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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第7章:マスターと海

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123.気配なき角兎と毒ありし巨蛙

「ホーンラビット? そういえばそんな感じのこと言ってたような気がするが……どんな感じのモンスターだ?」


 俺は生憎とホーンラビットなるモンスターと遭遇したことが無いので、フォルムの想像もつかない。せいぜい角がある兎なんだろうな、と考えるのが精一杯だ。


「ご主人様、ホーンラビットはプレデターラビットと違って完全草食の一本角があるウサギです。体毛は茶色で、縄張り意識が強く、非常に好戦的で、敵と見なした者に突進してきます。刺される危険がありますね。ダンジョン内に住まわせるにはかなりのリスクがあり、集団戦闘にはこの上なく向かないモンスターとして有名です。そのくせ、個々の戦闘能力は低いので役に立ちません。飼い慣らしたりするとしても、ダンジョン外なら穀潰し、ダンジョン内なら無用の長物です。」

「随分とキツイ発言だな……まあ、ティリが言うならそうなんだろうが……」

「そんなことないですよ! 確かに戦闘能力は低いですけど、第4階層よりこの階層のほうが突破困難ですし!」

「あんなエビが喧嘩してるだけの階層より突破困難じゃない階層があったか? 第1階層はソードフィッシュがうようよいて意表を突かれる、第2階層は全身凶器の魚がうようよいて動き辛い、第3階層は大腿骨骨折レベルのパンチをしてくるカニが襲い掛かってくるから注意が必要、第5階層は戦意を喪失させる香りを放出する魚がいるから鼻呼吸してはいけない……その点、第4階層はエビが喧嘩しているだけだ。一見すると異質だが、邪魔してこないんだから避けて進むのはそれほど難しくないだろう。」

「うう……」

「それに、俺にはわかる。あの階層はスイリュウじゃなくてお前が作った、ってことがな。」


 俺がビシッと言い放つと、リリーは顔を引きつらせた。


「な、何でそれが……」

「スイリュウがあんな無駄な階層を作りそうにないからだ。第1も第2も第3も第5も、第4以外すべての階層が単純に見えつつもしっかりとした考えのもとで作られ、簡単な突破ができるように見えながらもそれぞれそれなりの防衛力がある。だが、第4にはそれがない。つまり、お前が無駄なことをした可能性が高い、という考えに至るのは当然だろう。」

「あの階層だって元はスイリュウ様の発案で……」

「元は、だろ? スイリュウが考えたことにお前がいらない協力をした結果、お前をあしらうのが面倒臭くなったスイリュウが、不本意ながらも仕方なくお前に丸投げしたのかもしれないじゃないか。」

「うう……スイリュウ様……」


 リリーがネガティブモードになった。しゃがみこんで地面にいくつも『の』の字を書き始める。


「なんかユリアみたいだな……」

「ご主人様、それはご主人様に纏わりつく五月蝿いハエという意味ですか?」

「ティリはユリアを敵視しすぎだ。【コンフォート】!」


 俺はティリを窘めつつ、リリーに魔法をかける。緑色の光が降り注ぎ、彼女の顔が安心したように緩んだ。


「で、この階層にいるのはホーンラビットだけなのか?」

「基本的にはホーンラビットだけです。」

「他に何がいる?」

「ポイズントードーが1つの深さにつき20匹ずつ配置されています。」

「ポイズントードー?」


 また聞き覚えの無いモンスターだ。


「ポイズントードーはでっかいカエルです。見る者全てに生理的嫌悪感を与えます。ついでに毒を持っています。私は極力近寄りたくないですね。周囲500m圏内にすらいて欲しくないです。」


 相変わらずティリが辛辣なコメントを飛ばす。これにもリリーが反応するか、と思ったのだが、リリーは、


「その点に関しては私も同意です。私もカエルは苦手なので……」

「お前、ゴカイとかミミズは食えるのにカエルは食えないのか?」

「ポイズントードーは別です! あんなの、舐めたら味蕾が麻痺するレベルの猛毒を体表から分泌してるんですよ! いくらダンジョン防衛戦力でも無理なものは無理です……あと、なんか見た目が気持ち悪いですし。」

