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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第7章:マスターと海

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125.天敵を放つ同族

「こちらが第8階層です……むしゃむしゃ……」


 第8階層、森エリア。転移して早々、リリーは周りに生えている草を食べ始めた。


「おい、何を食っている。お前は肉食じゃないのか?」

「私はシードッグじゃなくてセルキーですから……むしゃむしゃ……草だって食べますよ……むしゃむしゃ……今食べているこれは……むしゃむしゃ……体の痺れを治す効果がある薬草です……むしゃむしゃ……」

「まだスパークの後遺症があるのか……」


 少しやり過ぎたかな、と反省しているとティリが、


「ひ弱ですね。ついでに、ものを食べながら話すなんて行儀が悪いです。ダンジョンマスターの助手の風上にも置けません。困ったさんですね!」


 と痛烈に批判。


「うん、言っていることは合ってるが、そう言うティリもなかなか困ったさんだからな。嫌いになったり捨てたりはしないけど、俺に関わる女性全てに殺意を向けるのはやめてくれ。」

「むーん……ご主人様は私のご主人様なのに……」

「ティリのご主人様だからこそ、ティリの為に言ってるんだ。ティリだって殺人罪や殺亜人罪、恐喝罪や脅迫罪に問われるのは嫌だろう? それに、そうなったらティリのご主人様である俺も監督不行届きで罰を受けるんだ。まさかご主人様にそんな迷惑をかける妖精はいないよな?」


 俺のこのセリフに、ティリはハッとした顔になった。


「分かりました。殺意を向けることをやめることはできそうにありませんが、殺意の濃度を下げられるよう頑張ります。」

「まず殺意を向けることをやめてほしいが……まあ、すぐには無理だな。少しずつ改善していこうか。」


 俺はティリをナデナデする。ティリは瞬時にホワホワになった。可愛い。


「むしゃむしゃ……むしゃむしゃ……むしゃむしゃ……むしゃむしゃ……」


 一方、リリーはまだ草を食べている。一心不乱というのがピッタリの表現で、こっちには全く注意を向けていない。


「むしゃむしゃ……むしゃむしゃ……」

「おい、リリー。いつまで食ってるつもりだ。まだ痺れが抜けてないのか?」

「あと2枚か3枚で完全に抜けるので……むしゃむしゃ……ふう、やっと抜けきりました。」

「そんなにスパークが効いたのか? ほとんど魔力を込めてないんだが……」

「リチャード様の『魔力を込めてない』は常人にとって『込めすぎ』ですよ。水属性が電気放ったようなものです。同族に天敵をけしかけられたのと同じくらい酷くて……」

「天敵って……あの程度でかよ。お前、サンダークラッシュとか食らったら終わりじゃないか?」

「ご主人様、サンダークラッシュは同属性のドラゴンである雷龍種ですら感電させ墜落させることもある程強力な雷属性魔法です。例え水属性じゃなくても、ほとんどの生物が食らったらジ・エンドですよ。」

「リヴァイアサンは生きてたけどな……」

「アレは規格外モンスターですから、基準にしちゃダメです。」


 段々話が脱線し始めた。というより、もう話す必要もなさそうなので、そろそろこの階層の解説を頼もうかな、と考えていると……


 ――ゴウッ!


 突然、左斜め後ろから炎が燃え上がるような音がした。そちらを向くと、そこには俺に高速で迫る火球が。


「うおっ、危なっ!」


 俺は咄嗟に無詠唱で【アクアトピア】を放ち、火球を消す。そして、改めてそちらを見ると、そこには真っ赤な花を咲かせた草が1本。リリーをチラッと見ると、彼女は慌ててその草の元へ向かい、


「私がいるときは炎を出しちゃダメって言ったでしょ! 何回言えば分かるのよ!」


 と説教を始めた。草は茎をしおれさせる。何となく項垂れているように見えるな。


「今度私がいるときに炎を出したら、スイリュウ様に言いつけるからね! 摘み取られても文句言えないよ!」


 リリーはビシッと言い切ると、泣きそうな顔になって俺の足元にスライディング土下座を決めた。


「……何をしている?」

「お詫びです。」

「ほう、詫びることがあるのか。俺はてっきり、あの植物がたまたま炎を出して、それがたまたま俺の方に来ただけだと思っていたんだが、違ったのか。」

「え、あ、いや、その……」

「詫びを入れたということは、奴は俺に敵意を抱き、攻撃してきたということだな? お前はそれが分かっているから許しを請う為に土下座している、と。」

「お許しください……お願いします……」

「許すのは別に構わないんだが、お前はモンスターに慕われてなさ過ぎじゃないか? ティリなんかうちのモンスターに愚痴言ったり、背中で昼寝したり、めっちゃ仲良しなのに。」


