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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第7章:マスターと海

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129.人族マスターとレアモンスター

「お待たせしました。声はかけたので、もう少ししたら来ると思います。」


 5分程待っていると、リリーがコントロールルームに戻ってきた。その身体には何かに噛まれたような跡がいくつもあり、あちこちから血を流しているが、本人もスイリュウも気にしている様子はない。


「今日はご機嫌斜めだったのか?」

「いえ、逆です。久しぶりに会いに行ったので、嬉しさに感極まってつい噛みついてしまった、と言っていました。あの子なりのスキンシップですし、このくらいならすぐ治るからいいんですけど……」

「相変わらずすぐ噛むな、奴は……確かに最近は加減を覚えたから以前のように腕を噛みちぎるようなことはなくなったが、それでも痛いものは痛いからな……」


 スイリュウは苦笑いしている。龍族の腕すら噛みちぎれるとなると、ここのボスの強さ、特に顎の力は相当と考えられるな。


「ここのボスはなんてモンスターなんだ?」

「それは見てのお楽しみ……と言いたいところだが、一部情報だけは教えておこう。かなり大きな水蛇のモンスターで、人間に変身することが可能だ。知能も高い。」

「大きな水蛇……人語を解したりはするのか?」

「無論、人語を解する。5つは発することはできないが、残り5つが発することができるから、会話はその5つのどれかが担っているぞ。また、それぞれ特化している分野がある。攻撃特化、防御特化、特殊攻撃特化、素早さ特化、愛嬌特化などだ。」


 スイリュウの回答に俺は首を傾げた。5つとかそれぞれとか、イマイチ意味が分からない。


 ――コンコン


 突然ノックの音がした。スイリュウが応答する。


「誰だ?」

『失礼、リリー様のお呼び出しにより参上した次第である。』

「ああ、ボスか。入室を許可する。」

『失礼仕るのである。』


 ドアが開き、銀縁の眼鏡をかけた女児が入ってきた。童顔で背は俺より50cmほど低く、青く薄いワンピースを纏っている。


『ご主人様、出張お疲れ様である。このフィラ、ご主人様のご帰還を心待ちにしていたである。』

「そうか、寂しい思いをさせたな。」

『全くである。リリー様も遊びに来てくださらなかったのである。フィラは寂しかったのである。』

「まあ、そう言うな。我がいない間はリリーがダンジョン管理を務めていたのだからな。慣れぬ仕事で疲れもたまっていただろうし、その状態でお前の相手は無理だ。」

『それは理解しているのである。しかしご主人様もリリー様もいらっしゃらないのはフィラにとって地獄の苦しみである。』


 むーっと頬を膨らませるフィラというらしい女児。口調と見た目が全く適合していないのでアンバランスこの上ない。しかも、話しぶりからするとこの女児がダンジョンボスのようだが……


『む、人間族と妖精族がいるのである。』

「ああ、この2人はこの度友好条約を締結することになったダンジョンのダンジョンマスターとそのパートナーである妖精殿だ。」

『む、そうであるか。これは失礼致したのである。フィラはこの【アトランティス】のダンジョンボスを務めるフィラと申すのである。以後よろしくお頼み申し上げるのである。』


 深々と頭を下げるフィラ。


「俺はゴーンドワナ大陸フェリアイルステップの【友好獣のダンジョン】ダンジョンマスターのリチャード・ルドルフ・イクスティンクだ。今後よろしく頼む。」

「私は【友好獣のダンジョン】サブマスター兼リチャード様の秘書であり従者であり彼女でもあるダンジョン付きの妖精、ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルトと申します。」


