表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第3章:マスターと街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/200

26.貴族とリチャード

本日2話目です。

「おい、そこのお前。」


 ヤスパースで領主、レオナルドさんの館から出、ルキナスさんの友人探しに繰り出そうとした時、なんか妙に豪奢な服を着ている奴に俺は声をかけられた。


「ん? どちら様ですか?」

「名乗らずに名を聞くとは無礼な奴だな。人に名を聞くときは自分からだと習わなかったのか? これだから田舎者は……」


 その豪奢な服を着た男がそう言った瞬間、俺の肩に座っていたティリが呪文を唱えていた。


「ウォーターボム!」


 瞬間、直径30cm程の水の砲弾が出現し、その男の前で爆発した。男はびしょ濡れになる。因みにウォーターボムは爆発の威力がかなり高いので、直撃したらかなりヤバい。ティリは意図的に外したのだろう。そもそも、びしょ濡れにしたいのならばアクアトピアで事足りるのだし。


「ご主人様に向かってただの人間風情が偉そうに何を言っているのですか? 今のは威嚇ですが、次に無礼な発言をしたら容赦しませんよ?」


 ティリが全身からもの凄い冷気を発している。いつもの俺を『ご主人様!』と呼んで慕っている様子は見る影も無かった。


「グッ……平民風情が調子に乗りおって……まあいいだろう。我が名はセクストゥム・ド・ゲイル! キルケゴール王国のゲイル伯爵家の6男だ!」

「はあ。で、そんな偉い人が、俺に何の用です?」

「我が名乗ったのだから貴様も名乗れ!」

「ああ、こりゃ失礼。俺はリチャード・ルドルフ・イクスティンク。フェリアイルステップ辺りのどこかに住んでる一般人です。」


 うん、嘘は言ってない。俺はフェリアイルステップの地下、即ちフェリアイルステップ辺りに住んでるんだからな。


「ふむ、やはり一般人か。では、本題に入ろう。君に声をかけた理由はただ一つ。君が肩に乗せている、その妖精を頂く為だ。」

「は?」


 俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。


「頂くというのは言い方が悪いか。言い方を変えよう。その妖精を我に譲れ。」

「断ります。」


 俺は即答。当たり前だろう。ティリを譲る訳がない。


「譲る、でも言い方が悪いか。ならば更に言い方を変えよう。その妖精を我に売れ。」

「断ります。」


 俺はまた即答。当たり前だろう。ティリを売る訳がない。


「なぜだ! 君のような一般人如き、風の神の加護を受けている我が本気を出せば一撃で粉微塵にすることができるのだぞ! その我がこれだけ下手に出ているのになぜ我に妖精を渡さない! 現金を持っていないと思っているのか? 金ならあるぞ! 100万ゴルドでどうだ!」


 セクストゥムは懐から金貨を10枚取り出した。


「こんな大金、平民は滅多にお目にかかれるものではあるまい! さあ、これでその妖精を売って貰おうか!」

「100万ゴルド程度の端金でティリを売る訳ねえだろ。あんた、ふざけてんのか?」


 さすがにイラついたので俺は口調を普段のモードに戻した。金を積めばどうにでもなると思っている奴が俺は大っ嫌いだからな。


「は、端金? 100万ゴルドを端金だと? な、ならばいくらなら納得するのだ?」

「どれだけ積まれたって売らねえっての。どうしても欲しいならそうだな……1日5000那由多ゴルド。その金額を1か月の間毎日俺に寄越すってんなら今日5秒だけ貸してやる。」


 俺はとんでもない額を提示した。どんな貴族でも王族でも持っている訳がない程の額だ。那由多とは1億に0を52個付けた数で、正直ほとんど使われることのない天文学的数値。因みに5000那由多を数字で書くと、


5000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000


 となる。とてもじゃないがこんな量の0の群れは見たことが無いだろう。当然この程度・・・・の金額では表せない程の価値がティリにはあるが、元よりティリに触れさせる気はないのだ。この位強気に出てもいいだろう。


「な、那由多だと? 貴様、言わせておけばつけあがりおって……」

「いくらなら納得するかって言われたから希望額を言っただけだが。言っておくけど、びた1ゴルド負けるつもりはない。今日それだけの手持ちがないなら交渉は決裂だ。じゃあそういうことで。」


 俺はそう言いつつセクストゥムを鑑定。言い忘れていたが、意思表明による鑑定眼のレベルアップで、ダンジョン外でも俺は鑑定を行えるようになっていた。


セクストゥム・ド・ゲイル

種族:人間

職業:貴族

レベル:27

スキル:風属性魔法(上級)

    闇属性魔法(中級)

    全属性魔法(初級)

称号:風神の加護(風魔法の威力中上昇)

