表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第4章:マスターと冒険者①

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/200

side 探索者 撤退と恐怖

「フレイムウルフにさえ気を付けておけば、ウルフより走力に勝る私が撤退できない訳がありません! なにがなんでも脱出して、この危険なダンジョンの情報をギルドに伝えるのです!」


 ユリアは通路を全速力で駆けていた。後ろからはタッタッタッという足音を立てながらウルフたちが追いかけてくる。どうやら見逃してくれる気はないようだ。ユリアは後ろを振り返り、溜息を吐く。


「しつこいですね……仕方ありません。一旦ここで戦ってみましょう。」


 そう呟くと、ユリアは立ち止まり、長剣を抜いてウルフの群れに立ち向かった。そして、喉を狙って飛び掛かってきたウルフの噛み付きを軽く躱し、それと同時に素早く剣を振るう。ユリアは、この攻撃で1体は確実に葬れる、そして仲間が殺されたという事実にウルフたちが動揺している間に撤退できる、とそう考えていた。しかし、現実はそんなに甘くない。ウルフたちはリチャードから『命は最優先』という命令を受けているのだ。従って……


「なっ? さ、避けられた?」


 ユリアの自信があった長剣の斬撃は、命を優先したウルフたちにあっさりと躱された。


「クッ……通常攻撃で斬れないのならば武技を使うまでです! 剣術武技Lv6スキル、【サクリファイス・スラッシュ!】」


 ユリアがそう叫ぶと、長剣が金色の輝きを帯びた。ユリアはその剣を構え直すと、ウルフたちに斬りかかる。彼女が使った武技、【サクリファイス・スラッシュ】は、スキル【剣術】を所持し、且つそのスキルレベルが6を超えた者にしか使用できない武技。犠牲斬撃サクリファイス・スラッシュの名の通り、自らの体力、魔力、気力を15%犠牲にすることと引き換えに、斬撃の威力とスピードを上げることが可能となる効果がある。時には龍種の首さえ飛ばせると言われる、強力な技だ。


「これで何とか……!」


 ユリアは剣を大きく振りかぶると、突っ込んできたウルフの頭に向けて思い切り振り下ろす。普通なら成す術もなく真っ二つにされて絶命するだろう。だが、それはあくまで普通なら、だ。


「グァルルルルルル!」


 ウルフの唸り声が聞こえると共に、ユリアの長剣の動きが止まる。ウルフを真っ二つに叩き斬るはずだった長剣は……


「う、受け止めたというのですか? 私のサクリファイス・スラッシュを牙で?」


 群れの後方から飛び出してきたフレイムウルフに噛み付かれ、しっかりと受け止められていた。フレイムウルフはそのまま顎に力を込めると、その鋭い牙で剣を粉々に噛み砕く。この瞬間、ユリアは絶望的な戦力差を悟った。彼女の奥義ともいえるサクリファイス・スラッシュすら受け止め、剣をも砕く強力なモンスターと、疲弊しきっている上、武器まで失った自分。どう贔屓目に見ても詰みだった。


「私の剣が粉々になってしまいました……これではもう戦えませんね。」


 ユリアは溜息を吐くと、懐からナイフを取り出し、顔を伏せた。


「どうやら私はここまでのようです。覚悟を決めて、自害しましょう。死ぬのは嫌ですが、このモンスターたちにリンチされて嬲り殺されるよりはマシです……」


 ユリアはナイフの刃先をゆっくりと自らの喉に近づける。そして、そのナイフが彼女の白い喉に突き刺さろうとした瞬間、突如として、


「ミャーンミャーンミャーン!」


 という鳴き声が響いた。その声にユリアはビクッと体を震わせ、思わず顔を上げる。そこには美しい飾り羽根を広げた青いクジャクがいた。そのクジャク、コバルトはユリアをしっかりと見据えると、体を震わせて飾り羽根を1本発射。その羽根はまっすぐに飛び、ユリアの手を傷つけずに握られていたナイフのみを弾き飛ばした。


「じ、自害すら許されないなんて……」


 ユリアはがっくりと項垂れて地に膝をついた。もう立ち上がる気力もない。しかし、いつまでたってもモンスターは一向に襲いかかってこなかった。


「な、なぜ襲ってこないのですか?」


 ユリアがそう呟いて顔を上げると、フレイムウルフが歩み寄ってきて、顔をクイッと斜めに上げた。


「み、見逃してくれるということですか?」

「アウ。」


 フレイムウルフは頷く。


「殺さないのですか?」

「アウ。」


 フレイムウルフは頷く。


「逃げ出した瞬間に後ろから攻撃したりはしないのですか?」

「アウ。」


 フレイムウルフは頷く。


「私はダンジョンにとっては敵なのですよ? それなのに……」

「アウ! アウウウ! グァルルルルルル!」


 フレイムウルフは苛立ったように唸る。口から少し炎が漏れていることから察するに、『さっさと行け!』とでも思っているのだろう。


「で、では、失礼致します……」


 ユリアはそう言って後ろを向いた。そして悲劇が訪れる。


「……え?」


 ユリアは思わず硬直した。理由は言うまでもないだろうが一応言っておく。表皮から分泌される粘液によって常にヌラヌラと怪しく光る5m級の巨大なミミズ、ジャイアントワームだ。そんなものが振り返った場所にいたとしたら、どんなに強靭な精神力を持つ者でも驚くだろう。そして、更に不幸だったのは、リチャードがジャイアントワームに与えた命令に【命は最優先】のフレーズが入っていなかったことだ。即ち、リチャードの挟み撃ち命令は曲解すると、【敵に挑み、殺してでも排除しろ】という意味になる。そして、ジャイアントワームはその命令を忠実に実行する為、ゆっくりとユリアに迫っていった……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