1.ダンジョン作成
「さて、気合いを入れたはいいけど、どうやってやればいいんだ?」
「まずはダンジョンのモンスタータイプを決めましょう。」
俺の問いに、ティリはそう答えた。
「モンスタータイプ?」
「はい。読んで字の如く、モンスターの属性です。蟲系、獣系、鳥系、亜人系、半人半獣系、植物系、瘴気系、死霊系、呪系など色々あります。階層ごとに分けるもよし、ダンジョン全部を同じタイプのモンスターで占めるもよしです。」
「ああ、ダンジョンの中にいる、侵入者排除用のモンスターを決めるってことか。でも、どうやって取り寄せたりするんだ?」
「ダンジョンコアのメニューにあった、【shop】から取り寄せが可能です。仮召喚は無料でできますが、本召喚はDPを消費します。気になるモンスターがいたら仮召喚して、気に入ったら本召喚、というのが良いと思いますよ。」
「分かった。じゃあ、そうしてみるよ。メニューオープン。」
俺はダンジョンコアに手を触れてそう言うと、ウィンドウで【shop】を選択し、たくさん並んだ項目の中から【モンスター】を選ぶ。すると、モンスターの名前がズラッと表示された。
スライム 粘液系 5DP
ゴブリン 亜人系 10DP
コボルト 亜人系 20DP
オーク 亜人系 50DP
リザードマン 獣系 100DP
ビッグアント 蟲系 30DP
ビッグフライ 蟲系 40DP
ビッグワーム 蟲系 50DP >>もっと見る
「取り敢えず画像も乗ってるんだな。」
俺は一つずつモンスターの画像を見て、気になったものを仮召喚し、却下していく。それを繰り返していく中、一つのモンスターの名前が目に留まった。
ウルフ 獣系 10DP
ウルフ。オオカミだ。オオカミと言えば、生き物に襲いかかって生肉を食らう、獰猛な獣。怖いが、ダンジョンにはピッタリかもしれない。画像もいい感じだったので、仮召喚してみる。
「アオーン!」
仮召喚を選択すると、俺の目の前に茶色い毛のオオカミが現れ、一声吼えた。なかなか強そうな姿だ。
「お手。」
「アウ!」
「おかわり。」
「アウ!」
「お座り。」
「アウ!」
なぜか分からないが色々な言葉が頭に浮かんだので言ってみると、ウルフはその言葉が表すとおりに行動した。従順な獣だ。
「ティリ、決めたぞ。ウルフだ!」
「ウルフですか……獣系の中では比較的弱く、野生の獣とそう変わらないステータスのモンスターですね。ただ、消費DPは低く、大量に準備できるのが利点で、見た目は凶暴そうに見えますので脅す効果は充分。その上、上位種に進化すると強さが倍以上になりますし、なかなかいいチョイスですよ。」
「そうか。それじゃ、早速ウルフを召喚して……」
俺がウルフの本召喚を選ぼうとすると、ティリが慌てて止める。
「わー! マスター、ちょっと待ってください!」
「え? 何?」
「まだ肝心のダンジョンそのものができていないじゃないですか! 今この地下ダンジョンにあるのは、この【コントロールルーム】だけです。調子に乗ってウルフを召喚しすぎたら、あっという間にこの部屋がウルフで埋まってしまいます!」
「ああ、そっか。じゃあ、ダンジョンを作るか。で、どうやって作る?」
やり方など分からないので、ティリに聞く。
「えっと、これもメニューからですね。ダンジョン拡張を選択して、第一階層の範囲を決めます。そうですね……とりあえず、深さ1で4km程度を選択してみてください。」
「分かった。」
言われた通りに選択してみると、DPが400減少して600DPになった。ウィンドウには外の様子なのか、草原が映っている。そして、そのすぐ下の部分に箱型の領域が4つできた。
「この箱型の領域の中を、自由に弄ってダンジョンを作れます。新たな階層を付け足す時はまたDPが必要になります。ですが、新階層を作らずとも箱型領域の下に新しい箱型領域をくっつけ、深さを増やすことが可能です。」
「ふーん。でも、道が無いよな? これじゃモンスターの配置どころか冒険者だって入ってこれないけど。」
「普通はこういう場合、DPを消費して穴を掘るんですけど、ベースモンスターがウルフとなると高位進化種召喚が難しくなっちゃいますね……ウルフは魔狼族の基本種族であり、多大なる進化の可能性を秘めています。ウルフ自体は10DPで召喚ができますが、高位進化種はそうはいきませんからね……」
「じゃあ、どうするか……」
俺は少し考え込んだ。
「俺が自力で穴を掘るにもスコップもつるはしも無いし……あ、そうだ! モンスターに穴を掘らせればいいんじゃないか? さっき、ウィンドウにもビッグアントとかビッグワームとかいたし!」