「そんなん見る奴の主観だろ。でかいだけで別に怖くないじゃないか。」


 俺は足元にいつの間にか寄ってきていた紫色のカエルに視線を投じる。


「ひゃっ! そ、そんなところに!」


 ティリが飛び退った。俺の肩の上が一番のお気に入りで、寝ているとき以外はほぼそこにいるといっても過言ではないティリがその場を放棄してここまで怯えるとは……


「っ……!」


 ふと、人間として異様な声が聞こえたような気がしたのでそちらを見ると、リリーが泡を吹いて気絶していた。


「お前も不運だな。ポイズントードーなんかに生まれたばっかりにこんなに忌まれて。」


 俺はポイズントードーに憐憫の視線を向ける。すると彼……いや、彼女かもしれないが兎に角そのポイズントードーは背中に哀愁を漂わせながらピョンピョンと跳んで去っていった。すると、リリーが目を覚まし、


「この階層では、今のようにポイズントードーが見た目の不気味さで相手を気絶させ、その隙にホーンラビットが襲いかかる、という戦法で防衛しております!」


 とドヤ顔で説明。


「……お前、あいつらが嫌いなんじゃないのか?」

「ふふ、リチャード様は騙されたんですよ。私は別にポイズントードーは嫌いじゃありません。寧ろ仲良しです。全員集合!」


 リリーが叫ぶと、遥か彼方から紫色の集団様がいらっしゃった。


「ひいいいいいいいぃぃぃぃぃ!」


 ティリはそれを見て一気に震えると、集団様がいるのとは反対側へ飛んでいってしまった。ティリはミミズもゴカイも平気なのに、カエルは無理なのか。覚えておこう。


「この子たちは私の言うことをよく聞いてくれますし、この階層の防衛の要です。ホーンラビットはあくまで突撃要員なので、この子たちの立ち回りが大事なんですよ。縄張りに入らないとホーンラビットは出てきてくれませんし。」

「まさか、ホーンラビットと一切出会っていないのは……」

「ここら辺はホーンラビットの縄張りじゃないからです。ホーンラビットは私の言うことをあまり聞いてくれませんので、下手するとリチャード様に敵意を向けるかもしれなくて……私はまだ海の藻屑にはなりたくないので、今回は安全策を取らせて頂きました。」

「だからか。まあ、別に安全策を取るのは構わないが、できれば事前に断って欲しい。ダンジョン大絶滅でも起きたんじゃないかと思ったぞ。」


 ダンジョン大絶滅というのはダンジョン内である特定の種が突然何の前触れもなく死に絶えることだ。原因は不明で新種やアイテムレア進化種などには起きにくいとされるが、50年に1回くらいのペースで、どこかのダンジョンで起きているらしい。この前ティリが言っていた。


「説明が遅れて申し訳ありません。ホーンラビットにお会いになりたいですか? もしリチャード様に敵意を向けたとしても、私を海の藻屑に帰さないと仰るならお呼びしますが……」

「いや、いい。説明を受けた後だから敵意を向けられてもお前に攻撃はしないが、もしホーンラビットが攻撃してきたとしたら、反射的にそいつを俺が屠ってしまう危険性がある。それより次の階層を頼む。」


 リリーはあからさまにホッとしたような顔になった。やはり会わせたくなかったのだろう。まあ、俺がリリーに攻撃しないとしても、ティリが攻撃する可能性は0じゃないからな。


「では第7階層に向かいましょう。転移陣はそちらになります。次は飛行系のモンスターがいますので、転移陣は蒼です。」


 リリーの指さす先には、確かに蒼穹のように蒼い転移陣が。


「ティリ、もうトードーはいないから戻って来い。」


 俺がティリを呼ぶと、ティリはおっかなびっくりといった感じで戻ってきた。そして、俺の肩に座ると、首に顔を押し付けてきた。


「何も見えない、何も聞こえない……トードーはいない、トードーはいない……」


 なぜトードーにこれ程拒否反応を示すのか俺には理解不能だ。何かカエルにトラウマでもあるのだろうか?


「転移発動。目標、深さ61。識別番号、B6F1-RBFB-02。」


 何となく錯乱状態に陥っているようなティリをよそに、リリーは淡々と呪文を唱え、俺たちはアトランティス第7階層へと転移するのだった。

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