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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第7章:マスターと海

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127.ブロッケンの悪戯と帰還する主

「この深さには幻影を見せるモンスターがいます。」


 第9階層。リリーが少し気分が悪そうな顔で言った。


「……また転移酔いでもしたか?」

「い、いえ……そういう訳じゃないです。私はここにいるモンスターが全体的に苦手で……」

「また嘘じゃないだろうな?」

「嘘を吐いたらリチャード様がお帰りになってしまうんですよね? 嘘は吐いていません。私はまだ死にたくないので。」


 リリーが心底嫌そうな顔でそう告げた時、彼女の後ろに白い霧が発生し始めた。


「おい、リリー。お前の後ろに霧が発生しているんだが、モンスターの威嚇か?」

「え? 霧ですか?」


 リリーは俺の言葉に不思議そうな顔をした。しかし、すぐにしゃがみ込むと、地面に撒かれている石の間を覗き始め、


「それはこの子の仕業ですね。威嚇とか攻撃とかではなく、幻影を見せるための予備動作です。私たちに対して何かしようとした訳ではなく、自主訓練ですよ。」


 と、俺たちの前に貝を差し出した。ハマグリっぽい。


「この子は【シン】っていうモンスターです。漢字で書くと【蜃】で、霧に任意の映像を投影することで幻影を見せ、敵や侵入者を攪乱します。」


 リリーが説明している間も、シンは霧を出し続けている。霧は濃さを増し、相当精度の高い幻影が映りそうだ。


「この霧には何でも投影できるのか?」

「基本、シンが知っている物なら何でも投影できますね。それこそ、ドラゴンとかでも。」


 リリーの説明に頷いていると、霧をかき分けるようにして青い長髪の男が歩いてきた。


「リリー、ご苦労だったな。今帰ったぞ。」


 その声を聞き姿を認めたリリーは、途端にガタガタと震えだし青ざめる。


「す、スイリュウ様……お、お帰りなさいませ……どうなさったのですか……帰還予定日は2日後のはずでは……?」

「お前がちゃんとダンジョンを守っているか心配でな。通常よりもスピードを出して帰ってきたのだ。」

「そ、そうですか……お疲れ様です……」

「いや、特に疲れてはいない。それよりも確認したいことがある。お前にアトランティスを任せた2か月間の総侵入者数と侵入者撃退階層を今すぐ教えてくれ。」

「侵入者数と撃退階層ですね……少々お待ちください……」


 リリーはブルブル震えている。まさか、そんなことすら記録していなかったのだろうか?


「そ、総侵入者数は19、撃退階層は全て第5階層です……」

「間違いないな? もし間違っていたら貴様は今日の私の晩飯だぞ。」

「ひっ……」


 リリーの顔が引きつった。怯えている。何か可哀想になってきた。というか、それ以前にリリーは気付いていないのだろうか? こいつがスイリュウじゃないということに。


「おい、リリー。こいつはスイリュウじゃない。偽物だぞ。」

「えっ……偽物ですか?」

「貴様、何を言う! しかも人間ではないか! おい、リリー! 侵入者を見逃して、何をしている! 今すぐつまみ出せ!」


 スイリュウ(偽物)はわめきだした。五月蝿いな。セントグリフといい勝負だ。


「黙れ。無教養なモンスターが。」

「ぬっ?」

「お前、ブロッケンだろ?」


 そう、こいつは自らの姿を霧に投影し、自らの姿を変化させることであらゆる幻を見せられるブロッケンというモンスターだ。因みに、俺が気付いていた理由は勿論鑑定。


「人を騙すなら、相手の力量を見誤るな。鑑定眼があれば一発でバレるぞ。そもそも、纏っている雰囲気が龍族にしては弱すぎる。程度の低い幻だな。小物臭がする。それと、リリーに対する二人称がブレすぎだぞ。リリー、お前、貴様。呼称が揺れることくらいはあるだろうが、急に理由もなく、蔑称ともとれる『貴様』という二人称をダンジョンを任せていた部下に使うとは思えない。」

「ぬぐっ……」

「分かったか、リリー。こいつは……」


 俺がリリーの方へ振り返った瞬間、リリーが今までにない素早さで動いた。彼女の腕は普通なら触れることすらできないはずの霧状のブロッケンの首を締め上げている。彼女の細腕からは考えられない力が出ているようで、ブロッケンはもがいているが抜け出せそうにない。


