side ティリ 同居人レポート
ダンジョンが開通してから何だかんだありましたが、1か月が過ぎました。もう1か月過ぎたのか、まだ1か月しか過ぎていないのか分かりませんが、この間に、私とご主人様だけだったダンジョンには、同居人が2人増えることになりました。
1人目は地属性と光属性の魔法に適性を持つ魔術師のルキナス・クロムウェル・モンテリューさんです。ルキナスさんは、獣人の大陸であるウィキュシャリア大陸や魔族の大陸であるルロリーマ大陸で魔術の修行をしていた経験があり、知識がとても豊富です。また、とても理性的で命を奪うことを嫌います。
最初、ルキナスさんは私たちのダンジョンがあるフェリアイルステップにモンスター討伐に来た3人の冒険者パーティの1人でした。剣闘士、重戦士、魔術師という編成で、ファイヴヘッド・アナコンダやレーザーホースをやすやすと討伐するような強いパーティでした。ご主人様はその様子をレッドイーグルの視界越しに見て、急遽組んでいた冒険者排除用モンスター編成を崩し、イートシャドウを召喚なさいました。この時、ご主人様は冒険者たちを殺す気は無かったようですが、ダンジョンに入って来た剣闘士と重戦士が『こんなダンジョン』だの『サクッと攻略』だの言っているのを聞いた瞬間、殺害を決定しました。あの時のお顔は閻魔顔などというレベルではありませんでしたね。閻魔も真っ青になるほどの闇のオーラが出ていましたので。
まあ、それは兎も角、ご主人様がパーティをこの世から排除する、と決めた時に声を上げたのがルキナスさんでした。ルキナスさんは、『命は何であっても大切にすべき』や『武器は自己防衛の為に使う物』と言い張り、最終的にパーティから排斥されてしまいました。その様子を見ていたご主人様は、『この魔術師を殺す必要はない』とお考えになられました。
結果から言うと、ご主人様は剣闘士と重戦士を生き埋めにし、ルキナスさんのことはジャイアントワームの粘液拘束を使用して捕まえました。そして、ご主人様がダンジョン運営の協力を持ちかけると、ルキナスさんはすんなりと了承。防衛法やトラップなどの案を出したり、ご主人様に魔法を教えたりと色々ダンジョンの為になることをしてくださいました。今ではダンジョンに欠かすことの出来ない存在であり、私とご主人様にとって大切な友人であり、仲間です。
一つ問題になるのは、紅茶が大好きというところです。ダージリンやアッサムなど普通のものは兎も角、ディンブラやヌワラエリアなど高級な紅茶の茶葉を召喚するのにはDPが比較的多くかかるのですが……まあ、その位は仕方ないでしょう。
さて、次は2人目です。2人目の同居人は軽剣士の小型イヌ種獣人、ルーア・シェル・アリネさんです。ルーアさんは獣人のため非常に身体能力が高く、他人のことを第一に考えることができる素晴らしい人です。ルキナスさんによると、他人の欲に無頓着すぎて騙されやすいそうですが。
なぜルキナスさんがルーアさんのことを知っているかというと、ルーアさんはルキナスさんの許婚だからです。ついこの間、お2人は結婚なさいました。とっても幸せそうな新婚生活を……おっと、話がずれてしまいましたね。
話をもとに戻します。ルーアさんは最初、ソロでフェリアイルステップのレーザーホース討伐に来た冒険者でした。しかし、狩っている途中でなぜがA+ランクモンスターのレッドワイヴァーンが現れたのです。ルーアさんは、レッドワイヴァーンのスキルによって吐き出されるフレイムブレスをもろに食らって全身に大火傷を負ってしまいます。そして、危篤に陥った時、ご主人様がキングモールを使ってまだ素性の知れぬルーアさんを救助なさいました。そして、上級回復薬で傷を治して差し上げました。