 俺たちも一応挨拶をすると軽く頭を下げる。


『ふむ、とてつもなく強大な力を感じるのである。ご主人様がこのダンジョンマスター殿と友好条約を締結されるのは英断と言わざるを得ないのである。』

「リチャード殿と交渉してくれたのはリリーだ。それと、その話し方を止めろ。」

『何故であるか?』

「堅苦しい場ではないのだ。それに、お前も気を張っているのは疲れるだろう。」

『承知したのである。ではフィラは素を出させてもらうのである。』


 フィラは眼鏡を取った。その途端、キリッとしていた表情が弛緩する。そして、スイリュウに近付くとその腕に突然噛みついた。


「何の前触れもなく噛むな。客人が驚かれるだろう。」

『フィラのことをずっとほったらかしてお仕事にかまけているご主人様が悪いなの! お客人の前とか、そんなことはどうでもいいなの!』

「お前はボスなのだから、もっと分別を持て。すぐ噛みつくんじゃない。」

『噛みつくのはフィラなりのスキンシップなの! 噛みちぎらないように人化してきたんだから寧ろ褒められて然るべきなの!』

「噛むのを止めろ、と言っているんだ。それと、攻撃特化の頭で噛んでくるんじゃない。噛みちぎられはしないが、痛いものは痛いんだからな。」

『フィラのせいにするんじゃないなの! フィラは悪くないなの!』


 駄々っ子のようにスイリュウの腕に噛みつき続けるフィラ。こんな噛みつく駄々っ子がボスでこのダンジョンは大丈夫なのだろうか?


「リチャード様、フィラは言動はあんなんですが相当強いんですよ。流石にエンペラーモールに通用する程の攻撃は繰り出せませんが、オルカの3~4匹くらいは余裕で相手取れます。」

「とてもそうは思えないんだが……そもそも、あの体躯でオルカの相手なんてできないだろ。一撃で吹っ飛ばされてジ・エンドじゃないか。」

「あれは人間態ですから。フィラのモンスター形態を見れば納得なさるはずです。ほら、フィラ、スイリュウ様を噛むのを止めなさい。」

『うー! うー!』


 呻っているフィラを取り押さえ、無理やりスイリュウから引き剥がすリリー。スイリュウの腕には噛み跡がくっきりと残っている。


「いくら寂しかったからって、いちいち噛みつくんじゃありません。それも攻撃力特化の頭に切り替えて噛むなんて……」

『フィラはレア進化種だからそのくらい大目に見てもらうべきなの!』

「レア進化種なら尚のこと自制しなさい。私やスイリュウ様は慣れているからまだいいですが、リチャード様やティリ様に噛みついてみなさい。敵対認定されて一撃で消し炭ですよ。」