状態:憤怒


 ……やっぱり状態と感情は同義なんだ。憤怒はどう考えても感情だもんな。


「俺は忙しいんで、これで失礼させてもらう。悪いけど、あんたみたいなクズ野郎なんかに付き合ってる暇はないんでな。どうせ、手持ちなんて1000万ゴルドもないんだろ? ってことで、交渉決裂。それじゃ。」


 俺はセクストゥムに背を向ける。それと同時に、セクストゥムは叫んだ。


「貴族を舐めるな! ウィンドスラッシャー!」


 俺の後方から風の刃が迫る。ウィンドスラッシャーは風属性魔法の中でも上級で、魔法分類上はアクティブスラッシュ、即ち切断攻撃。さすがに城を破壊する程のパワーは無いが、人間の上半身と下半身を分断するくらいは訳が無い魔法だ。だが……


「ウィンドシールド!」


 とティリが呪文を唱える。ウィンドシールドは魔法分類上はパーフェクトブロック、即ち完全防御になる、風属性上級魔法だ。魔法の等級と属性は同じだが、術者の保有魔力量は段違い。セクストゥムが放ったウィンドスラッシャーは、ティリのウィンドシールドによって完全に防がれることになった。


「まあ、このタイミングで攻撃してくることは予想してたけど、ただの一般人に向けてウィンドスラッシャーはやりすぎだろ。そんなにこの子が欲しいのか?」

「別にそいつでは無くてもいいが、我には妖精が必要なのだ! 調教済みであれば従わせるのも簡単であるしな!」

「なんでそんなに妖精を欲しがるんだよ? 意味分かんないんだけど。」

「貴様、知らんのか? 妖精は今貴族のペットとして流行しているのだ。そして我は貴族!」

「つまり、お前は自分のペットが欲しいってことか?」

「違う! 我は伯爵家の息子とはいえ6男なのだ。6男など長男の予備の予備の予備の予備の予備。これでは我は爵位を継ぐことはできん! だから、妖精を父上に献上して兄たちを蹴落とそうと……」

「ああ、そんな奴にティリは渡せねえな。貢ぎ物で自分の地位を得ようとするなんざバカのすることだ。自分の力で兄貴たちに勝って力を示せばいいじゃねえか。それができないなら自分で妖精を捕まえろ。それもできないなら爵位は諦めるべきだ。」

「魔力をほとんど持たぬ一般人如きが貴族の我に説教するな!」


 この言葉を聞いた俺の怒りは頂点に達した。こういうバカにはちょっとお仕置きしてやらなければならないな。


「貴族だろうが何だろうが、地位が欲しけりゃ実力で勝負しろ! 口だけ達者でも意味ねえんだよ! トルネードサンダー!」


 俺は杖をセクストゥムに向け、嵐雷二重属性の魔法を撃った。雷を纏った竜巻がいくつも杖から飛び出し、セクストゥムを取り囲む。そして……


 ――バチバチバチッ!


「ウギャアアアアアアアア!」


 絶叫。魔法の効果が消えたとき、地面には見るも無残な姿でセクストゥムが転がっていた。


「な、なぜ一般人が二重属性魔法など……」


 呻き、意識を失うセクストゥム。それを見下ろしていると、ティリが肩から飛び上がり、抱き付いてきた。


「ありがとうございます! ご主人様!」

「当たり前のことをしただけだ。ティリは世界一可愛い俺の助手だからな。何があっても、絶対に誰にも渡さない。安心しろ。ところでこいつ、死んでないよな?」

「えっと……大丈夫みたいです。電撃のショックで気を失ってるだけみたいですね。」

「そっか。バカとはいえ、ここに放っとくのはなんか気の毒だし、レオナルドさんのところに持っていこう。フライ!」


 俺はセクストゥムを浮かせると、レオナルドさんの館へと連れて行った。



「こんなバカがいたんですか……リチャードさん、申し訳ない。ですが、これはヤスパースの責任では……」

「大丈夫ですって。コイツは自分から俺に攻撃してきたんです。条約にある通り、レオナルドさんが条文の規定を破らない限り何もしませんよ。それに、俺たちは別に怪我してないですから。それより、こいつはどんな感じの刑を受けるんですか?」

「確か使った魔法はウィンドスラッシャーでしたね?」

「はい。」

「そうすると、軽くて執行猶予なしで禁錮5年の実刑判決、重ければ犯罪奴隷堕ちですね。伯爵の息子だろうが何だろうが、人殺しになりかねないことをしたのですから。」

「分かりました。じゃあ、任せていいですか?」

「ええ。最後に言っておきますが、我々は攻撃してこない者には攻撃しません。リチャードさんがダンジョンマスターであっても、この街を侵攻せず、不利益をもたらさないのであれば、きちんとした取引の相手として扱いますし、ダンジョンの情報も漏らしませんのでご安心ください。」

「分かりました、ありがとうございます。」


 俺はセクストゥムを置いて、館を後にした。さあ、今度こそ本当に、ルキナスさんの友人探しだ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