side ルキナス 武器選択の指南
「あの、ルキナスさん。入ってもいいですか?」
ある朝、私が部屋でモーニングティーを嗜んでいると、キャトル殿の声が聞こえました。
「構いませぬ。」
「失礼します。」
キャトル殿は部屋に入ってくると、金貨を5枚テーブルの上に置きました。
「その金貨がどうかしたのですかな?」
「リチャード様が受注したクエストのお手伝いをしに行くので、これで武器を買うようにって支給して頂いたんですけど、私は武器を選んだことが無いので、どんな武器を買えばいいのか分からないんです。今持っている武器も護身用にお父様がくださったものなので……」
「ふむ。それはつまり、私に選択を手伝って欲しいと言っている、と解釈してよろしいですかな?」
「はい、その通りです。お願いできますか?」
「お困りでしたら協力いたしましょう。」
私は協力を承知すると、紅茶を飲み干し、キャトル殿とコントロールルームへと向かいました。
「キャトル殿は剣術等の訓練をしたことはございますかな?」
「はい。魔術も防衛の為に訓練しました。」
「武器使用のスキルはどのようなものを?」
「剣術Lv5です。」
「ふむ……となると使用できる武技はスラッシャー、ブリングダウン、ソードブーメラン、マッキンリースライス、衝撃刃ですな。Lvがもう少し高ければ威力が強い武技が使えますから少しくらい重くてもいいのですが、Lv5となると……」
私は唸りました。剣術Lv5ではそれ程強力な武技が使用できないからです。Lv6を超えれば威力の高いサクリファイス・スラッシュが、7を超えれば炎と爆発で追加ダメージを与えられるメテオブーストスラッシュが使えるのですが。
「キャトル殿、ご自身のLvはいくつですかな?」
「私自身のLvですか? えっと、今は81です。」
「81……となるとLv80の制限武器を使うのが効率的ですな。」
私は【見習い賢者】の効果で記憶している武器の中から、Lv80制限の武器を探します。すると、1つの剣が脳内に浮かびました。
「うむ、これがよろしいでしょう。」
私はサブマスター権限を使用してゴルドshopを開き、【武器】の中から一つの剣を選びます。すぐにウィンドウにはその武器のグラフィックと解説が表示されました。
【ハイスラッシュソード】 アイテムレアランク:SR
斬撃力を上昇させることができる長剣。使用制限はLv80以上。かなり優秀な武器でウェイトバランスがよく、引っ掛けるだけでもかなりの傷を与えられる。スラッシュプラスストーンを柄に付けるとLv制限が90に上がるが、その分強力になり、ドラゴン種の鱗にすら通用する程の斬撃力となる。価格は25万ゴルド。
「これならばキャトル殿に扱えますし、使いやすい武器です。価格的にも手が届きますから、良いと思いますが。」
「じゃあそうします。あ、ところで、もっと斬撃力を上げられるものってありますか?」
「スラッシュプラスストーンシリーズ……スラッシュプラスジルコンやスラッシュプラスパイライトならば強められますが、そうするとLv制限が上がってキャトル殿は使用できなくなりますし……魔術付与するくらいしかないですな。良ければ私がしておきますが。」
「いいんですか? じゃあお願いします!」
「お任せあれ。しかし、これだけでは心細いのならば、もう1つ何かあった方が良いでしょうな。」
私は今度はワンドを選択しました。またグラフィックと解説が出ます。
【オニキスワンド】 アイテムレアランク:R
漆黒の宝石、オニキスによって作成された魔杖。闇属性魔力の威力を大幅に上昇させることができる。闇属性に適性がある種族、特に吸血鬼などとの相性が非常に良く、魔術を暴発させないという効果もある為、かなり使い勝手が良い。価格は20万ゴルド。
「吸血鬼との相性が良い魔杖です。闇属性威力上昇効果もありますし、魔術暴発もしないのでキャトル殿にはピッタリかと思いますが、いかがですかな?」
「杖があると魔術の効果も上がるんですよね? じゃあこれも購入します。」
キャトル殿はオニキスワンドの購入も決めたので、私はキャトル殿から金貨を受け取ると、ハイスラッシュソードとオニキスワンドを購入し、釣り銭と共に渡しました。
「ありがとうございます。じゃあ、魔術付与をお願いします。」
キャトル殿は一旦受け取ったハイスラッシュソードを私に差し出しました。
「了解致しました。何かお望みの属性はございますかな?」
「えっと、じゃあ光と水をお願いできますか?」
「闇はいらないのですか?」
「オニキスワンドで闇は事足りそうですし、ルキナスさんは闇属性苦手でしたよね? それに、今回お手伝いするクエストの討伐対象は闇と炎なので。」
「ふむ、ならば光、聖、水、氷の4属性を付与しておきましょう。」
「ありがとうございます。」
キャトル殿は頭を下げられました。私はその間に魔術付与を終え、ハイスラッシュソードをキャトル殿に返します。
「えっ? い、今の一瞬で終わったんですか?」
「ええ。単なる魔術付与ですからな。属性付与ではないですから、【グラント】を使う必要もありませぬ。」
「す、凄い! ルキナスさん、ありがとうございます!」
まるで大輪の花が咲いたような笑みを浮かべるキャトル殿。その表情を見て私は、人の為にことを為すのは嬉しいのだと改めて思うのでした。
ルキナスさんの【見習い賢者】が初めて使われました。設定したのは8年以上前、長かった……




