24.ヤスパースとリチャード
「ヤスパースに行こうとしていたはずなんだけど……ここどこだ?」
俺とティリは、道に迷っていた。
「右も左も前も後ろも木、木、木、木……分かりません。山の中だってことしか。」
どうやらティリにも分からないようだ。
「あー、クソッ! こうなったら一番物を知ってそうなルキナスさんに聞こう。」
俺はそう言うと、【ディスプレイ・パール】に魔力を流す。すると、ウィンドウのような物がパールから出現し、そこにルキナスさんが映った。
「ルキナスさん。」
『リチャード殿! 我が友は見つかりましたかな?』
「いや、今は別件です。取り敢えずアサンドルの目的は果たしました。領主と友好条約を結んで、ついでに仲良くなってきました。」
『それはよろしかったですな。しかし、その報告だけではないでしょう?』
「ええ。ヤスパースに向かおうと思ったら、道に迷いまして。」
『……リチャード殿、アサンドルからヤスパースなど、ほぼ一本道ですぞ。どこをどう間違えたら道に迷えるのです?』
「そんなこと分かりませんよ。気が付いたら迷ってたんですから。」
『あの周辺の地理は頭に入っておりますが、今どこにいらっしゃるか分からないのでは私は手出しできませぬ。申し訳ない。』
「いえ。じゃあ、何とか脱出します。次の連絡は、まだ道に迷ってるか、友人を見つけたかのどちらかだと思っていてください。」
俺はそう言うと、魔力の流れを断つ。ディスプレイは消えた。
「ご主人様、脱出するって言っても、一体どうやって? 脱出方法でも探るんですか?」
ティリが不安げな顔で聞いてくる。
「いや、脱出方法とかを探ったりはしないよ。俺も、勿論ティリも。」
「え? じゃあどうするんですか?」
「あいつが連れて行ってくれるからな。歩くの疲れたし、ちょっとは楽してもいいだろ?」
「あいつ……? ああ、あの子ですか。」
「そう。ダンジョンからついて来てるあいつだ。」
俺はそう言うと、
「シルヴァ!」
と叫んだ。すると、俺の目の前の木々が2、3本空へ打ち上げられ、そこからシルヴァが出てきた。
「シルヴァ、俺とティリは道に迷っちまったみたいだ。俺たちをヤスパースの近くまで運んでくれ。お前の持ってる体内磁石があれば、方角分かるだろ?」
「クウ!」
シルヴァは『勿論!』と言っているような目でそう鳴いた。
「じゃあ、俺たちの運搬、頼むぞ!」
「クウ!」
シルヴァの了解を取り、俺はティリを肩に乗せたままシルヴァによじ登る。メタルの名の通り毛が硬いのかと思ったが、案外柔らかく、フワフワしている。
「よし、シルヴァ! 頼んだぞ!」
「クウー!」
シルヴァは高速で穴を掘り、ヤスパースへと地中を進み始めた。
「クウー!」
シルヴァが地中から出た。辺りを見回すと、300m程先にヤスパースの門が見える。
「サンキュー、シルヴァ。またなんかあったら頼むぞ。」
「クウ。」
シルヴァはそう言うと、地中へと戻って行った。
「ヤスパースにもギルドは無いんだったよな?」
「はい、ありません。」
「じゃあ、ダンジョン宣伝はしなくていいな。今回の目的は友好条約の締結と、ルキナスさんの友人探しだ。」
「了解しました、ご主人様!」
「で、ここもハルバード兵士が3人いるけど、入れるの?」
「試してみればいいんじゃないですか? 多分入れませんけど。ヤスパースは通行料がかかりますから。」
「そういうことは先に言えよ。いくら?」
「銀貨1枚です。」
「高くないか? 銀貨1枚って1万ゴルドだろ? そんなにするのか?」
「工業都市ですから、ホイジンガ程ではなくとも色々ものが入手できるんですよ。それに、加工後すぐの物が多いのでオリジナルリメイクが可能。加えて、この街は物品の出入りに関税を1ゴルドもかけていないんです。ですから、街の価値を考えるとこのぐらいが妥当、となったんです。」
「……なんか釈然としないけど、まあいいや。それほど痛い出費でもないし。」
俺はそう呟くと、門に近付いた。案の定、ハルバード兵士が1人こっちに走ってくる。
「おい、そこのお前! 止まれ!」
「何ですか?」
「この街に入るには通行料が必要なのだ。お前と肩に乗っている妖精の2人分、合わせて2万ゴルド支払ってくれ。」
「そんなにかかるんですか?」
俺は知っていたが、さも驚いたようにそう言う。
「高いとは思うだろうが、これは規則なのだ。」
「じゃあ、これで。」
俺は金貨を1枚差し出した。ハルバード兵士はそれを受け取ると、門の横まで駆けて行き、銀貨8枚を持って戻ってきた。
「待たせてすまない。これが釣りだ。」
「あ、はい。」
「ようこそ工業都市ヤスパースへ。」
にこやかに言うハルバード兵士の声を背中に受けながら、俺たちは街に入った。
「さて、じゃあまずは領主の館に向かおう。」
「はい。あ、じゃあ先に契約書を作っておきましょう!」
「ああ、そりゃいいな。【クリエイト】!」
そう呪文を唱えると、俺の右手が光り、契約書とダンジョン情報の書かれた羊皮紙の束が現れた。
「よし、これでいいだろ。じゃあ、領主の館へGOだ。」
「はい!」
俺は丁度歩いていた人に領主の館への道を聞き、そこへ向かった。




