side 探索者 入り口付近~深さ6
「ふう、やっとダンジョンに着いたみたいですね。予定より少し遅くなってしまいましたが、まあ、誤差の範囲内でしょう。」
ウェーバーギルドのギルドメンバーで、今回ダンジョンの調査を任されたB+ランクの一級探索者、ユリア・エステル・ローレライはフェリアイルステップにぽっかりと空いたダンジョン入り口の前でそう呟いた。
「出来たてとはいえ、ダンジョンはダンジョン。気を抜く訳にはいきません。」
ユリアはそう言いながらダンジョンの中に足を踏み入れる。その途端、彼女は違和感を覚えた。
「これは……? 少し体が重くなったような気が……」
実は、リチャードがダンジョン全体に仕掛けたトラップの効果で、モンスターとリチャードが【仲間】と認識している者以外の生物にかかる重力がダンジョン内では通常の約1.3倍になっている。少し動きにくい程度だが、この状態で普段と同じように行動すると疲労が溜まりやすいのだ。
「まあ、少し動きにくい程度ですし、特に問題はないでしょう。……ん? これは……宝箱でしょうか?」
ここでユリアは、入り口付近に置いてある4つの宝箱に目を留めた。ダンジョンの宝箱といえば、深層に行けば行く程レアリティの高い物が出やすいが、その分危険なモンスターやトラップが出ることもある代物。何の対応もできない状態で開けるのはやめた方が良いとされている。
「まだ第1階層、それも深さ1の入り口付近にあるということは、あまり良い物が出る事は無いでしょうね。ですが、その分危険なトラップが出ることも少ないでしょう。」
ユリアは周囲を警戒しながら宝箱に手をかけ、開けると同時に腰の長剣を抜き払う。しかし、中にあったのは装備した者の移動力をアップさせるダッシュシューズだった。他の宝箱も開けてみると、それぞれから治癒魔術の効果を飛躍的に上げるシトリンの杖、剣の柄に付けることで斬撃の威力をアップさせられるスラッシュプラスジルコン、そしてぶつけたり割ったりすることでそれの最も近くにいる者を麻痺させることができるのスタンボールが出てきた。全てそこそこ値が張る物だ。
「トラップが1つも出ないとは、運が良いですね。この調子で地図の作成も上手くいけばいいのですが……」
そう呟きながらユリアは革の靴を脱いでダッシュシューズに履き替え、スラッシュプラスジルコンを長剣の柄に付けると、シトリンの杖とスタンボール、そして脱いだ革の靴をマジックポーチにしまった。
「ダッシュシューズを装備していれば疲労を軽減できます。中々良い装備を手に入れられました。」
ユリアのこの言葉に、どこかで少し悔しそうに顔を歪める男がいたが、そんなことは彼女の知ったことではない。
「では、奥へ進んでいきましょう。【メイキング・マップ】!」
ユリアはマジックポーチから羊皮紙と羽ペン、インクを取り出してそう唱える。すると、羽根ペンが勝手に動き、ユリアが通ったところ、即ちダンジョンの入り口近くの地図を羊皮紙に描き始めた。ユリアはその地図が描かれている羊皮紙に強固な魔術防御を幾重にも施してモンスターに破られないようにすると、ダンジョンの奥へと歩を進めて行った。
「ん? 何か聞こえますね……この音は……鳥系モンスターの羽ばたきでしょうか?」
10分ほど進んでいくと、ユリアの耳に何かが羽ばたくような音が聞こえてきた。
「この小さな音と微弱な響き……小さめの鳥系モンスターが4~5羽といったところでしょうか。ダンジョンで小さい鳥系のモンスターというとブルースパロー、ブルースワロー、レッドスワローあたりですね。レッドスワローがいたらその視界を共有する主、即ちダンジョンマスターがいる可能性が高くなりますし、ここからは気を引き締めて……」
長剣の柄に手をかけ、いつでも抜けるように準備すると、ユリアは慎重に進み始めた。段々と羽音は大きくなってくる。そして、ブルースパローとブルースワローがユリアの前に姿を現した。彼らはユリアの姿を認めると、体当たりと口ばしでつつく攻撃を繰り出してきたが、ユリアは軽く躱して長剣を振るう。その刃先はブルースワローの足を掠めるだけに終わったが、長剣はスラッシュプラスジルコンの効果で斬撃力が上がっている。その威力は凄まじく、掠めただけのブルースワローの足から血を噴き出させた。慌てたようにブルースパロー、ブルースワローは撤退していく。
「あのモンスターがいるとは……草原にあるダンジョンとしては中々珍しいですね。まあ、調査が楽になりますからこちらとしてはありがたいですが。」
ユリアはそう言うと、長剣に付着したブルースワローの血をハンカチで拭い、再び歩き始めた。
「……奇妙ですね。出来たてとはいえ、あの2種しかいないなんて……」
深さ6の地点に着いたユリアはそう呟いた。ここまでに出会ったモンスターはブルースパロー、ブルースワローの2種のみ。あの2種は雑魚の中の雑魚と呼んでも差し支えが無い、スライムの次ぐらいに弱いモンスターで、囮ぐらいにしか使い道が無いのだ。
「しかし、あれしかいないということは、ここは鳥系モンスター専門のダンジョンと考えていいでしょう。とすると、進化種のウォーターホークやウォータークジャクがいる可能性も高いですね。もっと深くまで行かないと分かりませんが……」
そうユリアが呟いた時、突然バサバサバサッと大量の羽音が聞こえてきた。慌てて顔を上げると、そこには青い鳥の群れがいた。ブルースパローとブルースワロー、合わせて30羽程。ダンジョン内でエンカウントした中では最も数が多い。
「はあ……またですか。実害はほとんどないですが、鬱陶しいですね。さっさと片づけることにしましょう。」
ユリアは長剣を抜くと、青い鳥の群れに突っ込んでいったのだった。
ここで皆様にお知らせがあります!
本日、2016年10月1日は、私こと紅蓮グレンが小説家になろうに小説投稿を始めてから、丁度1年、つまり1周年記念日です!
1年という長い期間書き続けられたのは、読者の皆様に支えて頂けたからこそです。連載をどんどん書いていくというのは想像以上に大変なことでしたが、それでも書くことができるのは、やはり読者の皆様が私の小説を楽しんでくださっているということに関しての喜びあってこそです。
私の小説を読んでくださる方が笑顔になってくれる、ドキドキして貰える、それは文章を書く者にとって最大の誉れです。
そして、これからも頑張って書いて行こうと思えるのも皆様のおかげです。これからも、どうぞよろしくお願いします!
また、1周年に際して友人となろう作家の星見つむぎ様より祝福メッセージを頂きました! そのメッセージは活動報告の方にあげさせて頂きました。
友には口頭でお礼を述べておりますので、ここでは星見様にのみお礼を述べさせて頂きます。
星見つむぎ様、本当にありがとうございます!
では、また次の更新でお会いしましょう!