 その言葉にビクッと震えて俺たちを見るフィラ。すると、ティリがスーッと前に出て怒鳴った。


「何を言ってるんですか、リリーさん! 私のことは良いですが、ご主人様を悪く言うのは許しませんよ! 噛みついたら消し炭だなんて、そんなこと……」

「す、すみません、つい……そうですよね、いくらリチャード様でもそんな酷いことする訳が……」

「ご主人様が敵対認定した相手が消し炭程度で済むわけないでしょう! 最低でもペースト、若しくは粉微塵です! ご主人様のお力を低く見るなんて……」

「ティリ、やめろ。論点がズレているし、俺は気にしていないから。」

「しかし……」

「いいからやめろ。」


 俺が少し語勢を強めて言うと、ティリは渋々といった感じながらも戻ってきて俺の肩に腰掛けた。


「そんなことよりリリー、この幼女は本当にそんなに強いのか?」

「まあ、人間態はこんなんでも、アトランティスのボスですからね。……フィラ、じたばたするのを止めなさい。」

『うー……』

「リチャード様があなたの強さを見たがっているんです。モンスター形態に戻りなさい。」

『面倒臭いなの。』

「これは命令です。それと、今すぐこの指示に従えば、後で遊んであげますから。」


 このリリーの言葉に、フィラは目を輝かせた。そして、銀縁眼鏡を取り出し装着すると、


『承知したのである。では、モンスター形態へ移行するのである。リリー様もお客人方も、危険なので離れるのをお勧めするのである。』


 と、堅苦しい言葉遣いに戻って警告してきた。


『ご主人様、ではフィラはモンスター形態に戻るのである。』

「よし、許可する。」


 スイリュウが許可した瞬間、フィラのプレッシャーが跳ね上がった。その身体から溢れ出た半透明な青い魔力が瞬く間に彼女の全身を包み込む。


『沼を越えし者……ノナを超越せし者……その数は完全なり!』


 フィラが言葉を紡ぐたびに魔力が濃くなり、彼女の姿を覆い隠していく。そして、一瞬の後、魔力が一気に膨れ上がった。その青い魔力は、ゆっくりと大きな何かを形作っていく。俺よりもスイリュウよりもずっと大きな何かへと。


『シャアアアアアアアアアー!』


 フィラの声で魔力の塊が威嚇の声をあげる。そして、それとともに青い魔力が弾け飛んだ。その中にいたのは……


「もはや化け物だな、これは。」


 多頭の蛇。美しいウロコに覆われた巨体でこちらを睥睨するように見る、化け物のような大蛇だった。多頭の大蛇といえば、フェリアイルステップにもファイヴヘッド・アナコンダがいるが、プレッシャーの大きさも身体のデカさもあんなものの比ではない。


「こちらが、当ダンジョン【アトランティス】のダンジョンボス、テンネックヒュドラです!」

『フシャアアアアアアアアアー!』


 リリーの紹介と共に化け物……テンネックヒュドラは再び威嚇の声をあげると、首を一つ俺たちの前へと下げた。その顔には、リリーの銀縁眼鏡がかかっている。


『お客人、驚かれたであるか? この姿こそ、フィラの真の姿、ヒュドラよりも多い10の頭を持つ水蛇、テンネックヒュドラなのである。』

「ヘビは声帯がないはずだが……」

『フィラはただのヘビではないのである。レア進化種モンスターなのである。そもそも、レア進化せずともヒュドラは会話が可能なのである。』


 テンネックヒュドラは苛立ったような声をあげる。他の九つの頭もカチカチと歯を鳴らしたり、謎の液体を牙の間から零したりと、不満そうだ。


「テンネックヒュドラはヒュドラに分岐する進化モンスターのレア進化種で、その牙には必殺の猛毒が含まれています。その強さはポイズンサーペントの毒液の100倍以上強力であり、普通の人間ならかすっただけでも即死するレベルです。」

「何でそんな奴に噛みつかれてお前もスイリュウも平然としてるんだ?」

「毒を注入するかしないかはフィラが自由に決められるんです。フィラは当然【毒物蓄積】を持っているので毒は効きませんし、【毒物奪取】で一度摂取したことのある毒は自分で合成できるようになります。」

『テトロドトキシン、パリトキシン、コノトキシンなどは既に摂取済みである。バトラコトキシンやホモバトラコトキシンなどもいつかは得て、よりダンジョンの防衛力を増す所存である。』


 フィラは自信がありそうに言うと、また『フシャアアアアアアアアアー!』と威嚇の声をあげた。


「この迫力、なかなかだな。それに強力な毒も持つのか。」

「未だフィラに相対した冒険者はいませんが、リヴァイアサン級の大型モンスターとも戦えるだけのスペックはあります。」

「確かに、ご主人様でもこれを倒すとなった場合、苦戦しそうですね。ほとんど死角のない広い視野に、どこからどんな攻撃が来るか分からない不透明さ、更に知性と凶暴性を兼ね備え、何より巨体で攻撃も通りにくいでしょうし……」

「まあ、フィラと戦う可能性はないだろうが、野生種とやり合う機会は今後あるかもしれないな。その場合はリヴァイアサンよりも厄介そうだ。」


 俺はフィラの巨体を見上げる。一つの頭と目が合うと、その頭は口の端を上げ、『フシャアアアアアアアアアー!』と咆哮するのだった。

 大変長らくお待たせいたしました。申し訳ございません。

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