113.溶解能力の本領
「ギャオオオオオオー!」
リヴァイアサンが吼えながら口を大きく開けると、そこから大きな氷塊がまるでキャノン砲で撃たれたかのような速度でいくつも飛んで来た。
「剣術武技Lv39スキル、【インフィニティスラッシュ】!」
「拳術武技Lv5スキル、【かち割り】!」
「杖術武技Lv21スキル、【ショックアブソーブ】!」
俺たちは各々が得意な武技で氷塊を無力化すると、そのまま反撃に移る。
「【叩き込み】!」
まずリックさんが斬撃力を大きく上げる技能を使用。キラーソードをリヴァイアサンめがけて振り下ろし、それを防御する時に生まれるわずかな隙に、
「【オーラパンチ】!」
レオナルドさんが拳を叩き込む。そして、
「【アイアンニードル】!」
俺が金属属性の魔術で追撃。ダメージを通すことに成功した。だが……
「グワオオオオオオオー!」
奴はまだまだ元気なまま。700万もある体力を削り切るのは簡単なことではない。
「リチャード、どうにかならないか?」
リックさんがリヴァイアサンが飛ばしてくる無数の氷柱を剣の腹で叩き落としながら聞いてきた。
「どうにか、って言われましても……おっと、危ない。」
俺はリヴァイアサンの鉤爪による攻撃を躱しながら考えるが、どうすれば体力を削れるか思い浮かばない。そもそも、水や氷属性モンスターに対する攻撃は苦手とする地属性か同系の水、氷属性が定石なのだ。しかし、今俺たちがいるフィールドは海上の為、地属性で使える技が限られてくる。巨大な岩を飛ばす【ロックキャノン】くらいなら使えないこともないのだが、奴の強力な爪の前では無力だ。また、水属性無効と氷属性無効を持っているリヴァイアサンには【ゼロケルビン】ですら効果がない。もしかしたら凍るかもしれないが、ダメージが通らないのでは意味がない。あれは魔力消費量も結構高いしな。
「リチャードさん、何もダメージを加えられなくても動きを止めればいいのでは?」
リヴァイアサンに接近し、後頭部に拳を何発も打ち込んでいるレオナルドさんの言葉を聞いて、俺はハッとした。
「そうか、動きを止めれば攻撃当て放題。じゃあ闇属性とか拘束属性で……よし、【ダークマグネット】!」
俺は呪文を詠唱し、リヴァイアサンの動きを止めようとした。しかし、効果は一瞬動きを鈍らせた程度。B+ランクのモンスターの動きを封じられるこれでも、S+ランクモンスターに対しては弱すぎるらしい。
「なら……【バインドミスト】!」
今度は拘束の霧を放ってみる。しかしそれは奴に纏わりつく前に、
「ギャオオオオオオー!」
という咆哮1つで散り散りになってしまった。
「これもダメ……じゃあ、【ロープ・バインド】! 並びに【チェーン・バインド】!」
1つでは効果がないと考えた俺は、二重に拘束することにした。七星の宝石杖から飛び出した縄と鎖がリヴァイアサンに絡み付き、ギリギリと締め上げ始める。リヴァイアサンは何とか逃れようと暴れるが、俺の魔法はその程度で解けるほど柔ではない。それに、この2つは対象が暴れれば暴れるだけ拘束力が強くなるという特性がある。逃げようと暴れ続けた罪人を絞め殺してしまったことがある程の拘束力だし、絶対にちぎれないのだから、暴れても意味はない。墓穴を掘るだけだ。これで攻撃できる、と思ったその時。
――ブチブチッ! キィィィィィン!
