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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第4章:マスターと冒険者①

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side 探索者 深さ6~深さ9

「はあ、はあ……流石にこれだけ多いときついですね……」


 ユリアは息が上がってきていた。無理もない。雑魚モンスターとはいえ、相手はそれなりに攻撃の手段を持っていて、制空権もあるのだ。それが30羽もいるとなれば、流石に疲労が溜まるだろう。


「たあっ! えいっ!」


 ユリアの長剣が空を切った。ブルースパローもブルースワローもユリアの攻撃に慣れてきて、そう簡単には斬られなくなっている。


「くっ!」


 ユリアが呻いた。剣を振った反動でよろめいた瞬間、ブルースワローが突っ込んできたのだ。普段ならば余裕で躱すことができるが、バランスが上手く取れず、疲労も溜まった今の状況ではそうはいかない。右の手首がブルースパローのかぎ爪によって浅く斬られてしまった。血が滲み、痛みが走る。


「……こんな浅いところで撤退してなるものですか! 調査らしい調査など、まだほとんどできていないのですから!」


 ユリアは自分を叱るようにそう叫ぶと、剣を握り直して再び青い鳥の群れへと斬りかかるのだった。



「はあ、はあ、はあ……なんとか追い払えましたが、流石に疲れました。少し休憩して、体力を回復することにしましょう。」


 20分以上に及ぶ戦闘の末、ユリアは何とかブルースパロー、ブルースワローの群れを撃退することに成功した。しかし、ユリアも手首や顔に少なからず攻撃を受けた為、これまでのように無傷とはいかず、血が出たり腫れたりしていた。


「まさか深さ6で怪我を負うなんて……こんな浅いところで怪我をするのは初めての経験です。あの2種しかいないからと油断していたのが悪かったのでしょう。できたてだろうが何だろうが、ダンジョンはダンジョン。モンスターの巣窟なのですから。」


 ユリアはそう言いながら壁を背にして座り込み、マジックポーチから初級回復薬の入ったビンを取り出すと、一気に飲み干す。すると、出血していた箇所の傷がたちまち塞がり、腫れも引いていった。


「この位の怪我なら、初級の回復薬で十分治癒が可能なのですね。ここに来る前にホイジンガで購入しておいてよかったです。」


 幸い、今回のダンジョン調査に際してポーションや回復薬を大量にまとめ買いしておいたので、まだ備蓄は潤沢だ。マジックポーチの中に100本以上入っている。


「んー……魔力探知によると、この深さにもうモンスターはいないようですね。ここで昼食も摂ってしまった方が良いでしょう。【オールサイド・マジックシールド】!」


 そうユリアが呪文を唱えると、キラキラと光る光の壁が現れ、ユリアの周囲を取り囲んだ。


「これで大抵のモンスターは入ってこられません。落ち着いて食事ができます。」


 ユリアはそう呟くと、マジックポーチから干し肉を2つ取り出し、それをナイフで削ぎながら食べ始めた。次々と干し肉の欠片はユリアの胃の中へと消えていく。あっという間に食べ終わったユリアは、次に白いパンとオリーブオイルを取り出すと、パンを手で一口大にちぎり、オリーブオイルに浸して口へと運んだ。ちぎられたパンは干し肉同様ユリアの胃の中へ次々と消えていき、5分と経たずに食べ終えられた。最後にユリアは、魔力を増大させるブースト系のポーションを飲み干し、魔力を限界まで強化するとシールドを消す。


「よし、これで昼食は終了です。魔力強化も済みましたし、これでまたあのブルースパロー、ブルースワローの群れが来ても無闇に突っ込まずに対応できます。」


 そう言い、ユリアはまたダンジョン内を歩き出す。因みに、今まで戦ったブルースパロー、ブルースワローは全てがダンジョンの奥へ奥へと逃げて行っているので、ユリアは深さ7や深さ8でもエンカウントするものだと思っていた。



「……おかしいですね。先程まで10分に1回は確実にモンスターとエンカウントしていたというのに、1時間全く出会わないなんて……罠があったのかもしれないですが、それらしいものには一切引っかかっていませんし……」


 ユリアは深さ8のルートの始まる地点でそう呟いた。深さ7のルートでユリアは一切モンスターとエンカウントしなかったのだ。ダンジョンは1つの深さのルートがかなり長く、仮に一直線のルートであったとしても10kmを割り込む事は無い。その間、モンスターと一度も出くわさないというのは明らかに異常だ。罠があって、モンスターが引っかからないように敢えて配置しないということもあり得るが、深さ7のルートにそのようなものは一切なかった。宝箱も落とし穴もモンスター発生トラップも。偶然引っかからなかったのかもしれないが、10km以上あるルートに罠が無数に仕掛けられていて、それにダンジョン内の構造を全く知らない人間が引っかからないのなら、ダンジョン内の構造を知っているモンスターが引っかかる訳がない。とすると、罠が無いと考えるのが妥当だ。罠もモンスターも存在しなかった深さ7のルート。そんなものが存在していたという事実は、ユリアに得体の知れない恐怖を抱かせた。


「……少々不気味ですが、ここで立ち止まっていても何も分かりませんし、先へ進むことにしましょう。」


 ユリアは自分を落ち着かせるようにそう言うと、深さ8のルートを進み始めた。



「絶対におかしいです。こんなダンジョンが存在する訳が……」


 深さ9のルートが始まる地点でユリアは怯えたように声をあげた。深さ8のルートにもモンスターはいず、罠も無かった。さすがにこれは異常すぎる。


「なぜモンスターが20km以上に渡って1体もいないのですか……深さ1~6ではあれだけの数のブルースパロー、ブルースワローとエンカウントしたというのに……」


 これまでに5つのダンジョンの調査をこなし、一級探索者シーカーの称号を得ているユリアでも、ここまで異質なダンジョンは見たことが無かった。モンスターがいないルートが20km以上続いている、罠も存在しない、それまでにいたのは雑魚モンスターのみ……これでは侵入者にどうぞお通り下さいと言っているようなものだ。


「まさかとは思いますが、この深さ9のルートもそうなのでしょうか?」


 ユリアは勇気を振り絞って足に力を込めると、深さ9のルートを全速力で走り出したのだった。



「い、いない……罠も無い……あり得ません、こんなダンジョンなんて……」


 深さ9を突破したユリアは発狂寸前だった。深さ9もモンスター0、罠0。彼女はもう逃げだしたくなっていた。


「し、しかし調査は私の請け負ったクエストです……なんとか行けるところまで行かなければ……我らがギルドマスター、ヴェトル・カリス・ティグルを失望させる訳にはいかないのですから……」


 ユリアはそう言うと、動きたがらない足を無理やり動かして深さ10のルートに足を踏み入れたのだった。


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