 俺は疑問を呈する。うちのダンジョンでは俺の命令が無ければシルヴァやムラマサでもティリの指示に従っているからな。


「それは……何といいますか……」

「単純にモンスター望がないだけでしょう? というか、何でフレイムプランターすら従えられないんですか、情けない……」

「ティリ、あの赤い花を知ってるのか?」

「はい。あの花はフレイムプランター。植物系の低位に位置するモンスターで、所持スキルは【火球発射】。移動は不可能。炎に対する強い耐性を持っていますが、それ以外はイマイチで、進化するまであまり役に立ちません。その癖、火球は地味に温度が高いので、周囲の草木を焼いてしまったりする迷惑者です。森林保護管理組合とかからは目の敵にされてますね。何せ草木に対して天敵である炎を放つんですから。」

「火属性の植物系か。通常は弱点であるものを武器にするなんて、面白いモンスターもいるんだな。」

「このモンスターは同族の天敵って呼ばれてるんです。草木にとっては死活問題ですからね。森系のフィールドにこんなモンスターを設置するなんて……愚の骨頂としか言えません。」


 ティリの発言により、リリーがどよーんとした陰鬱な空気を放出し始めた。


「……ウザい、暗い、湿っぽい。ティリ、帰るぞ。俺はこういう空気は嫌いだ。」

「かしこまりました、ご主人様。」

「じゃあ、杖に触れてくれ。イースト、ノース、座標指定。ワー……」

「待ってください、リチャード様!」


 リリーがまたスライディング土下座を決めた。


「お前、わざと俺の機嫌を損ねようとしていないか? 何でも土下座すれば許される訳じゃない。特に今、俺はお前の出した暗い空気が嫌で帰ろうとしているんだ。土下座したらさらに空気が悪くなることくらい察しろ、この迷惑アザラシが。」

「うう……」

「俺がいつまでも仏だと思うなよ。今度こそ次はない。俺の機嫌を損ねたら即帰るからな。」

「ひっ……し、承知しました……以後留意します……」


 リリーはガタガタ震えている。暗闇で大量のエリートゴーストに出くわしたかのような顔で。怯え過ぎのような気がするが……


「ご主人様のお顔が完全に閻魔でしたから、このくらい怯えるのは当然ですよ。」

「ティリ、サラッと心を読まないでくれ。」


 俺はティリに対して一つ溜息を吐いてから、


「リリー、この階層にはフレイムプランターしかいないのか?」


 と聞いた。


「えと、ここから深さ75までは基本フレイムプランターのみです。とはいえフレイムプランターは動けないので、追撃用にポイズントードーも一応配置してありますが……お呼びしましょうか?」

「迷惑アザラシさん、呼んだら殺します。嫌がらせですか?」


 ティリの雰囲気が一気に変わる。やっぱりカエルに何かトラウマでもあるのだろうか?


「嫌がらせじゃないですよ。トードーは……」

「トードーの話はやめてください。私にとってアレは天敵なんですから。173年と5か月22日前に食べられかけてお気に入りのブーツを毒液で溶かされてから、アレは嫌いなんです。」


 わりとガチなトラウマがあった。確かに食われかけたりしたら嫌いになるよな。


「ご主人様、話を変えてください。」

「分かった。リリー、さっき深さ75までは、と言っていたってことは深さ76からは違うってことだよな?」

「はい、その通りです。森エリアであることに変わりはありませんが、フレイムプランター以上に植物に擬態が得意な植物系モンスターを3種類配置しています。」

「じゃあ、そっちへ案内してくれ。」

「承知しました。では、それに触れてください。」


 リリーが指し示したのは、何の変哲もない1本の木だった。特に変わった様子はなく、幹に魔法陣が刻まれている訳でもない。


「これでいいのか?」

「はい。同階層内なので、魔法陣を使用せずに移動できるようになっているんです。これは木っぽいですが、樹木ではなく簡易転移装置です。起動している状態で一定以上の魔力を注ぐと自らに接触している有機生命体を対応している転移装置の近くに飛ばす……」

「あー、説明は良い。早く転移したいからな。」


 これは本心だ。ここにいたらいつトードーが来るか分かったもんじゃない。


「わ、分かりました! 転移装置起動!」


 リリーが慌てたように言うと、転移装置が輝きだし、俺たちは光に呑み込まれるのだった。


 大変お待たせいたしました。何とか警告前ということで、お許しいただければ幸いです。

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