何と、ちぎれないはずの縄と鎖を奴は無理やり引きちぎってしまった。
「そういえば、ドラゴン系は物理法則無視してるんだった……なら魔法法則も当然のように無視してくるよな……」
俺はこう呟く。すると、リヴァイアサンは動かない俺を対象に定めたらしく、大きく口を開けて俺に突撃してきた。喉の奥の奥まで丸見え。このままだと食い殺されるな。
「そんな見え見えの攻撃には当たらねえよ! 【ワープ】!」
俺は瞬間的に座標を指定して転移、リヴァイアサンの後ろに移動。そして、どんな拘束でも解除するなら、解除できない魔法で拘束すればいいと考え、その呪文を詠唱した。
「【サンダーバインド・モード・プリームム・セクンドゥム・テルティウム・クゥアルトゥム】!」
俺の呪文に呼応して、七星の宝石杖のタイガーアイが強い輝きを放つ。そして、そこから雷が幾筋も飛び出し、あっという間にリヴァイアサンに纏わりついた。奴はこれも振り払おうとするが、そうは問屋が卸さない。
――バチバチバチィッ!
「ギャオオオオオオー!」
絶叫。それも、今までの活力に溢れたものではなく、明らかに苦しみ、悶えている叫びだ。サンダーバインドは拘束されている対象が故意に触れると、その身に100万ボルトの電流がお見舞いされるという特性があるので、当然といえば当然なのだが。因みに、今回は1重のプリームム、2重のセクンドゥム、3重のテルティウム、4重のクゥアルトゥムの4つを重ね掛けしたので、流れたのも4つ分の400万ボルトだ。
「これは絶対に振り払われません! 押し切りましょう!」
俺はリックさんとレオナルドさんに叫ぶと、
「【アイアンプレス】! 並びに【サンダークラッシュ】!」
と続けざまに詠唱。すると、途端に巨大な鉄塊がリヴァイアサンの頭上に出現し、奴に圧し掛かった。そして、その鉄塊に雷が直撃。無論金属は電気を通すので、雷は勢いそのままにリヴァイアサンに強力な電流をお見舞いした。
「ギオオオオー!」
奴の悲鳴が響くが、まだ倒れていない。やはり強いな。だが、もうリックさんとレオナルドさんは準備万端だ。
「これで終わりだ! 【回転十字斬】!」
「拳術武技Lv17スキル、【クラッシュアッパー】!」
斬りかかるリックさんと殴りかかるレオナルドさん。高威力の技能と武技、これが決まればいくら奴でも耐えきれないだろう。そう、決まれば……
――ザバアアアアアアアー!
「何っ?」
リックさんが驚きに満ちた声をあげる。無理もない。リヴァイアサンの巨体が突然水に変化し、崩れ落ちたのだから。
「まさか、リチャードの雷で既に息絶えて……」
リックさんがそう呟いた時、レオナルドさんが、
「危ないです、リック氏! 拳術武技Lv9スキル、【ショックパンチ】!」
と叫んで、リックさんに向け拳を突き出した。すると、その拳から衝撃波が飛び出し、リックさんを直撃。リックさんは5m程吹き飛んだ。そして、その数瞬後。
――ザバアアアアアアアー!
リヴァイアサンが再び姿を現し、先程までリックさんがいた空間に噛み付いた。牙がカチッと音を立てる。さっきのレオナルドさんが咄嗟に放った武技、あれがあと少しでも遅かったら、リックさんは今頃奴の腹の中か、上半身と下半身をお別れさせているかだろう。
「すみません、リック氏。あのままではやられると思ったので、つい……」
「いや、おかげで助かった。しかし、一体なぜ奴は……」
「溶解、ですよ。奴のスキルのうちの1つで、効果は自らの身体を一時的に水にできる、です。」
俺は苦虫を噛み潰したような顔で忌々しげにこう吐き捨てる。
「そんな能力があるのか……」
「はい。能力を確認したのに伝えていなかった俺のミスです。基本ソロ戦闘しかしていなかったので……」
「いや、謝る必要はない。あの状況で伝えるのは不可能だ。だが、能力の把握は【鑑定眼】を持つお前しかできないから厳しいな……」
「あ、それなら大丈夫です。【メモリープラス】!」
俺は付与属性魔法の呪文を唱えてリックさんとレオナルドさんにリヴァイアサンの能力やステータス値を送り込んだ。
「相変わらず規格外だな、お前は。こんなことまでできるとは。」
「助かります、リチャードさん。能力が分かれば対策も立てられますし。」
「そうですね。じゃあ反撃開始と行きましょうか!」
俺たちは互いに頷き合うと、リヴァイアサンを睨みつけるのだった。