俺がこう言うと、ティリは怪訝そうな顔をした。
「お言葉ですがマスター、ビッグアントは蟻のモンスター、ビッグワームは蚯蚓のモンスターです。そんなモンスターが掘った穴に、ウルフや冒険者が入れますかね?」
「何も蟲系モンスター使わなくたっていいんじゃないか? さっき良いモンスターがいたんだよ。ええと……あ、いたいた。ジャイアントモールだよ!」
俺がウィンドウに映したのは、巨大な土竜のモンスター、ジャイアントモールだ。説明によると、こいつは人が10段の肩車をしてもまだまだ余りがあるような大きな穴を掘ることができるらしい。
「あ、成程! ジャイアントモールでしたら大きい穴を掘ることができますし、DPもそれほどかからない。マスター、良く思いつきましたね!」
「まあ、この位はな。」
ティリに褒められると、素直に嬉しいと思えるな。
「じゃあ、先にジャイアントモールを5体召喚して、穴を掘って貰おう。」
ジャイアントモールは1体20DPで召喚可能なので、5体で100DPだ。DPを消費して召喚し、ダンジョンコアを通して穴を掘れと指示を与えると、モグラたちはせっせと穴を掘り始めた。
「ジャイアントモールたちに穴掘りは任せて、ちょっと休憩しよう。」
俺はそう言って、ふと妙なことに気付いた。この【コントロールルーム】で目覚めてから一切何も口にしていないにも関わらず、空腹感が全くないのだ。
「マスター、どうかされましたか?」
「いや、今日起きてから何も食べてないんだけど、空腹感が無いんだよね。何でか分かる?」
俺がこう言うと、ティリは目を見開いた。
「マスターはダンジョンマスターですよ!」
「いや、そんなことは分かってるよ。俺が聞いてるのはなんて空腹感が無いのかってことなんだけど。」
「あれ? もしかして私、説明してませんか?」
「何の説明かは分からないけど、俺は食料とかに関してはここで購入できるってこと以外、一切説明されてない。」
俺がこう言うと、ティリは空中で土下座のような姿勢になった。
「も、申し訳ありません! 説明し忘れていました!」
「そんなに深く謝らなくてもいい。それより、説明頼むよ。」
「かしこまりました。ダンジョンに棲む生物は、マスターのような人間でも、私のような妖精でも、またウルフのようなモンスターでも、食料を口にする必要はありません。簡単に言えば、餓死の心配はないってことですね。」
「え、マジで?」
「はい。ダンジョンマスターは、ダンジョンコアを奪われる以外で死ぬことはまずありません。マスターや私は、食べることはできますが、嗜好品として楽しむ程度です。食べ過ぎたり飲み過ぎたりしても、病気になったりすることはありません。まあ、何かを食べたいという欲がないならば、購入する必要はないでしょう。DPが減少してしまいますし。」
「モンスターは?」
「モンスターはダンジョン内に存在する瘴気や魔力を吸収してエネルギーに変えることができます。それと、モンスターはマナを吸収して保有魔力を増やすことができ、保有魔力が上限到達すると、上位モンスターへの進化が望めます。また、その進化種モンスターはそれ以後ダンジョンコアからの召喚が可能になります。」
「へー。なかなかいいシステムになってるんだな。」
俺がそう呟くと、ダンジョンコアが光った。どうやらジャイアントモールが掘った穴がダンジョンエリアを突破しかけ、それ以上先へは掘れないらしい。
「うーん、モールたちはまだ頑張れそうだし、ここはDP全消費でエリアを拡張しよう。」
俺は500DPを消費し、箱型領域を5つ設置した。するとモールたちは、またせっせと穴を縦横に掘り始めた。
「これでしばらくは大丈夫かな。掘れないところまで掘ったら休憩しろ、と。」
俺はダンジョンコアを通してモールたちにそう指示を出し、階層の拡張計画を練る。今後の方針を考えているうちに、モールたちは穴を掘り終わり、俺たちもできる事は無くなったので今日はもう休むことにした。せめてベッドがあれば腰が痛くならないのにな……と考えながら。
ダンジョン名:‐‐‐‐‐‐
深さ:1
階層数:1
DP:0P
所持金:0ゴルド
モンスター数:5(ジャイアントモール)
侵入者数:0
撃退侵入者数:0
ダンジョン開通まで残り365日
住人
ダンジョンマスター(人間)
ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)