27.鍛冶屋とリチャード
「さて、友人探しの仕方だけど……どうしようか。」
俺はルキナスさんの友人を探すにはどうすればいいか迷っていた。合言葉の『ルキナスは永久に犬を愛す』を片っ端から聞くわけにもいかないし……
「ティリ、なんかいい方法ないか?」
「いい方法ですか? うーん……名前が分からないですから、どうしようもないですね。広範囲に探索魔法【サーチ】をかけることもご主人様なら可能ですが、設定する対象が【ルキナスは永久に犬を愛す】というフレーズを知っている、というあやふやなものですし……」
探索魔法【サーチ】は魔力展開ができる範囲内の対象を探し出せる有用な魔法だが、それは【友人】や【知り合い】といった関係性の対象設定ができない。【~を知っている】という条件でしか探せないのだ。
「サーチしたとしても、長フレーズ検索なので【ルキナス】【永久】【犬を愛す】の3フレーズのうち2つ以上知っている人が引っかかります。永久という単語を知らない方はほとんどいないでしょうし、ルキナスという名前もそれほど珍しいものではありませんから、この街の大多数の人が引っかかりますね。」
「それじゃ意味無いんだよな。なんか他の案は……」
俺は頭を捻って考えたが、なかなかいい案は思い浮かばない。
「そもそもなんであんな変なフレーズが合言葉なんだよ! 『ルキナスは永久に犬を愛す』とかルーアちゃんにベタ惚れしてますってことじゃねえか!」
「小型のイヌは素晴らしき友。」
俺が叫ぶと、丁度近くを通った人がそう言った。髭面のたくましい男性だ。
「えっと、あなたは……?」
「俺の名はヨーゼフ・ナルカック・ガートン。鍛冶屋だ。冒険者で魔術師のルキナス・クロムウェル・モンテリューとは幼なじみでな。」
「確かに、合言葉を知ってるってことはルキナスさんの友人の方みたいですね。」
「ああ、そうだ。あいつがウィキュシャリア大陸に行っていた頃、通信でその合言葉を教わった。それより、あんたは何者だ? あんたも合言葉知ってるんだろ?」
「あ、俺はリチャード・ルドルフ・イクスティンクといいます。ルキナスさんは俺の仲間で、今日はルキナスさんの友人を探しにここまで来たんです。」
「そうか。俺もルキナスと話したいが、今は領主のレオナルドに呼ばれているのだ。悪いが、先に俺の家で待っていてもらえるか? 俺の家は【ガートン鍛冶屋】だ。俺が打った武器でも見ていてくれ。ルキナスの友人なら安くするぜ。」
そう言うと、髭面男性……ヨーゼフさんは領主の館に入って行った。
「なんて言うか……」
「あっさり見つかりましたね。」
「取り敢えず、鍛冶屋まで行こうか。そこでルキナスさんに連絡しよう。」
俺はティリにそう言うと、鍛冶屋までの道を近くを通りがかった人に聞き、そこへ向かった。
「この鍛冶屋、凄いな……」
「はい……予想以上です……」
俺たちは鍛冶屋で整然と並べられている武器に目を奪われていた。鍛冶屋というから、俺はてっきり鉄や鋼でできていて黒くギラギラと輝く刀や剣を想像していた。だが、ここにあるのは青みがかった銀色や赤みがかった金色に輝く武器、防具の数々。鑑定するまでも無くミスリルやオリハルコンという希少金属で作られている、レアリティランクの高い物だと分かる。
「何でこんなレアリティ高いのがこんなところに……」
「気になりますけど、それはあの人が戻ってきてから聞けばいいと思います。それより、ルキナスさんに連絡しないでいいんですか?」
「あ、やべっ! 武器に見惚れてて連絡するの忘れてた! ルキナスさん、ルキナスさん!」
俺はそう言いながらディスプレイ・パールに魔力を流す。
『おお、リチャード殿。我が友は見つかりましたかな?』
「ええ。鍛冶屋のヨーゼフ・ナルカック・ガートンさんです。」
『ヨーゼフですか。奴はヤスパースで鍛冶屋を営んでいたのですな。』
「知らなかったんですか?」
『ヤスパースにいるということ以外は全く知りませんでしたな。』
「……まあ、別にいいや。えっと、それじゃヨーゼフさんが戻ってきたらまた通信します。じゃあ一旦通信切りますね。」
俺はそう言うと魔力を止める。ディスプレイは消えた。すると、丁度ヨーゼフさんが帰ってきた。
「あ、ヨーゼフさん。」
「客か? 名前は?」
「リチャードです。」
「ああ、先程レオナルドの館前で会ったルキナスのご友人か。」
「はい。」
俺はそう言うと、わざわざ消す必要なかったな、と思いつつディスプレイ・パールに再び魔力を流す。
「おお、ルキナス!」
『久しいな、ヨーゼフよ。』
「お主、どこに住んでいるのだ?」
『今はダンジョンの中だが。』
「ダンジョンの中だと?」
『知らぬのか? まさか……リチャード殿?』
「説明は一切してません。というか、バラすのはもうちょっと後にしようと思っていたのに、先にバラしちゃうなんて……仕方ないんで説明はルキナスさんに丸投げします。」
『なっ? り、リチャード殿?』
「よろしくお願いします。」
「ご主人様、何気に無責任ですね。ちょっと酷いような……」
ティリが何かルキナスさんを擁護する発言をしそうだったので、俺は先手を打った。
「ティリ、これをあげよう。最高級ハチミツだ。」
「え? これどうしたんですか?」
「リックさんがくれた物の中に入ってたんだ。ティリに全部あげるよ。いつも頑張って俺を支えてくれるご褒美だ。」
「ほ、本当ですか?」
「俺がティリに嘘をついたことがあるか?」
「あ、ありません……ご主人様! ありがとうございます! とっても嬉しいです!」
「ゆっくり食べろよ。」
俺はそう言ってティリにハチミツを渡す。そして、ディスプレイに浮かぶルキナスさんに向き直り、
「さて、じゃあ説明お願いします。ティリの口は封じました。」
と悪い笑いを浮かべた。ルキナスさんは手助けをしてくれる唯一の存在がハチミツであっさり買収されてしまった為、対抗手段がなくなり、素直に俺がダンジョンマスターであることや平和主義者であること、ルーアちゃんを助けたこと、侵略する気はないことなどを説明してくれた。
「成程。そういう訳か。まあ、平和主義者なら問題は無いだろうしな。」
『そういう訳だ。ということでヨーゼフ。』
「うむ。では俺も約束しよう。ディック殿のダンジョンとは敵対しない。」
「またディックかよ?」
俺は思わず素で突っ込んでしまった。
「ディックでは何か問題が?」
「いや、いくらリチャードの愛称がディックでも、俺はリチャード・ルドルフ・イクスティンクなので……」
「ならばリチャード殿、と呼ぶことにする。そして改めて。リチャード殿のダンジョンとは敵対しない。但し……」
「但し?」
「ダンジョン拡張の際に希少鉱物が採掘できたら、こちらに卸して欲しい。無論謝礼は払うし、武器も進呈しよう。」
「ああ、その位なら構いませんよ。では、これからよろしく。」
「うむ、よろしく頼む。」
俺はヨーゼフさんとがっちり握手をしたのだった。ん? ティリ? ティリはまだハチミツを食べながら顔をとろけさせていたけど、それが何か?
鍛冶屋ヨーゼフ、主軸に近い脇役の新キャラです。因みに、この人とリチャードの契約は正式な取引ではなく口約束なので、友好条約締結者には入りません。




