34.レストランとリチャード
「失礼致します。 お料理をお持ちしました。」
外からそう声が聞こえてくると共にドアが開き、ウサミミ少女(鑑定してみたところ、ルーク・ファイン・チェスターという名前らしい)が金色のワゴンを押しながら入って来た。
「アサンドル直送の新鮮な野菜を10種使いましたリーフサラダです。こちらが本日の前菜になります。」
そう言ってテーブルにサラダを置くと、ルークちゃんは、
「メインディッシュはショーステージでお作り致しますので、その時はお手数ですがお越しください。ステージはVIPルームを背にして右側にございます。」
と言ってぺこりと頭を下げると、ワゴンを押して出て行った。
「ティリ、どういうことか分かるか?」
「普通に解釈しますと、メインディッシュは調理の過程に何らかのショー的要素があるってことだと思います。まあ、コース料理みたいですからメインまで時間はありますし、楽しみにしておきましょう。」
「ああ。じゃあ取りあえず頂こう。いただきます。」
「いただきます。」
俺たちは両手を合わせると、食べ始めたのだった。
「次の料理がメインディッシュとなります。こちらの【シェルシルバーのクラムチャウダー】を食べ終わりましたら、ショーステージにお越しください。」
「はい。」
「はーい。」
「では、失礼致します。」
ルークちゃんは出て行く。俺はスプーンでスープをすくい、一口飲んでからティリに話しかけた。
「さすが街の人たちがお勧めするだけあって、ここの料理は美味しいな。」
「そうですね。ただでさえいいお店なのに、総力を結集して作ってるらしいですから、普段より美味しいのかもしれません。とろりとした白いスープにシェルシルバー特有の貝の味が見事にマッチして、深いコクを生み出しています。これは宮廷に出しても通用する味でしょう……!」
「なんか食レポみたいだな。」
「レポートしているつもりはないですが……でも、とても美味しいのは確かです。」
実際、リーフサラダもクラムチャウダーも、今までで食べたことが無いほど美味しかった。ティリもニコニコしている。笑顔のティリはいつもより数倍可愛く見える。料理も美味しいし、ティリも可愛いし、Wハッピーだ。
「ふう、ごちそうさまっと。」
「え? ご、ご主人様、もう食べ終わったんですか?」
急いで食べようとするティリ。
「あー、そんな慌てないでいいから。俺が食べるの速いってだけだし。自分のペースで食べろ。」
俺はそう言うと、椅子の背もたれに体を預け、ちょっとリラックス。そのまま5分程まったりしていると、ティリが食べ終わった。
「お待たせしました、ご主人様。」
「いやいや、自分のペースが一番だよ。で、次はいよいよメインディッシュだが、どうする? ちょっと休憩していくか? それともすぐ行くか?」
「調理がショーになるってことは時間がかかりそうですし、すぐ行きたいです。」
「じゃあ、ショーステージに行こう。」
俺はそう言うと、ティリを肩に乗せ、VIPルームを出ると、ショーステージへと向かった。
「あ、リチャード様! メインディッシュですね?」
「はい。」
「では、ショーを始めます。ステージをご覧になってください。」
そう言ってルークちゃんがパチンと指をならすと、ステージの上の照明がパッと点き、大きな鉄板と何かの肉を持った人がステージ脇から出てきた。その人は、
「エアフロー!」
と呪文を唱えて上昇気流を起こすと、その上に鉄板を慎重そうに置き、それが落ちないことを確認すると肉を鉄板の上に乗せた。そのはずみで鉄板は少しゆらゆらと揺れたが、均一に上がってくる上昇気流のおかげでひっくり返ったりする事は無く、そこにとどまった。
「調理開始です! フレイマー! アクアル!」
ルークちゃんがそう叫ぶ。すると、ステージ上にファイアウルフとウォーターウルフが出現。ファイアウルフはその脚力を生かして大きく跳躍すると、炎を吐きだした。その炎は上昇気流によって強引に軌道を捻じ曲げられ、瞬く間に鉄板を包み込む。そして、30秒が経過すると今度はウォーターウルフが口から冷気を吐き出した。すると、驚くべきことに、その冷気は炎を包み、凍った炎という有り得ないものを作り出したのだ。
「フィニッシュ! 【ファイア・アイス・エクスプロージョン】!」
ルークちゃんが最後に呪文を唱える。すると、凍った炎が弾け飛び、キラキラとした光の粒子となって、ステージ上に降り注いだ。それに見入っていると、お皿を持った人がステージ横から出てきて、鉄板の上の肉をお皿に移し、ワゴンに載せる。それを見たルークちゃんは、弾けるような満面の笑みで言った。
「お待たせ致しました! こちら、本日のスペシャルコースのメインディッシュ、【レーザーホースのステーキ(ウェルダン)】です!」
「おー、凄い。モンスターが料理するなんて……」
「メインをモンスターが調理するので、ここの店名が【モンスターレストラン】なんですよ。」
「あー、それで店名が。」
「はい。では、お食事に戻りましょう。」
そう言うと、ルークちゃんはワゴンを押しながら俺たちを再びVIPルームへと案内した。
「ありがとうございました! スペシャルコース2名様分でお会計は7000ゴルドですが、今回はこちらが注文をお取りせず、勝手に用意させて頂きましたので、7割引きの2100ゴルドでございます。」
「え? 7割引き?」
「はい。本来大魔術師様のお食事代はギルドがお支払いくださいますので、料金はお取りしないのですが、リチャード様は今回が初来店ですので、料金を一部お支払い頂かなければならないんです。お手を煩わせて恐縮ですが……」
「あー、別にいいですよ。じゃあこれで。」
俺は銀貨で支払いを済ます。そして、周囲に誰もいないことを確認すると、ルークちゃんに銅貨を3枚握らせた。
「これ、チップだから取っておいて。」
ルークちゃんは目をまん丸に見開いたが、すぐに笑顔に戻ると、
「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」
と言って頭を下げた。その顔は営業スマイルではなく、心から笑っているような表情だった。俺は、
「ごちそうさま。」
と言って店を出る。俺は笑顔、ティリも笑顔、ルークちゃんも笑顔。WINWINってのは、こういうことを言うのかもしれないな。




