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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第6章:マスターと冒険者②

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side ??? 魂の禁術と腹心の気苦労

「其は生者に扱えぬもの、死者にも扱えぬもの。夜より昏き闇の黒、何色にも染まらぬ深淵の色。その中に漂いし光、抱きたる……」


 モータント大陸のドラコ山麓に存在するダンジョン、【ドラゴンの巣窟】。そこにある墓場の最奥で、ダンジョンマスターのリーン・クレイティブ・カールは分厚い魔導書を開いていた。周囲は漆黒の闇に包まれているが、そんなことは意に介さず、彼女は最小限の光で魔導書のページを照らしながらそこに書かれている古代の魔界文字を朗読するように声に出している。


「魂の放ちし穢れなき輝き……その光を我がもとに……」


 彼女は朗々と読み続け、遂にそのページの魔界文字を読み終えようとした、その時だった。


『やめよ、主!』


 何者かの切羽詰まったような声が墓場に響いた。リーンはビクッと体を震わせ、その拍子に魔導書を取り落とす。すると、そこへ紅蓮の炎が襲いかかって来た。それは魔導書とリーンを包み込み、魔導書を灰に変える。


「……レッディル、いくらなんでもいきなりフレイムブレスを浴びせるのはやりすぎでは? 私が死んだらどうする気です?」


 リーンは面倒臭そうに自らを包み込んでいる炎を掻き消すと、その炎を放った張本人、レッドワイヴァーンのレッディルにこう声をかけた。服と髪が少し焦げてはいるものの、肉体にダメージは通っていない。


『この程度の炎で主が死ぬわけがなかろう。そもそも、主が危険な行動をするから我が実力行使せざるを得なくなるのだ。理解せんのか?』

「あなたは聡すぎるんです。ダンジョン内でも訓練場でもコントロールルームでもあなたに邪魔されるから気取られないように念を入れて墓場の奥で読んでいたっていうのに……今回もバレましたか……」


 チッと舌打ちをするリーン。


『舌打ちをするな、主よ。仮にも女子おなごであろう?』

「仮にも、ではなく正真正銘女子です。それより、何で気付いたんですか?」

『カースが騒いでおった故、念の為にサブマスター権限を行使して主を探したところ、墓場の奥で何やらブツブツ言っているのを見つけたのだ。』

「カースドラゴンですか。呪魔力の使用と察知能力に特化した彼らを深い階層に配置したのは失敗だったかもしれません。カースが騒がなければ今度こそ成功していたはずなのに……」

『少しは反省する意志を見せたらどうなのだ。これで12度目だぞ、主が【暗黒魔法】の魔導書、それも禁術の欄を読もうとするのは……』


 レッディルは呆れ気味に嘆息する。その息には隠し切れない怒気による炎も混じっていた。


「なぜそんなに怒っているのですか、レッディル? もういい加減諦めたらどうです?」

『諦めるのは主の方だ。』

「私は諦めませんよ。何が起ころうとも、絶対に。あなたに気取られぬように、細心の注意を払って、絶対に禁術を完成させて見せます。」

『その精神力を他のことに使えんのか、主は……まあ、それは兎も角、我も諦めるつもりはない。何度でも邪魔をし続ける。主が諦める、その時までな。』

「しつこいですよ、レッディル。兄上を復活させる禁術の研究をすることが、そんなにいけないことなのですか?」


 そう、リーンが暗黒魔法の禁術研究をしているのは、最愛の兄、セントグリフ・クレイティブ・カールを復活させる為なのだ。


『何度も言っているが、暗黒魔法は使用者の身体を蝕む。カースが良い例だろう。呪を使い過ぎた奴らはマミーやゾンビのようなアンデッド系の姿ではないか。』

「私はそうなるつもりはありません。」

『依存度を下げるのではなかったのか、主よ。我に嘘を吐いた、と?』

「別に嘘は言っていませんよ。現に、1日の墓場へ来る頻度を半分に減らしたじゃありませんか。」

『50回から25回に、だな。だがその分セントグリフ殿の墓石前の滞在時間が長くなっている。結果としては寧ろ墓に対する使用時間が増えているぞ。依存度は下がっているのかもしれんが、執着率が上がっているのではないか?』

「確たる証拠でもあるのですか?」

『最近、セントグリフ殿の墓石の前で寝ているだろう?』

「なっ……の、覗いていたのですか? 乙女の就寝を?」

『主の口から乙女などという言葉が出るとはなかなかなサプライズだな。』


 レッディルのこの言葉を聞いて、リーンの顔は羞恥と怒りにより真っ赤に染まった。


「マナー違反ですよ、レッディル! 死にたいのですか、否、死にたいのですね。」

『殺したければ殺せばいい。もっとも、我が死ねばこのダンジョンの崩壊は早まるだろうから、セントグリフ殿は主に愛想を尽かし、死後の世界でも会おうとしないだろう。その前に、今の情緒不安定な主に我を殺すことなどできないだろうが。』

「……私のどこが情緒不安定だと?」

『その怒りようが何よりも表しているではないか。感情を持つ生物は図星をさされると怒る。我の予測が見当違いであれば余裕で笑い飛ばしたり、対抗策を講じられるのだからな。』

「……レッディル、最近あなたの聡さは上昇していませんか?」

『そんなことは知らん。そんなことを考えている暇があるなら、ダンジョンの強化法でも考えよ。』

「ダンジョンモンスターのあなたがこのダンジョンの主たる私に指示とは……」


 リーンはぶつぶつ言いながらもコントロールルームへ戻り、ダンジョン整備を始めた。そのムスッとした顔を見て、レッディルは大袈裟に嘆息するのだった。



「其は生者に扱えぬもの、死者にも扱えぬもの。夜より昏き闇の黒、何色にも染まらぬ深淵の色。その中に漂いし光、抱きたる……」


 2週間後。モータント大陸のドラコ山麓に存在するダンジョン、【ドラゴンの巣窟】。そこにある墓場の最奥で、ダンジョンマスターのリーン・クレイティブ・カールは分厚い魔導書を開いていた。周囲は漆黒の闇に包まれているが、そんなことは意に介さず、彼女は最小限の光で魔導書のページを照らしながらそこに書かれている古代の魔界文字を朗読するように声に出している。


「魂の放ちし穢れなき輝き……その光を我がもとに……」

『やめよ、主!』


 叫び、リーンもろとも魔導書を炎で包み、暗黒の魔導書を灰燼に帰すレッディル。彼の気苦労は絶えないのだった……


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