傷が治り、意識を取り戻したルーアさんになぜ狩りに来ていたか聞くと、ルーアさんがソロで狩りに来ていた理由はお父さんに上級回復薬を届ける為だったようです。その理由を聞いたご主人様は持ち前のお人好し……ゲフンゲフン、お優しさでルーアさんに上級回復薬を差し上げ、更にそれを届けることもお許しになりました。その上、ルキナスさんとの結婚式まで執り行って差し上げました。
ルーアさんはまだダンジョンに来て日が経っていないのでこれからの活躍に期待と言ったところですね。因みに、お気に入りの食べ物はケーキです。
「ふう、レポート完成です。」
同居人レポートが完成したので、私はそう呟きました。
「レポート? 何やってるのかと思ったらそんなの書いてたのか。」
あ、ご主人様が椅子に座ったままキャスターを滑らせてこちらに来ました。
「はい。このダンジョンの同居人のルキナスさんとルーアさんについて書いていました。」
「なんでそんなもんを? 妖精の友達にでも見せるのか?」
「違います。あのお2人を褒めまくる為です。」
ふふふ、こういうことを言っておけばご主人様はきっとこれを覗き見ます。そして、この中で私に褒められているお2人に嫉妬して、私の所有権を主張する為に私を可愛がってくれるでしょう。
「ふーん、成程。これで2人を褒めておいて、俺が覗き見て、あの2人に嫉妬して、ティリを可愛がるように仕向けたいと、そういうことだろ?」
ガーン。あっさり見破られてしまいました。
「な、な、な、なんで分かったんですか!」
「ティリがやりそうなことぐらい分かるって。それに、俺至上主義のティリが俺を差し置いて同居人褒めまくるなんてあり得ないからな。どうせ、ルキナスさんたちが来てから自分だけを可愛がってくれないのが嫌だとか、そういうこと思ってたんだろ? 以前の俺は、ティリのことだけを可愛がってたのに、同居人が入ってから自分の事をあんまり可愛がってくれないって。」
ガーン、ガーン。何と心の内まで見破られてしまいました。
「じゃ、じゃあ、なんで分かってるのに可愛がってくれないんですか!」
「最近忙しかっただろ。ルキナスさんが来てから階層の増設とか魔法の訓練とかサブマスター権限の解放とか。ルーアちゃんが来たら来たで今度は上級回復薬のお届けに結婚式。だから俺もティリにばっかりかかりっきりって訳にはいかなくってな。」
そう言って、ご主人様は少し寂しそうに微笑むと続けました。
「俺だって、本音を言えばティリのことだけを可愛がっていたいんだけど、どうも時間が取れなくてな。でも、モンスターたちを進化させて基本配置が決まれば、後はキングモールに指示を与えることと階層、トラップ設置だけになるからな。時間ができるよ。今はこの位しかしてやれないけど、我慢してくれ。」
ご主人様は私の頭をナデナデして、手櫛で髪を梳かしてくれました。
「ふわああああ……」
幸せな気分になった私は、思わずちょっと変な声をあげてしまいました。そんな私を見て、ご主人様はくすっとお笑いになりました。
「この1か月、色々あったな。ダンジョン開通からパーティの侵入、防衛戦に魔法、サブマスター権限にレッドワイヴァーンの襲来。ティリもさぞ疲れただろう?」
「いえ。私はご主人様のお役にたてるならば、疲れなどありません。」
そう言ってから私は気が付きました。ご主人様のお役に立つことが最大の幸せだったはずなのに、いつの間にかそれを忘れていましたね。いけません。
「無理だけはするなよ。ティリに倒れられたら困るのは俺だからな。俺が手助けを欲しい時は知恵を貸してくれるのはティリだけだ。これからも俺を支えてくれよ。助手として、サブマスターとして、そして……俺のパートナーとして。」
ご主人様のこのお言葉に、私はしっかりと頷き、答えました。
「はい! ご主人様! これからもずっと、精一杯お支え致します!」




