目覚めた場合、彼らは命令を無視することができる。つまり、簡潔にまとめると、血の香り・・を嗅ぎつけたプレデターラビットは捕食者としての本能が覚醒し、ユリアを【敵】や【侵入者】ではなく、単なる【獲物エサ】として認識したということだ。


「「ギュルルルルル……」」


 プレデターラビットたちは唸りながら一歩ずつユリアに近付いていく。1体のウルフが何とか止めようとしたが、足に噛み付かれてしまい、すごすごと引き下がった。もはやプレデターラビットには理性など一片も残っていない。あるのは獲物を捕食するという本能、ただそれだけだ。


「前には猛獣、後ろには大ミミズ……前門の虎後門の狼とはこのことですね……もうおしまいです……」


 ユリアが観念して目を瞑ったその時、


「「ギュルル?」」

「シュシュシュー?」


 プレデターラビットとジャイアントワームの焦ったような声が聞こえた。恐る恐るユリアは目を開ける。すると、2種のモンスターが自らが目を閉じる前と全く同じ格好のまま固まっている、という衝撃の光景が目に飛び込んできた。シノビシャドウの仕業である。リチャードの命令を受けたシノビシャドウは影の中を移動してその場に姿を現すと、スキル【影縛】を使用し、ジャイアントワームとプレデターラビットの影を縛り付けて動きを封じたのだ。無論ユリアが目を開けた時には既にシノビシャドウは影に埋没してその場から消えていたので、ユリアには何が起こったのか理解できなかったが。


「な、何だかよく分かりませんが、これはチャンスです!」


 ユリアがそう言って足に力を込めた瞬間、丁度【粘液拘束】の効果が切れ、ユリアは自由になった。


「今です! 撤退開始!」


 ユリアはそう叫んでジャイアントワームを飛び越えると、脇目も振らずに走り出した。



「「ギュルルルルル!」」

「なんでまだ追ってくるんですか! いい加減諦めてください!」


 深さ4でユリアは悲鳴に近い叫びをあげた。プレデターラビットが執念深く追ってきているのだ。もともと、影縛は継続時間が短い。長くても1分30秒が限度だ。イートシャドウの影喰は継続時間1分が限度なのでそれと比べれば長いが、ダンジョン脱出に必要な時間となると最低でもその10倍は必要だ。


「こんなことになるなんて……こんなクエスト受けるんじゃなかったです!」


 泣き言を言うユリア。一休みが死を意味する命がけの鬼ごっこは、まだしばらく続きそうだった。



「ハア、ハア、ハア……で、出口が見えてきました! これなら……」


 深さ1の入り口付近に辿り着いたユリア。その目にはしっかりと太陽の光が映っている。


「やっと、やっと脱出できます!」


 ユリアはそう言うと、地図の描いてある羊皮紙を回収し、ダンジョンの外に飛び出した。そのままダンジョンの入り口から距離を取る。そして、後ろを振り返り、ユリアの表情は凍りついた。


「な、なんでまだいるんですか! ダンジョン外なのに!」


 ユリアは叫んで再び走り出す。何とプレデターラビットがダンジョンから出てきていたのだ。


「もう嫌ああああああああ!」


 ユリアは走りながらそう叫ぶ。そして命のかかった鬼ごっこは、フェリアイルステップでも続くのだった。

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