「あんたねえ……私を騙そうとするなって何回言ったら分かるのよ! その頭は飾り? 大鋸屑でも詰まってるの?」

「うぐぐ……リリーさ……」

「黙れこのクズ! 能なし用なし悪知恵まみれ! 野生のオルカに追いかけられて逃げてこのダンジョンに入って来たあんたを配置するように進言してあげたのは私でしょ! なのにその恩も忘れて……今度私を騙したら最下層のボスのエサにしてやるからね!」

「ぬぐぐ……」

「分かったらとっとと失せろ!」

「うぐっ……」


 リリーがブロッケンの首に回していた腕を解くと、ブロッケンは呻きながら霧散して消えていった。


「ふう……リチャード様、大変お見苦しいものをお見せいたしました。申し訳ございません。」

「いや、あのくらい別に構わないが……リリー、あんなに速く動けたんだな。」

「え……私そんな速かったですか?」

「はい。今までとは比べものにならない程の速さでしたよ。それに、霧状の不定形モンスターであるブロッケンの首を素手で締め上げるなんて、私にはもちろん、ご主人様でもそう簡単にはできないですよ。どうやってやったんですか?」

「どうやって、と言われましても、私は普通に右腕に魔力を集中させてブロッケンを空間に固着化させただけなんですが……」


 リリーは何が凄いのかよく分かっていないようだが、十分に凄い事だ。何しろ、不定形魔法と違って不定形モンスターは意志を持っているから、固着化など普通はできない。


「お前、意外と強かったんだな。ダンジョンを任されるのも理解できる。」

「ふん、この我が直々にダンジョンの管理を任せたのだ。ブロッケンを固着化できぬ程弱い訳がなかろう。」


 急にテノールの声が聞こえた。声のした方を見ると、青い長髪の男が霧をかき分けながら現れた。先程のブロッケンと同じ姿だが、放っているプレッシャーも纏っている雰囲気も段違い。レッディルと同程度……いや、それ以上かもしれない。


「リリー、長い間ご苦労だったな。お前の主、スイリュウ・ウェット・ウォーターが帰還したぞ。」

「す、スイリュウ様……」

「うん? どうした? 我に会えなくて寂しかったのか? 可愛い奴だな、よしよし。」


 スイリュウであると思われる青い長髪の男はリリーの頭をワシワシと撫でた。リリーはほんにゃりと蕩けたような顔になると、スイリュウに抱き付いた。


「お帰りなさいませ、スイリュウ様~♡ このリリー、ご帰還をずっと心待ちにしておりました~♡」


 スイリュウはちょっと困ったような顔をしながらも嬉しそうだ。よっぽど仲がいいのかもしれない。


「ん、んんっ……突然ながら失礼。貴殿は誰であろうか? 人間でありながらその身に纏う強烈なる雰囲気と放たれる膨大な魔力、さぞ名の知れた御仁とお見受けする。リリーと共にいたことから【アトランティス】を害する意志はないと判断するが……」


 スイリュウの質問。そう聞かれるのももっともなので、俺は隠さずに答えた。


「自己紹介が送れたな。非礼を詫びよう。俺は【友好獣のダンジョン】ダンジョンマスターのリチャード・ルドルフ・イクスティンクだ。そしてこっちが……」

「【友好獣のダンジョン】サブマスター兼リチャード様の秘書であり従者であり彼女でもあるダンジョン付きの妖精、ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルトと申します。」

「おお、貴殿があの噂のダンジョンマスター、リチャード殿か。我はこの【アトランティス】のダンジョンマスターであるスイリュウ・ウェット・ウォーターと申す。同盟者として、以後よろしく頼む。」

「リチャードで良い。その代わり、こちらもスイリュウと呼ばせてもらうが。」


 俺の言葉にスイリュウは頷いた。


「まあ、こんなところで立ち話するようなものでもない。客人としてもてなそう。リリー、コントロールルーム直通の転移陣を出してくれ。」

「了解でぇす♡」


 リリーはスイリュウに抱き付いたまま、器用に片手で空中に転移陣を描くと、


「転移発動。識別番号、B25F0-RBFB-CR01-MIP!」


 リリーがいつもより長い識別番号を唱えると、魔法陣から青い光が溢れ出し、俺たちを包み込む。そして、俺たちはついにアトランティスのコントロールルームの様を目の当たりにするのだった。

 3か月以上もの間お待たせ致しまして、誠に申し訳ありません。

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